036.任意同行……?
「タツロウ・タカツキー、だな。大人しく我々に同行してもらおうか」
フランツの関与が疑われるボッタクリ酒場での一件から一夜明け、朝食を済ませて今日の旅の計画を話し合い、ボチボチとこの宿場町から出発しようかと思い始めた矢先だった。
町を守る衛兵の小隊……といっても10名程度だけど、オレたちが泊まっていた宿を出たところで待ち構えていたのだ。
どうやって突き止めたのか知らんけど……いや、本当のことを言えばあり得るかもなとは思っていた。
もしもボッタクリ酒場の前で出会ったパンツ姿のあのオッサンの話が本当ならば。酒場の支配人は真っ先に町の有力者とやらへ話を持っていくだろう。
今はそれが現実であったことが確定したのと、衛兵部隊を動かせるだけの力を持っているのが確認できたというわけだ。
まあ、嘆かわしいことなんだけどさ。
それにしてもパンツのオッサン、結局上着を返しに来なかった。一張羅だからあれしか無いのに……もしかして他に着替えを持たずに旅をしているとか。それならまあしゃあないか。
仕方がない、旅の途中で新しいのを買おう。それも出張経費として落としてもらえるのかなあ。ヴィルヘルムは認めてくれるかもだが、コンラートさんの査定は厳しいから……。
などと考えていたら後ろの2人から呆れたような声が聞こえてきた。
「タツロウ! 昨晩は一人で酒場に行ったって聞いたけど、いったい何やらかしたんだ? 酔っ払いと喧嘩して怪我でもさせたんじゃ……素人相手に本気出すなよ」
「オレは『素人』相手に喧嘩なんてしてないし、そもそも一切手を出してねえよ、ロベルト」
「それともまさか! 酒場の歌姫に言い寄って、挙句の果てにストーカー行為やらかしたか!?」
それはアンタのことだろアルヌルフ……と言いかけたところで衛兵の隊長らしき男から強い口調で最後の通告がなされた。
「もう一度だけ言う。大人しく同行すれば良し……さもなくば不本意ながら『強制力』を発動せざるを得なくなる」
そう来たか。だけど、ハイそうですかって素直に従うのもねえ。もう少し粘ってみよう。
「そこまでするっていうんならよぉ。いったい何の用件でオレを拘束しようってのか、それを聞かせてくれよ」
「商店街の外れにある酒場から訴えがあったのだ。『タツロウという旅行者の男が飲食代金を踏み倒し、あまつさえ引き止めようとした店員数名を殴り倒して立ち去った』と」
「タツロウ、お前……」
「とうとうそんな犯罪を。カネに困ってるならこのアルヌルフに相談すればよかったのに」
「違ーう! 断じてオレはそんなことしてねえよ!」
「言いたいことがあるなら我らの屯所で聞こう」
「その前に一つ。オレは酒場で名前しか名乗ってないが、なんでさっきフルネームで呼びかけたんだ?」
「そ、それは我々の知るところではない。来るのか来ないのか、どちらだ?」
うーん。まあこの人たちも上からの指示でやってるんだろうけど。事情を全く知らないってことも無さそうだ。
フルネームを知ってるのは、酒場の店員たちの兄貴分の男が2年半前にオレのことを知っていたから。それだけのことなんだが、理由を隠すところに怪しさを感じる。
で、どうしよう……。
よし決めた。
「ロベルト、アルヌルフさん! お前らだけで先に次の宿場町へ行ってくれ」
「お前はどうすんだよ?」
「後で……すぐに追いつく。でないと時間が勿体ないし、現地には一刻でも早く到着したいんだ」
2人は少しの間顔を見合わせてヒソヒソ話し合ったが、それほど待たずに結論を出してくれた。
「わかった。なんだかよくわからないことばかりだが、まあ頑張れよ」
「ぬふふふ。これでゆっくり自分たちのペースで旅路を続けられる」
別に待ってくれると思ってはいなかったが……なんかこう、あっさり去っていかれるとさすがに寂しい。
だがこの問題はオレが引き起こしたことなのだから、2人を巻き込むわけにはいかない。これでいいのだ。
周りの通行人たちもいつの間にか遠巻きに眺めて様子を窺ってるし……迷惑はかけられない。
とりあえず素直に同行して、その先で裏に潜む者たちへとたどり着くほうが話が早く済むだろう。
そして痺れを切らして近づこうとする隊長と数人の衛兵を前に、オレは両腕を広げて言い放った。
「さあ、何処へなりとも連れてけよ。オレは逃げも隠れもしねーぜ!?」
「最初からそう言えば良いものを。余計な手間を掛けさせおって……コイツを縄で縛れ!」
「おい、これって任意同行ってやつだろ? なんで縛るんだよ!?」
「うるさい! 大人しくせんか!」
「あっ! やっと見つけた。タツロウさん、上着を返しに来ましたよ!」
こ、こんな時にあのパンツのオッサンが!
