表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
名ばかり皇帝の跡継ぎに転生したけど没落したのでイチから成り上がることにした  作者: ウエス 端
新章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/49

041.迷いと心配

「ふぁ〜。眠い〜!」


 オレは結局、ほとんど眠ることができないまま朝を迎えた。


 昨日の夜の出来事はオレの心をストレスで埋め尽くすのに十分だった。


 ソフィアとギーゼラは無事に宿舎へと戻れたのだろうか。


 オレが街へと戻る道筋で彼女たちの姿を見かけることはなかったから、大丈夫だとは思うけど……。


 それとフランツの野郎だが。


 あの場では気絶させたけど、ソフィアたちにまた何か強引なことを仕掛けたりしないだろうか?


 なんせ、ヤツがこのオルストレリア大公領内で催されるファッションウィークにおける主催者だとギーゼラから聞いたので……。


 それにしても、思い返しただけでまたフランツへの怒りが湧いてくる。


 ヤツはソフィアに対して、未遂とはいえ酷いことをしようと企み……しかも主催者の立場を存分に悪用したやり方だったのだ。


 主催者からデザイナーとの着合わせを指示されればモデルが断るなんて出来るわけない。


 セクハラどころの話じゃねえぞ……。


 クソッ。別邸の守衛や警備員たちに追い回されてなければ、二度とそんなことをする気力が無くなるくらいにボコボコにしてやったのに。


 と、頭の中であーだこーだと考えを巡らせつつも時折あくびが出るオレに不安を持ったのか、ロベルトが怪訝な表情を見せて問いただしてきた。


「おい、そんなんで出発できるのかタツロウ!? 遅くても昼前には移動し始めないと、今日じゅうに次の都市へ到着できないぞ!」


「ああ、わかってる。ちょっとベッドの中で考え事してただけだ。ふあ〜っ!」


「もしかしてソフィアさんに関することじゃないのか?」


 うっ……なかなか勘が鋭い。


 だが昨日の件をそのまま……少なくともソフィアの許可なしにベラベラと喋るわけにはいかない。


「じ、実はそうなんだよ。昨日の夜、街中でウロウロしてたらさあ。今日の午後からこのザクツブルクの多目的ホールでファッションショーが開催されるって情報を小耳に挟んじゃって」


「やっぱりそういうことか。で、お前はそれを見に行きたいってずっと悩んでたってか」


「うん、まあその」


「だけどなあ。俺たちは遊びに来てるわけじゃなくて……音信不通の商館長の現況を確かめるって重要な任務の最中なんだぞ?」


「ああ、そうだな」


「ヴィルヘルムさんからは、あくまで『任務の合間になら見に行ってもいい』って許可だったよなあ?」


「そ、それはわかってるんだけど」


「予定よりは前倒しでここに到着したとはいえ、次への移動も任務の内……合間じゃ無いと俺は思うんだが」


「なんだなんだ? 珍しくタツロウがロベルトの説教をおとなしく聞いてるなんて、雷でも降ってこなけりゃいいけど」


「ああ、アルヌルフさん。実はコイツさあ」


 それからロベルトとアルヌルフであーだこーだと話し合って、やがて2人はオレを見下ろしながらアルヌルフから話を切り出した。


「タツロウ! おれはこのチームを預かる副団長として申し渡すぅ!」


「あ、ああ」


 これはもうダメだ……せめてソフィアが無事であることを確認したかっただけなのに……と唇を噛んで俯いているオレに、ヤツは落ち着いた抑揚で言い放つ。


「ソフィアちゃんのファッションショー……別に見に行っても構わんと、おれは思うよ」


「クソッ、やっぱりダメ……へっ!?」


「だからぁ、午後から見に行ってこいよ」


「俺も実はそう思ってたんだが、一応は名ばかりでもアルヌルフさんは副団長だからさあ。決めてもらえれば俺は責任を回避できるからね」


「……ホントに、いいのか……?」


「おうともさ」

「ウジウジ悩むタツロウなんて使い物にならんしな」


 こ、こんなことって、あっていいのだろうか?


 オレは、この2人を今まで誤解しまくっていたようだ。


 オレが真剣に悩んでいる時に、何も言わずに快く了解してくれるなんて……。


 2人の思いはガッシリ受け止めさせてもらった。ならば、オレもそれに応えねばなるまい。


「ありがとよ、アルヌルフさん、ロベルト。お礼に今日、アンタらがソフィアに会えるように掛け合うから」


「いや、それには及ばぬ」

「俺たちは遠慮しておくよ」


 お、お前ら……そこまでオレとソフィアに気を配ってくれるなんて。こんな仲間たちに恵まれてオレは幸せ者だぁ……と一瞬でも考えたオレは、やっぱり大馬鹿者であった。


「今日みたいに慌ただしい日に、それこそ『一瞬だけ』会わせてもらってもねえ……ぬふふふ!」


「そうそう。どうせなら早いところ任務を終わらせて、それからじっくり会わせてもらえれば、俺ならば……クククッ!」


 こ、コイツら……まあこんなことだろうと思ったぜ。


 それにしてもオレの企み……もとい対処方針をまさか見破っているというのか。それなら余計に会わせられるかってんだ!


「あーそうかい。じゃあ遠慮なくオレ一人で行かせてもらうぜ〜!?」


「どうぞどうぞ。俺たちはこのあと早速、のんびりと次の目的地に向かうから」


「タツロウのペースに合わせるの疲れるんだよな。あっ、見終わったらすぐに追いかけてこいよな。宿の門限に間に合わなけりゃ野宿してもらうから、ぬふふ!」


 ちくしょう、そういうことかよ!


