エピローグ
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ーー…病院に来る途中で買った色とりどりの花束を見つめながら、私は赤間君の病室前に立っていた。コンコン、とノックをする。
「どうぞ」
「赤間君、おはよう」
「姫路さん…」
赤間君はベッドに腰掛けていた。その隣にはキサメもいる。今は私達だけだからキサメも人間姿なんだろう。
「ごめんね、忙しい時に…これ」
私は赤間君に花束を手渡した。赤間君は微笑む。
「ありがとう…こちらこそごめん、何もできなくて」
私は首を左右に振った。
ーー…あの後、戦犯である神楽水紫杏は数件の罪により逮捕された。今は裁判の途中で、あの倉庫も燃えてしまった事で更地になっている。地下室も地面の中だろう。
山吹紫月先輩は未成年という事もあり逮捕まで至らなかったがすぐに転校してしまった。耳に挟んだ感じ、自分は人間ではないのだから殺してほしいと神楽水やルーンに言ったそうだが、誰も首を縦には振らなかったそうだ。
そして地下室にいたキサメ、ルーン、ハオは警察の力を借りて脱出。気絶していたキサメはハオの口添えもあり、キーホルダー姿でそのまま赤間君の元に戻って来た。
その後、ルーンとハオの行方は不明。戦闘の中でハオは冴子との契約を切っていたみたいで、本当に行方がわからない。互いの合意なく契約を切るとペナルティがあるはずなのだが、神楽水の元パートナーであるハオはペナルティが科せられない。冴子にも同じく。
冴子は未だに意識を取り戻していない。危険な状態ではないらしいが、いつ意識を取り戻すかは不明だそうだ。
「…白菜、トキは?」
キサメが私の顔色をうかがいながら尋ねた。私は首を左右に振った。
倉庫に走って行く後ろ姿を最後に、私の前にトキは現れていない。あの事件から数ヶ月経つが、行方不明だ。
「そう…」
キサメのその言葉を最後に沈黙が流れる。赤間君が松葉杖に手をかけた。キサメがその体を支える。
「散歩しない?いい天気だし」
「赤間君、動いて大丈夫なの?」
「うん、むしろ動かないと回復しないよ。リハビリリハビリ」
赤間君はまだ完治していないものの、松葉杖があれば歩けるようにはなった。体調に問題はないので、今日が退院日なのだ。その為、私はここに来たのである。
ーー…外は風が心地よかった。最近は気温も高く、昼間は暑いくらいだ。キサメが日差しに目を細める。
「暑くない?これからますます暑くなるの?嫌だな」
「夏本番はこれくらいじゃないよ…ね、姫路さん」
「そうだね」
平和だ。数ヶ月前の事件が嘘のよう。事件自体もそう大きく取り上げられず、倉庫が燃えた事くらいが地元の新聞の小さな記事になったくらい。
(あんなに人が死んだのにな…美佳も)
美佳の元パートナー、パルはキサメの計らいでガチャポンの機体に戻された。次、誰かのパートナーになる時美佳の事を覚えているかどうかはわからないそうだ。
少し外でお喋りした後、赤間君のご両親が赤間君を迎えに来たので私は病院を後にした。そのまま家に直帰する。今日はお父さんもお母さんも仕事だし、一人だな。
「ただいま」
しんと静まり返った家に上がる。すると、リビングの方からずっと見たかった顔が覗いた。
「おかえり、白菜」
ーー…トキだった。私は予想外の再会に思考が追いつかず、立ち尽くしてしまった。そんな私をトキが抱きしめる。
「ごめん、一人にして」
視界が歪む。私は涙を流しながらトキを抱きしめ返した。
「今までどこにいたの?」
泣き止んで落ち着いた私に紅茶を出しながらトキが上を見上げる。
「色々…かな。うろうろしてた。ガチャっとは飲まず食わずでも平気だし」
「そう…」
「…神楽水達はどうなった?」
私は神楽水達の事を知ってる限り全て話した。一通り聞き終え、フー…とトキが長いため息をつく。
「…神楽水が言ってた、ガチャっとは兵器として作ったって言うのが本当なら俺達もう用済みだよな」
そう、戦犯である神楽水は捕まったし山吹先輩もいなくなった。でも、神楽水が生きている限りガチャっとは消滅しない。
「でも、ずっと一緒にはいられるんだよね?」
「それはまあ…問題ないだろうな」
私は俯いた。言わないと、改めて。トキが好きだって。神楽水には言ったけどあの時トキは気絶してて聞いてないだろうし。
『あの』
声が重なった。トキ言いなよ、いや白菜から言えよ、というやり取りを何度か繰り返した後、私が折れた。
「私、トキが好き。兵器でも何でも…何があっても一緒にいたい」
トキは目を丸くしていた。が、すぐに頷く。
「俺も同じだ、白菜の事が好き」
今度は私が目を丸くした。確か、ガチャっとは恋愛感情は抱かないのでは?トキが続ける。
「神楽水も予想外だったろうな、恋愛感情は。元々プログラムしてないだろうし」
トキが私に手を差し出す。私はその手を握った。人間じゃないから体温とまではいかないけど、ほんのり温かい。
「これからも護るよ、主人として…恋人として」
私は頷いた。この手を絶対、絶対に離さないと思いながら。
〜完〜




