作戦会議
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「あ〜気分悪」
倉庫にキサメと戻ってきた俺は古びた椅子にどかっと腰掛けた。ミシミシと音がする。新しい椅子買おうかな。
お姫様…パルの居場所がわかり、向かったは良いもののレストランとかいう人目のあるところだったのは誤算だった。案の定邪魔されたし。
キサメはというと扉の近くで突っ立っている。こいつ、黒に染まってから感情がどんどん薄れてるな。あのパートナーの事も忘れてる。
もう必要ないか?
「不機嫌そうやなあ」
倉庫の奥から人影が見えた。少し楽しげなその声色にますます機嫌が悪くなる。
「そういう先輩は楽しそうですね〜羨まし」
「堪忍な、これがうちのデフォやねん…デフォっち今でも使うんかな?」
「知りませんよ」
その人物…山吹紫月はクスクスと笑いながらこちらに近寄ってくる。そして突っ立っているキサメに目を向けた。
「あれどうするん?あのままじゃ心壊れて死ぬんやないの」
「先輩が世話してもいいですよ」
「要らんわ。人の息かかっとるんやろ?契約解消するってんなら貰ってもええけど」
契約の解消は双方が理解したうえでガチャっとを元の場所に戻す必要がある。こいつがどこから来たかとか知らないし、そもそもパートナーである赤間洋平が認めるわけがない。
「お嬢様」
また倉庫の奥から人影が現れた。先輩が顔を声の方へ向ける。
「ルーン、なんか久しぶりやな。最後に会ったのいつやったっけ?」
「一ヶ月ほど前です」
「そんななるか…こっちにもちょこちょこ顔出したいんやけどな〜忙しいんや、学生っちもんは」
「承知しております」
「あ、なんか愚痴っぽくなったわ。堪忍な〜で、何や?」
ルーンはちらりとキサメに目を向け、すぐに反らした。なんかみんなキサメの事気にしすぎじゃない?まあ異質ではあると思うけど。
「先日そこのキサメのパートナー、あと人間が一人、ガチャっとが一体ここを訪ねて来ました」
「ホンマか!?ええ〜うちも会いたかった!なかなかおらんのやもん、ガチャっとがわかる奴」
先輩はがっくり肩を落とした。この人特定のガチャっとと契約は結ばないくせに他のガチャっとと契約結んでる人間とか好きなんだよな…変わってる。
「キサメのパートナーとやらはキサメを取り返しに来たんやろ?あとの二人はなんなん?」
「はい。どうも仲間のようで…全員キサメの奪還が目的のようでした」
「で、あんた何してたん。話したんやろ?」
「…話しましたがお嬢様の命がなかったのでそのまま返しました。その日はキサメもアオイもいなかったので」
「相変わらずうちの命令がないと何もできんなあんたは」
「申し訳ありません」
「ま、ええけど。うちらの邪魔せん奴はどうでもええわ」
俺は立ち上がった。俺に関係ない話延々と聞く気はないし。倉庫の奥で寝よ。先輩が口を開く。
「あ、アオイ。ちょっと頼みたい事あるんやけど」
「…何ですか」
「キサメのパートナーっち奴、ここに連れてきてくれへん?うち会いたいねん、どんな奴か」
正直もう関わりたくないが、この人の命なら従うしかない。俺は頷き、倉庫の奥へ向かった。
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私は今、赤間君とトキと三人で私の部屋にいる。作戦会議?という事で…
さすがに女の子の部屋に彼氏でもないのに上がり込むのはマズいと思ったのか赤間君は全力で遠慮したのだがトキが「なんでだ?」とやたら食い下がってきたので折れてしまった。ごめん赤間君、トキ…何も知らないから…
色々あって忘れてたけど私、赤間君に告白されて、そのうえ返事を保留してるんだよなあ…最悪な女すぎる…でも今、赤間君には悪いけどそれどころじゃない。
「いいか、キサメを元に戻す方法ならいくつかある」
そんな私達の気持ちもつゆ知らず、トキは話を進める。
「一つ、アオイを殺す。ただキサメはアオイが手をかけて黒に染まってる。アオイが死んで、キサメに影響がないとは言い切れない」
「…それに、仮にアオイに本当にパートナーがいないとは限らないからアオイが死んだらパートナーにも影響が及ぶよね…」
トキの言い分も赤間君の言い分もわかる。キサメが助かる保証はないし、何よりアオイを殺すのは、敵としても引けてしまう。
「二つ、洋平とキサメの契約を解除する。その場合二人の同意がいるから話ができないと難しい。それに…」
「俺はキサメとできたら契約解除はしたくない…」
これも現実的ではない。さっきの様子から見るにキサメは会話がまともにできるとは思えないし。
「三つ…アオイと組んでる奴を捜してアオイごと元に戻す」
私と赤間君は顔を見合わせた。アオイと組んでる奴?どういう事…?
「それってパートナーの事なんじゃ…?」
「白菜には話したが…人間一人につき契約できるガチャっとは一体。そして契約を結んでる人間はガチャっとのいるガチャポンは回せない。ガチャポンを回した時点で強制的に契約が結ばれるから拒否はできない」
私と赤間君はうーん…?と首を傾げた。言ってる事はなんとなくわかるがピンと来ない。トキが呆れ顔で続ける。
「アオイは色々おかしいんだよ。仮にパートナーがいないとしたら誰かがガチャポンを回してなきゃあいつは外に出られないんだよ」
「カプセル入れ替えの作業に便乗した可能性とかは?」
「ない。どういう仕組みかわからないけどその時はカプセル内で眠ったままだ。じゃなきゃこの世はガチャっとだらけだしな」
という事は…
「ガチャポンを回してアオイを出した後、すぐ契約を解除してる…?」
「それもおかしい。契約を解除したガチャっとはまたカプセルに戻って眠るんだ、ほぼ不可能」
では、トキの言うアオイと『組んでる奴』はどの立場なんだろう。今の話からして人間一人が複数のガチャっとと契約するのは不可能だし…
「…ん?人間一人につき一体…」
赤間君が何か引っかかったようだ。ぶつぶつと何か呟いている。
「洋平、何か気になる事でもあるのか」
「ガチャっとがガチャっとのいるガチャポンを回す事ってできるのかなって…」
トキが勢いよく立ち上がった。目を見開いている。
「…その可能性は考えてなかった…!」
「え?できるの…?」
「やった事ねえからわかんねえ。けど、その線はあるかもしれない!」
キサメの話からだいぶ逸れたが、何か掴めるかもしれない。私達は喜んだ。今日は遅いのでまた明日、赤間君とキサメの会ったガチャポンを教えてもらうことも含め、赤間君は帰って行った。