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名ばかり皇帝の跡継ぎに転生したけど没落したのでイチから成り上がることにした  作者: ウエス 端
彼女との再会編

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026.彼女の掌に熱さを感じる

「あの〜。ごめんくださ〜い」


 オレは今、ソフィアが出演している劇場の関係者通用口から中に向かって呼びかけている。


 時刻は間もなく午後の回のクライマックスを迎えるあたり。早すぎず遅すぎずで丁度いいタイミングだと思うが、それでも早く支配人に会って準備を済ませたいと気がはやっているのは否定しない。


「誰ですか〜大声で。ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ……あっ、あなたは!」


「ああ、昨日はどうも」


 オレの声に反応して出てきたのは劇団の座長さんだった。どうやらオレの顔を覚えてくれていたらしい。


「いえ、こちらこそお陰様で……もしかしてコンラート様からご連絡があったのですか?」


「まあ、そんなところです。で、支配人に会ってコレを渡すようにと言われてきたのですが」


「紹介状ですね。承知しました、中へどうぞお入りください」


 ここまでは順調だ。あとは支配人がどういう人なのか。コンラートとは昔なじみらしいし、おかしな人物ではないと思うのだが初対面というのはいつも緊張する。


 そして案内されるまま支配人室へ入って、真っ先に目に入ったのは……パンチパーマにグラサン、そして派手なシャツに金色のネックレスといういかにもアレなオッサンだった!


 どう見ても◯クザ……なんかアルヌルフよりもこっちの方がヤバい気がするのだがソフィアは平気なのだろうか?


 しかし他に誰もいないのでこれが支配人で間違いないのだろう。恐る恐る挨拶をしながら紹介状を差し出す。


「あ、あの。こ、コンラートさんに、い、言われてですね……」


「ああ、コンラートさんから紹介されたのですね、ここの警備員のバイト。確かに屈強そうな身体つきですね。ご足労いただいてありがとうございます」


 顔はいかついままだがとても爽やかで丁寧な受け答えだ。これなら……いやいや、本当のワルはこうやって外面は良かったりするのだ。


 そんな感じでぎこちないオレの横から座長さんが口添えしてくれた。


「この方は昨日ソフィアさんを守ってくださったのです」


「あー、そうでしたか。それは本当にありがとうございました、改めてお礼を申し上げます」


 支配人はお礼を言いながら立ち上がり、両膝に手をついて頭を下げる。って、前世で見た古い任侠映画でやってた挨拶そのまんまじゃん!


 やっぱこの人……どうリアクションすべきか固まっていたが、それを察してか向こうから説明が入った。


「すみません、昔のクセが出てしまいまいした。わたし元は役者やってたのですが、この顔ですから悪役ばかりで、その時の名残りです」 


「そ、そうだったんですね」


「髪型も天然パーマで、サングラスは強い光に目が弱いだけなのです。この格好も今日の占いでラッキーな服装とアイテムだっただけでして」


「は、はあ」


「まあ、他人から誤解されやすいのは自覚しているので劇場内にはあまり行かないようにしています。たまにこれが役立つこともありますがね、ははは」


「気にしないので大丈夫です」


「気を使わせて申し訳ないです。それで紹介状は……なるほど。座長さん、あとはこちらでやりますのでもういいですよ」


 そして座長さんは失礼しますと言ってすぐに出てしまい2人きりに。ここで態度が豹変とかないよな?


 だが話してみると彼はそんな心配は無用な紳士だった。


「えーと、ソフィアさんの彼氏だとか……そしてコンラートさんと同じくヴィルヘルム様の家臣でしたか。これまでの非礼、失礼いたしました」


「いえいえ、そんな大したもんじゃ」


「しかも無闇に騒ぎを大きくしないように名乗らずすぐに去っていかれたのですね。これだけお気遣いいただける方なら信頼が置けそうです。でもバイト警備員だなんて失礼な扱いをするわけには」


「むしろその扱いをお願いします。変に悪目立ちすると結局ソフィアに迷惑かかるんで」


「承知しました。では今日から早速お願いします、既にあの方はお見えになっているので……。あっ、でも」


「なんか気になることでも?」


「あの方に顔を見られているのですよね。人の顔覚えが良い方なのでまずいかもしれません」


「じゃあメイク道具貸してもらえますか? 化けておきます」


「わかりました。それでは従業員用の更衣室にご案内します。狭苦しいところで申しわけありませんがよろしくお願いします」



 さて、警備員の服装に着替えてメイクをいろいろ塗りたくって……これで大丈夫だろう。


 おっと、もうすぐ見送りサービスの時間だ。劇場内に行かないと。少し慌てて更衣室のドアを開けたオレだが。


「ど、どうしてここに!」


「お疲れ様です、タツロウ。ふふっ」


 ドアの前に立っていたのはソフィアだ。完全に不意を突かれて一瞬パニクったが、それでも気を取り直して声を裏返し、トボけることにした。だってメイクした意味ないじゃん。


「さ、さあ。ひ、人違いではありませんか?」


「誤魔化しても無駄です。その程度のメイクでは私がタツロウを見間違えることはありませんよ?」


「ううっ。それで何でここに来たんだよ?」


「私のことをガードしてくださる方を雇ったと支配人さんから聞いたのでご挨拶しておこうかと。それでドアが開いた瞬間に見えた顔ですぐに貴方だと確信できました」


「かなわないな……。ところでこのメイクでアルヌルフにバレないですむか、どう思う?」


「微妙ですね。汗でメイクが崩れる恐れもありますし……。あの、ちょっとそのまま動かないでもらえますか?」


 ソフィアが何をしようとしているのかわからないが、右の掌をオレの顔に近づけてきた。


 どうしよう。いや、彼女がオレに変なことをするはずがない。顔をそのままじっと動かさずに掌が目の前を通り過ぎていくのを待つ。


 なんか、掌から熱を感じるというか、顔がむず痒いというか。そんなことを考えているうちに掌が通り過ぎて目の前にソフィアの真剣な眼差しが見えてきた。


 それもやっぱり可愛いなと思っていると微笑みに表情が変わった彼女から話しかけられた。


「これならアルヌルフさんにもわからないと思います。見てみますか?」


 彼女が開いたコンパクトの鏡に映ったオレの顔……なのか? いかついことに変わりはないがダンディな顔つき、というか輪郭から変わってないかこれ?


「こ、これっていったい」


「えーとですね……あっ、もう行かないと。また今度説明しますね!」


 ソフィアと共に劇場内へと向かうオレ。わけわからんがこれで安心してアルヌルフの前に立てる。


 さあ、ドンと来やがれ!

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