 わかったよ! あとで全速力で追いかけて途中で追い抜いてやらあ!


 とオレは憤りつつも、それでも一応は心の中でアイツらに礼を言っておいた。



 オレはロベルトたちを見送ったあと、しばらく喫茶店やら街中の散策やらで時間を潰しつつ、ファッションショーが開催される時間を待つ。


 街中では一応、あまり多くない荷物の中から顔を隠せる大きさのタオルを出して頭巾代わりにかぶっている。


 フランツとヤツの別邸で遭遇したあの時、咄嗟に腕で顔を隠したとはいえ、見ようによってはすぐわかるだろうし。何よりもソフィアのピンチに駆けつけたって時点で……。


 だからフランツが手下を使ってオレのことを探し回っている危険はつきまとう。


 まあ、それを言ったら会場の多目的ホールに入れるかも不安だが。


 そんなこんなでウロウロしている間に開演時間が迫ってきた。


 そして会場の多目的ホールの入口までたどり着いた……けど、どうしようかとまた悩むのだが。


「今日のファッションショー、ソフィアさんも出演するんだって〜!」

「あたし、ヒルデさんのファンだけど……それは楽しみね。あのコお人形さんみたいにキレイだし〜!」


 オレの横を通り過ぎていった女性たちが、何気なくソフィアのことを話題にしているのが聞こえてきた。


 それにしても、こんなに人気があるモデルが自分の彼女だなんて。なんかマンガの世界に入り込んだみたいな気分だぜ。


 そしてソフィアの出演が話題になっているってことは……彼女は無事に帰り着いたと考えていいってことだ。


 そうとわかれば迷うのを終わりにして入ろう。それに入口で頭巾をかぶった男がウロウロしてるほうがかえって挙動不審だし。


 エイッ! と意を決して入ったエントランスの奥に受付が見えるのでスタスタと歩いていく。


「あの、チケットは無くて当日の入場なんですけど」


 まあ、今からでは座席確保は難しいだろうから、立ち見スペースで見ることになる……というかやっぱりそうなった。


 ちゃんと見えるかなあ。


 いやでも、この方が目立たないから都合がいいかも。


 だけどソフィアに気づいてもらえなかったら悲しいなあ。


 などと考えながらホールの扉をくぐると、既に会場内は観客でいっぱいであった。


 座席はもちろん空席なんてなく、立ち見スペースも沢山の観客が足場もないくらいにひしめき合っている。


 女性客が多いから、痴漢とかに間違われないように立ち位置に気をつけて……なんとかランウェイの一部が見えて周囲との接触も避けられる場所を確保する。


 そうして華やかな開幕の挨拶に続いて、いよいよモデルたちが衣装に身を包んでランウェイを歩きだす……!


「キャーッ! ヒルデさんカッコいい〜!」


 その一番手はヒルデだ。


 普段は姉御肌できっぷの良いお姉さんだが、トップモデルの一人としてショーの間は衣装をより良く見せる歩き方に徹している。


 ファンからの声援もいきなり会場内最大値って感じだ。


 そうして何人かオレの前を通り過ぎたところで……。


「ソフィアさまーっ!」

「こっち向いてー! きゃーっ!」


 ヒルデの時と遜色ない声援が聞こえてきて。


 それから間もなくして、目の前をソフィアが颯爽と通り過ぎていく。


 もちろんショーの最中だし、そもそもオレがいる場所なんてわからないだろうからこちらを向いたりなんてしないけど。


 少なくとも見える限りでは、昨日の事など無かったかのように元気な姿だった。


 それから何回も彼女が行ったり来たりするのを垣間見ることができて、これで十分に安心できた。


 まあ、着ている服についてはファッションに疎いオレでは理解できない部分もあるが……やっぱり何を着ても似合うのがソフィアなのだ。


 そういえばフランツの野郎は……。


 見つけた。


 ランウェイを囲む席ではなく、ホールを全体的に見下ろせる最上階の部屋の中に。


 ガラス張りなので中がチラッと見えるのだが、調度品は恐らく最高級品のものばかりで、いわゆる貴賓室ってやつだろう。


 そしてフランツ自身もブランド物の高級スーツに身を包み、髪は1本も垂れ下がることなくビシッとオールバックにキメている。


 同じく中から眺めているオッサンオバサンたち……もとい、恐らくは領内の有力貴族やスポンサーの金持ち商人たちの姿も見える。


 そいつらと談笑していて、それこそ立ち見スペースまで気にしている余裕は無さそうだ。


 まあ、あれなら少なくとも今日はソフィアとギーゼラにちょっかいは出せないはず。


 ショーの終了後も挨拶やらパーティやらで忙しいだろうし、何よりも人目が多い。


 そしてもう最後の周回……というところで。


 ランウェイを通り過ぎていくソフィアの目が一瞬だけオレの方を向いて、口元が僅かに動いた……気がする。


 いやいや、さすがに距離があるし前に立つ観客たちも多いから、単なる気のせいだろう。


 まあそれはともかく、オレは会場を出てすぐに頭巾を外して街道に出ると。


「うおおおおーっ!!」


 そこから東へ向かって、気合を入れて本気で走り出す。


 このあと、ソフィアたちはオレたちとは逆の方向へと巡業するらしいので、やっぱり心配ではあるのだが。


 だからこそ一刻も早く任務を終えてソフィアの元に駆けつけたい。

いつも読んでいただいてありがとうございます

次の更新は1月1日(木)の予定です

よろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