047.事態急変
「実はバズールと、このシャツハウゼンで同時にファッションショーを開催する準備を始めている。ソフィア、お前にはバズール側に出演してもらいたい」
フランツが話した突然の2箇所同時開催という説明に、ソフィアは意表を突かれて頭の回転が追いつかず何と答えるべきか戸惑う。
しかし聞かねばならないことを徐々に整理して、意味を取り違えないようにとしっかりとした発音で問いかける。
「……まず、なぜバズールなのですか? ここから近いとはいえ、その必然性が不明です」
「先ほど話したショーの実行委員会……その中にバズールを主な地元としている有力貴族がいてな。もちろん委員会の中でも有力なメンバーの一人……ぶっちゃけ言えばソイツの要望だ」
「……つまり、本来はショーを開催する予定がなかった地元での開催を条件に、ギーゼラの件は目を瞑ると」
「さすがは察しが早くて助かる。元々、バズールでの開催希望は出ていたのだが、ここから距離が近いのと日程の関係で立ち消えになっていた案だ」
「……同時開催といってもモデルとデザイナー、スタッフを今から分けるのですか?」
「完全に2分するわけではない。主に、我がブランド配下のデザイナーの衣装と中堅格のモデルだけに絞る予定だ。まあ、さっき話した有力貴族のメンツが最低限保てる程度に留める」
「ですがシャツハウゼンの有力者からクレームが出るのではありませんか?」
「シャツハウゼンは帝国唯一の滝を有する観光地だが、バズールはその下流……大型旅客船や貨物船の遡上限界点の地で、滝へ向かう観光クルーズ船の拠点となっている。つまり両者は古くから持ちつ持たれつの関係、というわけだ」
「……なぜ、私なのですか? 集客という点では私より格上のモデルの方のほうが良いのでは?」
「さすがにそこまでやるとシャツハウゼン側のメンツが丸潰れだ。しかしバズール側もショーの『目玉』は欲しい……そこで新人ながら既に人気モデルのソフィア、お前に白羽の矢が立った」
「……殿下はどちらに参加なされるおつもりですか?」
この質問にフランツは口角を僅かに上げてからスラスラと答える……その意味を理解したうえで、それをあえて正面から答えない回答を。
「バズールへの旅程は弾丸ツアーに近いものになる。明日朝イチで出発して夕暮れ前に到着……そして翌日は午前中に打ち合わせ、午後からショーが開幕する」
「……」
「終了後は地元有力者を招いての懇親会……さらに翌朝には次の巡業先へと出発し、途中の宿泊地で合流……以上だ。これを実現するための各種手配や設営などの調整役として、俺様を上回る適任者がいるとは思えんが」
「……全ての質問に丁寧に回答していただいてありがとうございます。納得いたしました」
「では、明日朝までに用意を済ませておけ。手配した馬車を宿の前に迎えに行かせる」
「そ、それならウチもついて行くよ!」
話に突然割って入ろうとするギーゼラ。しかしフランツは呆れたとばかりに冷たい視線を向け、低いトーンで言葉を突き刺す。
「……ギーゼラ。お前はさっきまでの話を何も理解していないらしい」
「ちゃ、ちゃんと聞いてたよ! バズールに行かないといけない理由とか」
「そうではない。お前はいったい何を出品するつもりなのだ?」
「……あっ」
「『模倣』と判定されたものをもう一度出せば……それこそ言い訳は誰も聞かない。だが俺様はお前を憐れんでチャンスを与えた。もう一度最初のデザイン通りにイチから仕立て直すチャンスを」
「……だけどそれならバズールでもできるだろ!」
「残念だが急な設営ゆえにそのような設備は用意していない。せいぜい着合わせで手直しする程度に必要なものだけだ」
「くっ……」
「言っておくがお前に課せられた期日は、次の巡業先でショーが開幕する日……それに間に合わなければ、もう誰もお前をデザイナーとして起用しないだろう。それでもバズールへの移動時間は惜しくないのか?」
「あの。明日は私だけで参りますから、これ以上は」
「フン。ギーゼラ、ソフィアの採寸をさっさと済ませて宿舎に帰してやれ。明日の準備に差し障りがないように……では失礼する」
フランツはいつものように気忙しくスタスタと去っていく。
残された二人はなんとなく顔を合わせづらい雰囲気となるが、ギーゼラは黙っている自分が嫌になって絞り出すように話しかける。
「……ゴメン、ソフィア。ウチのせいで」
「ギーゼラのせいではありません。元はと言えば衣装を破損した犯人が悪いのです」
「だけど、ウチが軽率なことしでかしたばかりに……ねえ、ウチはどうなってもいいから、さっきの話を断りなよ!」
「……そうは言っても、これもお仕事ですから。殿下のご説明に問題が見当たらない以上は断る理由がありません」
「でも、ソフィアをウチやヒルデ姉さんと引き離すなんて……全部実行委員会のせいにしてたけど、あの男が何も企んでないとは思えない!」
「あの説明通りの日程では、何か企んでも実行に移す暇があるとは思えません」
「だけどあの男なら夜中でも何を仕掛けてくるか……!」
「……例え何時でも、いざとなれば護身術で返り討ちにするだけです。この前の件では殿下が受け身を取るというのは想定外でしたので……次は容赦しません」
「でも、でも」
「本当に私のことは大丈夫ですから。それよりも採寸を済ませましょう。ギーゼラが新しく仕立てる衣装に袖を通すのが楽しみで仕方がないのです」
「グスン……わかった。ウチはウチができることを果たすよ」
◇
「タツロウ! コイツはいったい何なんだよ!?」
「落ち着けロベルト……旅の途中の宿場町で入ったボッタクリ酒場の店員だ。どうやらオレのことを逆恨みして追いかけてきたらしい」
「クックック。確かにそれもあるが……それ以外の目的もあるんだぜ、タコスケが!」
タコタコうるせえなタコ野郎が。というかよく考えたら……。
「おい! お前、どうやってここまで逃げてきたんだ? 店に捜査の手が入ったはずだぞ」
「確かに一時拘束されたが、俺はフランツの旦那から身分証と通行証を発行してもらってる……それを見せたらご丁寧に町の外まで見送ってくれたぜ。まあ現地雇いの支配人と店員たちにあとはお任せだ」
支配人たちは最初から切り捨て要員として雇ったらしい。で、コイツは要するに追放されたわけだ。
しかし他の目的とはいったい。
「おぉ〜。どうやら釣り針に引っ掛かったらしいな、獲物が3匹もよぉ〜、へっへっへ!」
奥の路地裏から男の声……そこから現れたのは大柄で筋肉質の、そして右腕が肘の先から見当たらない不気味なタンクトップ男だった。
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