051.約束と保証
「なんと、殿下が婚約……突然の発表には驚きましたが、まずはおめでとうございます!」
「おめでとうございます! まさに美男美女のカップル、とてもお似合いかと!」
フランツの別邸内に設けられた、ファッションショー関係者を慰労するパーティ会場内に祝福の歓声と拍手が鳴り響く。
それは、フランツがソフィアとワルツを踊った直後に彼女の意思を無視して一方的に行った婚約宣言への出席者たちによる反応であった。
強引に抱き寄せられつつも身をよじらせて逃れようとするソフィアは、同時にフランツへ強い言葉を投げつけ抗議の意思を示す。
「……どういうつもりですか。私は貴方と……殿下と婚約など、ましてや生涯を共にするなどとはこれっぽっちも考えていませんよ?」
「本当にそうなのか? その割には、先程のワルツで俺様にその身を預けて一心不乱に踊り続けて、フィニッシュの直後は恍惚とした表情で顔を眺めていたではないか」
「そ、それは……あくまでワルツの、踊りの出来がお互いに素晴らしいものでしたので。ダンスパートナーとしての反応で、好意とは異なります」
「ふん……だが即興のワルツでこれだけの相性の良さ。人生においても同じく最高のパートナーとなる……いずれはそうなると思わないか?」
「……思いません。それに私には」
「タツロウなら……今頃、俺様の配下が捕捉しているはずだ。首都ウェーインでな……」
「……タツロウはこの領内にはいません。勘違いではありませんか?」
「この期に及んでしらを切るか。俺様はこの目で見たのだ、ザクツブルクの別邸に侵入した輩の顔を。見間違えるはずがない、かつて俺様に恥をかかせた男の顔をな……!」
「……」
「どういう経緯でそうなったのは知らんが、ヤツがヴィルヘルムの……フランケンブルク辺境伯嫡男の手下として当地に訪れた、ということも分かっている」
「……私も彼のお仕事については詳しく知りません。ですが、そうと知りながらヴィルヘルム様の部下を拘束すると仰るのですか?」
「恐らくヤツは例の件の調査に訪れたはず……まあいずれ分かってしまうことだが、もうしばらく時間稼ぎする必要があるのでな。このままヤツとその仲間には……」
「……まさか」
「だが、お前の返答次第ではその身を助けてやらんこともない」
「……タツロウは、貴方に……貴方の配下などに屈したりはしません。必ず目的を果たして私の元に駆けつけてくれます」
「そこまで信頼しているとは。ならばこうしよう。もしも……本当にもしもだが、タツロウが俺様の前に姿を現したなら、この婚約宣言は茶番であったと世間に宣言しなおしてヤツにお前を返そう」
「……貴方との約束など、守られる保証がありません」
「タツロウが配下に拘束されなかった時点で俺様は終わりだ。オヤジ……大公殿下は事態を収めるために俺様を切り捨てるだろうからな」
「……で、それまでは私に婚約者のフリを続けろと」
「相変わらず察しが早い。お前は本当に俺様を飽きさせない女だ……その代わり、タツロウたちを拘束しても始末せず閉じ込めておくように、とあとで指示を送る」
「必ず、それはお願いします」
「殿下ー! その、仲が良いのはよろしいのですが、我々の目の前でそのように睦まじく語り合うのは、こちらが気恥ずかくなると言いますか」
「ああ、済まない。ソフィアは横に並んで」
「……はい」
「ところで殿下……差し出がましいようですが、大公の嫡男ともあろうお方が下級貴族のモデルをお相手に選ぶというのは……貴賤結婚となってしまいます」
「それがどうした?」
「えっ?」
「そもそも、俺様自身が妾……側室の子だ。兄上……正室の長男が若くして亡くなった時点で、男子は俺様を筆頭に側室の子しかいない。そして我が母上の身分は……貴殿もご存知なのだろう?」
「……はい」
「ならば今さら気にするまでもないことだ。今や我が大公家は最高の爵位と経済力を兼ね備えた帝国内屈指の有力貴族。つまらぬ風評など力でねじ伏せればいい」
「御意にございます」
「そうだ、先に言っておくが……ソフィアは婚約者なれど、ファッションウィークの最終地点である首都ウェーインまではモデルとして活動を継続する。正式な手続きはその後……それまではあくまで仮だ」
「いえ、仮とは言えやはりおめでたい……ここは改めて祝意の乾杯を!」
「そうだな……では乾杯!」
ソフィアはタツロウの身を守るためにフランツの要求に従うことにした……しかしその心は常にタツロウを信じて待っている。
いつも読んでいただいてありがとうございます
次の更新は3月15日(日)の予定です
よろしくお願いします




