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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生したけど没落したのでイチから成り上がることにした  作者: ウエス 端
新章

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031.突然の思わぬ再会

 ソフィアと一緒に過ごした夏のひと時から早くも3ヶ月が経過した。


 彼女は今頃、帝国南部方面へと移動しているはず。それぞれの立ち寄り先でモデルとしてファッションショーなどに出演していることだろう。


 元気にしているといいんだが。


 で、オレの方はというと、仕事帰りにロベルト、アルヌルフと3人で連れ立って入った酒場にて疲れを癒している。


「ふうっ。今日もよく働いたぜ〜。そして仕事の後の一杯が身体に沁みるぅ〜!」


「タツロウ! お前、俺より年下なのに言動がオッサンみたいになってきてるぞ!」


「んなこと言ってもよぉロベルト、つい口から出ちまうものは仕方がねーだろ! あー、このツマミがうめぇ!」


「ぬふふふ。あっという間にビール腹のメタボ体型に早変わりというわけだ。それでソフィアちゃんに愛想を尽かされたらメシウマ!」


「へっ! オレとソフィアはそんな事ではびくともしない絆で結ばれてんだよ、アルヌルフさんよぉ!」


「いや、女子が相手に幻滅する瞬間ってのは突然やってくるもんだ。まあ、俺はそうなってくれた方がいいけど。どう考えてもソフィアさんにタツロウは釣り合わない」


「ロベルト、テメェー! そんなこと言ってソフィアにちょっかい出すつもりなら許さねーぞコラァ!!」


「2人共黙れよ! これからライブが始まるんだから!」


 いやいやアンタが最初に煽ったくせに……とアルヌルフを睨みつけるがヤツは一向に気にしない。


 というかヤツの意識は酒場の奥から現れた女性に注がれている。この店に行こうと言い出したのはそういうことか。


 ふんわりとウエーブが掛かった黒髪は腰の辺りまで届く長さで、灯りに照らされてちょっと青みが浮かんでいる。


 瞳は何やら気だるいというか諦めのようなのが感じられるけど、奥からは芯の強さも垣間見えて決してか弱い女性ではないとわかった。


 というか、なんか見たことがある瞳だな……いや気のせいだろう。そのはず。


 ゆっくりと歩いてきた彼女は背もたれはあるが簡素な椅子に座るとさりげなく長い脚を組む。


 それからギターに似た楽器……この世界ではビウエラという名だが、それを膝の上に乗せて軽く音出しをしてから演奏し始めた。


 どうやらソロで歌うようだ。ライブと言えば大袈裟だが、酒場の客たちの注意が一斉に彼女へと向くのを感じ取った。


「あの頃、貴方から受け取った温もりを〜」


 優しくもしっとりと聞かせる歌声が響き渡る。


 黙って聞き入る者、グラスを時々傾けている者、同じテーブルの相手と何気なく目を合わせたりしている者たち。


 客たちはそれぞれの楽しみ方で歌を耳から吸収しているかのようだ。


 そして歌い終わるとともに歓声が沸き起こり、ざわめきはなかなか収まらなかった。

 

「カミルスちゃ〜ん! 今日も最高だったよ〜、むほぉっ!」


「なんであの女性の名前まで知ってんだよアルヌルフさん。まさかまたストーカー紛いのことを……」


 アルヌルフはとある名門伯爵家の嫡男だったのだが……普段は引きこもりで推し活にのみ精を出していた。


 それ自体は別にいいのだが、推しの対象に執着して『行き過ぎた活動』を何度もやらかし、とうとう廃嫡されてしまったのだ。


 で、今はヴィルヘルムの家臣団に拾われてオレとロベルトの後輩として3人組で活動することが多い。


 ただ、伯爵家の嫡男だったことを考慮して副団長待遇であり立場的にはオレたちより上……というわけで仕事がある程度できるようになるまでの指導は並大抵の苦労ではなかった……。


 まあそのへんの顛末はまたの機会ということで。語らないままになるかもしれんけど。


「ち、違う! 彼女は歌い終わった後、常連客相手に気さくに声をかけて、その時名前が聞こえてきたんだって! それにああいうことはもう卒業したっての!」


「それならいいですけど。ここでモメ事起こされたらオレたちがヴィルヘルムさんに叱られるんで」


「おいっ、タツロウ! 後ろ!」


「なんだよロベルト……うわっ!」


 振り向いたオレの目に入ったのは、さっきまで歌っていたカミルスという女性だった。


 近くで見ると、いつか何処かで会ったことがあるような、そんな面影が……でもどうしても思い出せない。なんだろう、このもどかしさは。


 戸惑って何も言えないオレに、彼女はクスッと微笑みながら思わぬことを話しかけてきた。


「お久しぶりね、タツロウくん。フランツの館で会って以来だけど、まさかこんなところで再会するなんてね」


 フランツの……そうだ、やっと思い出した!


 というか彼女のことをすぐに思い出せないなんて……オレは恩知らずもいいところだ。


「カミラさんでしたか。本当にお久しぶり……というかその節はお世話になりました」


「ふふっ。私は別に、大したことは何もしていないわ。貴方の大事な人たちの傍に居ただけ」


「そんな! あの時はどれだけオレたちの助けになったか……。ところでカミラさんこそどうしてこんなところに?」


「そうねえ。ここでお話してもいいのだけれど……」


「おいロベルト、アルヌルフさん。今日はもう帰れ! あっ、自分らの勘定は済ませといてくれよな」


「なっ! なんだよそれ。というかその女性とどういう関係なんだよお前!」


「おれには偉そうなことを言っといて、自分はカミルスちゃんとイイ事しようってか!? ヴィルヘルムさんに横暴だって訴えてやるっ! あとソフィアちゃんに手紙で言いつけてやるから!」


「また今度、順序立てて話すからさ……それにアンタ、ソフィアの連絡先知らねーだろうが!」


「ぬふふふ。ちょうどいい機会だから教えてもらおうか」


「誰が! いいからさっさと帰れ!」


 オレが何度も急き立てると、2人はブツクサ言いながらもようやく席を立って店を出た。その前にちゃんと勘定もさせたので、これで安心してカミラさんの話に集中できる。

いつも読んでいただいてありがとうございます

次回は11月8日(土)23時頃に更新の予定です

よろしくお願いします

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