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20/21

020.彼女に釈明する

「おいっ! てめぇーはソフィアにいったい何やらかしたんだよ、あぁー!?」


「お、落ち着けギーゼラ。これから説明する、っていうか丁度いいタイミングで来てくれた」


 ソフィアに誤解を与えてしまい、それを解くべくヒルデに厚かましいお願いをしたあの日の翌日の昼前。


 ソフィアから何か聞いたのか、ギーゼラが鬼の形相でオレのアパートに怒鳴り込んできた。


「何がいいタイミングだぁ! ちゃんと反省してんのかてめぇーは!」


「は、反省してるし、一応は手を打った。あとはそれを実現する手段だけなんだ」


「……ワケわかんねーけど、とにかくアンタの話を聞かせろ。ちょっと上がらせてもらう」


「ああ、望むところだ。ついでに昼メシ食ってくかい?」


「……なに食わせてくれるの?」


「パスタ。金欠気味だから具は殆ど無いけど」


「まあ、何でもいいからお腹を満たして落ち着いて聞こうじゃない」



「ふう、ごちそうさまでした。で、なにやらかしたの?」


「……その前にお前は何を何処まで聞いてんだよ? それがわからないとどっから話していいもんか」


「ウチは昨日の夕方に街を歩いてたんだけど、元気のない顔で歩いてたソフィアを見かけてさ。気になって声をかけたら、もうタツロウとはおしまいだって泣き出しちゃって。実はそれ以上は聞けてねーんだ」


「じゃあ結局最初から話さねーとな」


 オレはギーゼラに包み隠さず全てを話した。ヒルデに飲み会に誘われて、飲み過ぎてお持ち帰りされちゃったこと。その時にヒルデとは何も関係を持たなかったが結局ソフィアに知られて誤解されたことを。