「今は取り込み中だ! 危ねえから向こうへ行ってろ! っていうかもうその上着やるからさっさとこの町から離れろ!」
「そうはいきません。この領内で禁じられているレベルのボッタクリ行為で儲けている酒場と、そこからの依頼で動く衛兵隊……いろいろと事情を確認しなければならんのですよ」
「おい、何をバカなことを言っている。この男も捕らえろ!」
「いいのかな? 私は領主から派遣された調査官なのだが。この宿場町で旅行者から法外な料金を請求する酒場がある、という噂が出回っているからね」
「……う、嘘を言うな! そんな人物がそんな貧相な」
「格好は関係ないでしょう。それに私自身が現地調査に赴いて身ぐるみ剥がされたのだから」
「……ならば益々このままにしておくわけには」
「だからやめておきなさい。先ほど、調査結果と『上の方』への調査を続行する旨を記した手紙を朝イチ便で送った……私の音信が途絶えれば本格的な調査隊が即座に来ることになるだけだぞ」
「くっ……引き上げるぞ!」
衛兵隊はそそくさと去っていった。そして通行人たちも何事もなかったように通り過ぎていく。
なんだかなあと思いつつもオッサン……いや調査官にお礼を言っておこうと近づいていく。パンツ姿の時は何とも情けなく見えたものだが、今はとてもカッコいいオッサンに見える。
「どうも、ありがとうございました。お陰で助かりました」
「いえいえ、こちらこそお礼をいわせてください。タツロウさんが上着を貸してくれたお陰で風邪をひかずに調査を続行できます。それに、衛兵隊を動かせるレベルの有力者との繋がりがはっきりしましたので早く解決できそうです」
「……えーと、オレの素性も言ったほうがいいのかな?」
「それには及びません。ただ、調査隊が来ると町から出にくくなると思いますから、それだけお気をつけください」
「それなら大丈夫です。オレ、もう旅立ちますから。ちょっと急ぎの用事なんで」
「わかりました。タツロウさんの幸運を祈らせてもらいます。あと上着をどうぞ」
「ありがとう。それじゃどこかでまた会った時はよろしく!」
「ええ、それではまた」
言ってから気づいたが、また会うことなんて恐らく無いだろう。でも、今日は朝からとても爽やかな気分になったから、つい言ってしまったのだ。
それはともかく、ロベルトたちに早く追いつかねば……と駆け足を速めようとしたら、町の出口手前で見慣れた2人の姿が見えた。
「よう、タツロウ! 思ったよりも早かったな!」
「お前ら! どうしてまだこんな所に」
「一応、いざとなれば助けに入れるようにってな。タツロウがいないと俺たち困るんだよ」
「お、お前ら……!」
「ぬふふ。タツロウがいないと、ソフィアちゃんに会えなくなっちゃうからね。だからどうしても連れて行かねばならん」
「そうそう。ソフィアさんに会うためには待つくらいどうってことない」
「お、お前らぁ〜!!」
はあ。コイツらに一瞬でも友情を感じたオレがバカだった。
だけどやっぱり待っていてくれる仲間がいるというのは良いものだ。
◇
ここはオルストレリア大公領内のある都市に存在する多目的ホール会場。もうすぐ開催となるファッションショーの会場の一つで、控室には既に衣装や装飾品、飾り物などが運び込まれている。
「……ギーゼラが今回出品する衣装がどれほど面白いデザインなのか、私とっても気になります」
「面白い……まあ、ソフィアには気に入ってもらえると思うよ。とりあえず見てもらって軽く合わせて、それで微調整すれば完成だ」
和やかに話しながら衣装部屋の扉を開けて覗き込んだ2人の目に入った光景は……。
「な、なによこれ? いったい何でこんなことに!?」
「ひ、ひどい……あんまりです……!」
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