再会
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あたしとパルちゃんはママとパパとレストランに来ていた。久々に二人の仕事が落ち着き、家族でごはんを食べに来たのだ。
パルちゃんもワクワクしていたが二人に説明しても色々信じてもらえなさそうだったので説得してキーホルダーとしてついてきてもらった。可哀想だけど仕方ない。
「それで美佳、学校の方はどう?」
ママがワインを飲みながら尋ねる。
「楽しいよ。白菜と冴子とばっか遊んでるけどね」
「二人には世話になってばかりだな…今度ちゃんとお礼をしないとな」
パパが口元を布巾で拭う。ママとパパ、白菜と冴子と何度か会った事があるがその度に高級なお菓子なんかを差し入れするので白菜ママも冴子ママも慌ててしまうって話、二人ともしてたな…少し苦笑する。
平日の夜のレストランは閑散としている。静かで落ち着いた空間だ。決して高級レストランってわけじゃないけど、ママとパパと久々に食事するのは楽しい。
「二名様ですか?」
「はい」
ふと、聞き覚えのある声に顔を向けた。そこにはアオイと、キサメがいた。鳥肌が立つ。どうして?どうしてここに…
あの事件以来二人の行方はわからなかった。まだ二人で行動してるんだ。見た感じ、キサメも元に戻ってない。
「…美佳、顔色が悪いぞ?大丈夫か?」
パパが心配そうにあたしの顔を覗き込む。その声にキサメが反応し、こちらをちらりと見る。マズい。
「ご、ごめん…ちょっとお手洗い行ってくる」
小声でパルちゃんのついた鞄と共にあたしはトイレに駆け込んだ。いくらなんでも女子トイレまで押しかけて来ないだろう。
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「パルちゃん、どうしよう…」
個室に駆け込むなりあたしはパルちゃんに話しかけた。ポムッという音と共に人間姿のパルちゃんが現れる。
「…アオイの狙いは多分パルみゅ。ただ、こんな人目のあるところで突然攻撃はしてこないと思うみゅ」
「パルちゃん、あのアオイって人と何があったの…?」
「…何もないみゅ。けど、もう仲良くはできないみゅ」
パルちゃんは寂しそうに俯いた。前に涼華っていうアオイの元パートナーと、パルちゃんとその元パートナー…四人で仲良くしてた頃もあったって聞いた。
あたしは、パルちゃんの事何も知らないな。
その時、個室のドアがコンコンとノックされた。ここには一つしかトイレがないから待ってる人がいるのかも。慌てて外に出る。
「…白菜!?」
そこには白菜が立っていた。白菜が人差し指を立てる。静かにした方が良さそうだ。
「ごめん、遅くなって…大丈夫?」
「白菜、なんでここに…一人で来たの?」
「トキと赤間君もいる。トキにはキーホルダーになってもらって…赤間君の鞄に。赤間君はキサメに話しかけてる」
「えっ!?」
トイレから出ると確かに、キサメに赤間君が話しかけている。何を話しているのかはわからないけどキサメは話を聞いているのかいないのか、ぼーっとしている。
アオイはというとキサメの正面に座っているが黙ったままだ。視線は赤間君から動かしていない。
「…ほっといて大丈夫なのあれ」
「多分。何かしてきた時の為にトキを赤間君と一緒にしたけど…今のところ何もされてないみたいだし…」
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俺はずっとキサメに話しかけている。正面にアオイが座っているのを見た時は引け目を感じたが、そうも言っていられない。
ただ、キサメはずっと無言だ。
「ねえ」
しびれを切らしたのかアオイが口を開いた。声は小さいが低く、威嚇するようなトーンで。
「お兄さんどういうつもりなの?」
「どういうつもりって?キサメは俺のパートナーだよ、お前こそどういうつもりなんだ」
チッ、と舌打ちをしアオイは席を立った。続くようにキサメも席を立つ。俺はキサメの腕を掴んだ。
「キサメ、帰ろう」
キサメはゆっくり振り向いた。
「…あんた、誰?」
頭を殴られたような衝撃が走った。キサメの目はもう正気を宿していないも同然だった。俺の手を振りほどき、アオイと一緒にレストランを出て行く。
「正気を保て洋平、お前までキサメみたいになってどうすんだ」
キーホルダーのトキが言う。そうだ、俺もへこんだら駄目だ。
「赤間君」
姫路さんと松尾さん…そして小さな女の子。この子がパルって子か。確かに小学生みたいだ。松尾さんが続ける。
「あの、心配してくれてありがとう…なんだけど、あたしママとパパのところに戻らないと」
「あ、そっか…またね美佳」
「うん、本当にありがとう、ごめんね」
松尾さんはキーホルダーに戻ったパルと共に両親の元に駆けていく。俺はその背中をしばらく眺めていた。
「…松尾さんとあの子に何もなくてよかった」
「赤間君…」
「キサメ、俺の事忘れたのかもしれない」
自分で言って、絶望しそうになった。あの目が忘れられない。トキが口を開く。
「諦めるのはまだ早えよ。今から白菜ん家戻るぞ、作戦会議!」
「…えっ?」
思いがけない提案に俺は拍子抜けした。今から?姫路さんの家に…!?