「そもそもさー、アンタがヒルデの思惑も考えずに奢ってくれるからってノコノコ飲み会に行って、しかも後先考えずに酔い潰れるって……不注意どころじゃねーだろ!」


「それは本当に反省している」


「まったく……で、どうやってソフィアの誤解を解くつもり? 彼女は一度思い込んじゃうとねぇ」


「ちゃんと手は考えてある。ソフィアに誤解を与えた本人に本当のことをキチンと説明してもらうから」


「はぁっ!?」


「何を驚いてんだよ? ヒルデに誤解を解いてもらう。その手はずも整えている、それだけだ」


「そ、そんなこと考えてたなんて……でもどうやってソフィアとヒルデを対面させるのさ」


「それは、お前にソフィアの説得を頼みたいなー、って。今オレが直接ソフィアに伝えるのは無理だろうし」


「あっそう。でも簡単じゃないし高く付くからね〜?」


「もちろんそれなりの謝礼はする。あてはあるから」


「まあ、それは一応期待しとく。ウチはソフィアの舞台稽古が終わる頃に声かけて、それで何処に連れてけばいいわけ?」


「昨日と同じ喫茶店に頼むよ。オレはヒルデを連れて行くから」


「りょーかい」



 ようやく夕方となり、オレは例の喫茶店の前で待っている。今日ほど日中の時間が進むのが遅いと感じたことはないが、ここからはどうなるやら。


「あっ。タツロウく〜ん、お〜い!」


「ヒルデさん、ご足労いただいてどうもです」


「なんか堅苦しいなぁタツロウくんは」


「だって、お願いしている立場ですから」


「わかったよ。それでソフィアは?」


「まだです。ギーゼラに仲介を頼んだのですが」


「ギーゼラ……ああ、ギャル上がりで駆け出しデザイナーの子だっけ。なんでまたその子に」


「ギーゼラはオレとソフィアと同じ学校で同学年なんですよ」


「へえ〜、そういう繋がりか。って、2人ともそこまで来てるじゃん」


「お待たせ〜。あっ、ホントにヒルデさんも来てる!」


「……こんにちは」


「ギーゼラ、サンキューな。ソフィアも来てくれてありがとう」


「……いえ、貴方の釈明とやらを一応は聞いておくべきかと思い直しまして」


 ソフィアは伏し目がちでオレのことをまともに見ようとしてくれない。まあ、オレがやらかしたんだから当然だが、なんとか普通に話せるまでにはもっていかないと。


「もうお店の中に入ろうよ。今日はお姉さんが奢っちゃうから遠慮しないで、さあ!」


「いやそんな奢ってもらってばかりじゃ」


「いいからここはあたしの顔を立てな。年下の子ばっかりなのにカッコつけないわけにはいかないんだよ」


「……わかりました。それじゃあ遠慮なく」


「あざっすヒルデさん、ウチまでゴチになっちゃって」


「……ありがとうございます」



 今日は4人連れなので、4人テーブルでオレとヒルデ、ソフィアとギーゼラがそれぞれ横並びで座って、オレ以外の女子3人はお茶とケーキを頼んだ。


 ぎこちなく表面的な会話をしながら小腹を満たす彼女たちを、オレはお茶を啜りながら……正確にはドキドキしているのを平静を装って待っている。


「ご馳走様でした……それでタツロウ。貴方は私の誤解を解きたいということですが」


「うん。そもそもヒルデさんの発言が誤解の元だが……そういうわけで、そのヒルデさんに詳しく話してもらうよ。事実を全て」


「それじゃあ話すけど、ソフィアは聞く準備できてる?」


「……はい、どうぞ」


「えーと、まずはあたしがタツロウくんを飲み会に誘った……奢ってあげるって」


「……そうですか」


 その瞬間ソフィアはオレを一瞥してから、すぐにヒルデの方に視線を向けて話に聞き入った。簡単に誘いに乗る男と思われただろうか。


 だがこのあとはもっと印象の良くない話が出てくるのだ。


「……それで、酔った勢いでみんなの前で裸踊りを始めちゃってね。その後卒倒した彼に服を着せて、あたしは自分の部屋まで介抱しながら運んだ」


「服をって……あの、パ、パンツも、ですか?」


「うん、パンツも」


 ううっ、ソフィアの眼差しが既に厳しいものに。覚悟してたとはいえ、やはり辛いものがある。


「それからタツロウくんをベッドに寝かせて……今度は服を脱がせていって」


「……そのまま裸に、したのですか?」


「うん、まあそう。それからあたしも服を脱いでベッドに入ったってわけ」


 おっと、途中経過が省かれてる。面倒だからかワザとかは不明だけど、まあ結果は同じだからいいか。


「それで、あたしはタツロウくんにあの手この手で迫ったんだけど。もう少しかなーってところで」


「……タツロウが舌を噛んでしまって、目的を遂げられなかったということですね」


「そうそう、タツロウくんには刺激が強すぎたみたいで。って、この話知ってたの?」


「いえ、知りませんでした。でも昨日彼と会ったとき、舌を噛んだって痛そうにしてたので」


「ふーん。まあ察しが良いのは助かるよ。その後はなんかシラケちゃって朝まで隣で寝てただけ。それで起きたら彼は服を着て帰っちゃった」


「……そうでしたか」


 ソフィアの視線が和らいできて、どうやら納得してくれたみたいだ。ここは間髪入れずに話しかけてみよう。


「なあソフィア。これで誤解だってわかってくれたかい? もちろんオレに落ち度があったからこんなことになったのは認めるし謝るからさ」


「……私はまだ、納得したとは言ってませんよ? 今のお話が作り事でなく真実だという証は示されていませんから」


「そ、そんな、証ったって」


 そんなことを求められるとは思わなかった。オレは答えに窮した……だけどそんなオレを助けるかのようにヒルデがソフィアに説明してくれた。


「あたしがここで自分の得にもならない話をしている、っていうことが証しだよ」


「……どういうことですか?」


「あたしの立場から言えば、このままソフィアとタツロウくんの仲が拗れた方が都合がいい。でもね、タツロウくんから真実を説明してほしいって頼まれて……あたしは、彼に嫌われたくないから、あえて真実を話すことにしたんだ」


「……確かに筋が通りますね」


「それじゃあこれで納得した?」


「いえ、あとひとつ。タツロウ、貴方はなぜ飲み会で羽目を外して飲んだのですか? なんだかストレスを解消するような、そんな飲み方を。何かあったのなら、なぜ私に相談してくれなかったのですか?」


「……ソフィアには敵わないな。確かにあの時、オレはストレスが溜まっていた。これはソフィアには言いたくなかったんだがオレも真実を言わないとな」


「……私に関係あることなのですか?」


「ソフィアとここで話してた内容だよ。舞台稽古の、その、愚痴というか……それを聞き続けてなんとなく溜まっちゃって。でも、それは受け止めるオレの器が小さかったから」


「……それはすみませんでした」


「いや、だからソフィアが悪いんじゃなくてオレがだな」


「いえ、それは私の落ち度です。貴方につい甘えてしまって一方的に愚痴を吐いて、自分だけ気分が良くなって。貴方の気持ちを考えてなくて……彼女として失格ですね」


「し、失格だなんてそんな。ソフィアはオレには勿体なすぎるくらいに立派な自慢の彼女なんだ」


「タツロウ……!」


「あー、なんかこっちまで暑くなってきた。あたしはもう帰るね。全員分のお代はここに置いとくから。お釣りはタツロウくんの小遣いにしてちょうだい」


「ヒルデさん。あの、今日は本当にありがとうございました。それと、最後は不快な思いをさせてすみません」


「いや不快じゃないよ。ところであたしは明日には市内を離れるつもりだから。タツロウくんとはしばらく会えないけど……次に会ったときは本気でいかせてもらうから。タツロウくんもソフィアも覚悟しといてね?」


「……わかりました。その宣戦布告、確かに承りました」


「ふふっ。それじゃあね」


 最後はソフィアとヒルデに緊張感が走ってどうなるかと思ったけど、何事も起きなくて良かった。


「ウチも帰るわ。タツロウ、お礼の件はまた今度でいいから。じゃあねソフィア」


 ギーゼラもそそくさと行ってしまった。テーブルに残されたのはオレとソフィアの2人だけ。


 どうしよう、なんて言ったらいいのかわからなくなってしまった。


「タツロウ。すみませんが、顔をこっちに近づけてください」


 な、なんだろう。まさかみんなが見ている前で仲直りの……。オレは期待に胸膨らませながら上半身を乗り出して顔を前に出した……のだが。


「い、痛てててててっ! いきなり何すんだ!?」


「……今回はこれくらいのお仕置きで勘弁してあげます。寧ろ優しい方でしょう?」


 ソフィアはにっこり微笑みながらオレの耳やら頬やら顔のあちこちを指でギュ〜ッとつねりまくる。


「ほ、ほんとゴメン! 反省してます、イテテ!」


「……でもおかげで、私は自分の気持ちを再確認できました」


 ソフィアはそう言うとオレの顔をしっかり掴んで、そして彼女から顔を近づけて……一瞬だけど互いの唇を重ね合わせた。


「い、いいのか、こんなみんなが見ている前で」


「私は決めたのです。いつでも何処でも、貴方への気持ちに素直になろうって」


 そしていつもの微笑みに戻った彼女は天使にさえ思えた。やっぱりオレはソフィアのことが大好きなのだ。


 それからしばらくして店を2人で出て、そこで軽く抱き合いながら明日の再会を約束して離れたのであった。

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