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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生したけど没落したのでイチから成り上がることにした  作者: ウエス 端
彼女との再会編

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028.彼女に顔の手当てをしてもらう

「おれの邪魔ばっかしやがって!! ナニモンだお前はぁー!?」


「警備員ですよ! 見てわかるでしょ!!」


「ほんっとうにっ! 毎日毎日毎日まいにちぃー!! いい加減にしやがれーっ!!」


「そちらこそ! 駄目だって毎日言われてることを繰り返して……反省とか行動を改めるとか、しないんですかー!?」


「う、う、うるさーーい!! お、お前におれの……おれの気持ちなんかわかるかよっ!!」


 オレが劇場の警備員となって観客の見送りサービスの際にソフィアを守るようになってから4日目。


 今日もアルヌルフの野郎が執拗にソフィアへ近づこうとするのを懸命に押し止めている。そして毎回顔面に攻撃を食らってアザだらけだよ。


 しかしここまで来ると、もう意地になっているとしか思えん。この執念……何がヤツを突き動かしているのか?


 そんなこんなでかれこれもう5分以上の攻防を繰り広げているが、いい加減もう限界が近い。そこまで耐えて、ようやく劇場の職員たちが援護にやってきた。


「アルヌルフ様! どうぞこちらへ」


「……もういいよ! 今度こそ言いつけてやる……劇場がおれだけ不当な扱いをしてサービスが受けられないって。特にお前! せいぜい覚悟しておけ!」


 ふう、やっと劇場から出ていったか。最後はオレを指さして捨て台詞を吐いていったけどいちいち怯んでられるかってんだ。


 というか実は毎日言われてるんだが、その割には伯爵家から劇場へクレームは来ていないらしい。


 ヴィルヘルムとコンラートが伯爵家と上手く交渉できてるってことか。2人はあれからずっと不在なんだが、どうなってるんだろう。


 それはひとまず置いといて……見送りはまだ終わっていないんだ。他にもソフィアに接近する観客がいないかちゃんと見ておかねば。


 それにしても笑顔を崩さず見送り続けるソフィアは可愛いなあ。おっとまだ任務中……気を引き締めねば。



「あの。顔、動かさないでくださいね?」


「うん……イテ、イテテテッ!」


「もう。お薬をちゃんと塗れませんよ?」


「わかってるけどさあ」


 ようやく観客全員が退出したあとで、オレはソフィアに顔の手当てをしてもらっていた。


 彼女のしなやかな指先の感触が気持ちいい……でも手は全体的に熱いのだろうか、溶けかけの軟膏が生温かい。


「あと少しですからもうちょっと我慢してください」


「それはいいけどこんなことやっていていいのか? 忙しいならもういいよ」


「問題ありません。明日は千秋楽……と言っても一週間の短い公演でしたが。なので余裕があります」


「わかった。ところでいつもオレの顔を変えてくれる技というか……あれってやっぱり」


 オレの問いかけに、ソフィアはまず周りを見回し、ふっと一息ついてから話し始めた。誰にも聞かれたくないってことは……オレの推測が当たっているということだ。


「……貴方の思っている通り。私の家……ゴッチャルプ公爵家嫡流に代々伝わる秘術『変身魔法』を応用したものです」


 ソフィアは本来は公爵家当主であり、いろいろ故あって今現在は下級貴族と身分を偽り活動している。


 彼女の領地……フリシュタイン公国は弱小だが昔は強大だったが故に権力争いが絶えなかったという哀しい理由で編み出された変身魔法で、代々の当主と家族は重臣以外の他人には変装して素顔を見せないで過ごしてきた。


 ではあるのだが……。


「それは本人以外には使えないんじゃなかったっけ? それにもっと手間がかかってたよね?」


「その認識で合っています。でも私、どうせならこの能力を貴方に役立てられないかと思いまして。それで密かに研究してきたのです」


「凄いな。もしかして全身も?」


「いえ、それは相変わらず自分だけです。でも咄嗟の時には顔だけでも変装できれば窮地を脱することくらいは可能だと思います」


「……オレのためにそこまで考えて……でも皇帝の跡取りじゃなくなったから、せっかくの能力をあまり生かせなくてゴメン」


「そんなことありません。現に今回、無用なトラブルを回避するのに役立ちました」


「……ありがとう、ソフィア」


「タツロウ……!」


「あっ! お二人ともこちらにいらしたのですね。んっ? どうかしましたか?」


 ううっ。いい雰囲気になったところで支配人が入ってきて……オレたちは咄嗟に距離を取り直した。悪気はないのはわかってるが……あーもう!


「いえ、どうもしてないです。顔に薬を塗ってもらってただけで」


「そうでしたか。タツロウさんには毎日そこまで身体を張っていただいて本当に感謝しています。お礼と言ってはなんですが……今、出演者とスタッフにお茶とお菓子を振る舞っているので、もしよかったらご一緒に」


「もちろんゴチになります! 今日は残務無いから急いでないんで。ソフィアも行こうぜ!」


「……そうですね。私もお腹が空きました」


 オレとソフィアは顔を見合わせてお互いに笑顔を向けてから支配人の元へと駆けていった。


 それから劇場奥の簡素な食堂で大きなテーブルに座り、みんなとお菓子を囲んで、わいわい話しながら和やかで楽しいひと時を過ごした。


 そして、残りは本当にあと1日。


 明日も全力を尽くして、ソフィアを気持ちよく送り出そう。オレはそう心に決めたのであった。

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