終幕
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ーー…神楽水が武装した人間達を連れ、その後をルーンが追ってからどれくらい経っただろう。俺はちらりとハオと山吹紫月に視線を向ける。二人とも黙ったまま、隠し通路の方を見ている。
「…気になるなら追えば?」
この空気に耐えられず、口を開いた。山吹紫月が眉をひそめる。
「あいつらがただで人間達を外に出すとは思えんわ。戻ってくるか、何かしら連絡があるやろ」
「え!?そうなの!?」
何故かハオが驚いているのは置いておいて、俺も隠し通路に目を向ける。なんとなく予想していたがやっぱりそうか。
その時、通路の方から銃声が聞こえた。
「…!?」
さすがに山吹紫月もまずいと思ったようで、隠し通路に飛び込んで行ってしまった。その後をすぐハオが追う。俺も続く。
「ルーン!神楽水!」
二人の名を叫びながら山吹紫月が走って行く。途中、血だらけで倒れている人間達が目に入る。これ、全員死んでるのか?
そして、二人の姿が目に入る。
「お嬢様…!?」
倒れていたのは神楽水だった。着ている白衣の胸の辺りが赤く染まっている。撃たれたのは神楽水だ。彼を撃ったであろう人間は息絶えている。ルーンが殺ったのか。
「神楽水!!」
山吹紫月が神楽水の頭を抱きかかえる。神楽水はまだ息があるみたいだが、このままでは息絶えるのも時間の問題だろう。
「…ハッ…人間も賢い奴がいるもんだわ…ルーンじゃなくて俺を撃ちやがった…」
「喋るな馬鹿!!死にたいんか!!」
震える声で山吹紫月が叫ぶ。その頬を神楽水がゆっくり撫でた。
「…悪かったな、紫月…死んだあの日からやっぱり諦めきれなかった…オマエの事…復讐も何もかも…」
「何の話やねん!!」
「オマエ…人間じゃないんだよ、俺が作った…ほぼガチャっとみたいなモン」
沈黙が流れる。涙を流しながら山吹紫月も困惑しているようだった。無理もない。神楽水は続ける。
「…オマエにはモデルがいて…それが俺の妹だった…だけど死んだ…だからオマエを作った」
黙ったまま山吹紫月はルーンに視線を移す。ルーンは山吹紫月から目を逸らさなかった。
「…知っとったんやな、ルーン」
ルーンが頷く。俺の前に立っているハオも俯いたままだ。ハオも知っていたのだ、山吹紫月の正体を。
「…俺が死んだらオマエも…オマエら全員死ぬ。それだけは避けたい…」
神楽水は体を起こそうと床についた手に力を入れる。しかし、体はほとんど起き上がらない。山吹紫月が神楽水を支えながら言う。
「もうええって!あんたもう手遅れやろ!病院行っても間に合わん!!」
先程まで死なせまいとしていたのだろうが、自分の立場と神楽水の今の姿を見て考えが変わったらしい。神楽水を楽にしてあげたいのだろう。
その時、視界が突然歪んだ。全身の力が抜け、床にへたり込む。何だ?よく見えないが、神楽水以外も同じように床にへたり込んでいる。
「何…これ…」
「…影響が出てきたな…オマエら、このままじゃ俺と同じくお陀仏よ」
神楽水は体を起こすのも既に難しい状態らしく、床に寝転がったまま力なくそう言った。
すると、ルーンが神楽水に手をかざす。緑色のキラキラした光が神楽水を包む。神楽水は首だけ動かし、ルーンを見た。
「…いやそれ…人間には効かねぇだろ…」
どうやら回復術みたいなものらしい。ただ、神楽水に効いている様子はない。それでもなおルーンは術をやめない。
「やってみないとわからないでしょう…この世は何が起こるのかわからないんです、今もそうですが…未来も」
立っていられないほどの体の重さ、それに加え術を使っているのにルーンははっきりと話す。やっぱりこのガチャっと、中でもかなり頑丈なんだな。
空いていたもう片方の手は山吹紫月に向け、術を出す。山吹紫月は倒れているが意識はあるようで、ルーンの事を見つめている。
「…ルーン…うちは…」
「貴方達は死なせません。どちらも私の『ご主人』ですから」
元々敵だった俺はともかく、ハオはこの状況をどう考えているのだろう。
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ーー…良かった、ルーンが俺を選ばないでくれて。
真っ先にそう思った。そもそもルーンの俺への好感度みたいなものはそんなに高くないし、まず神楽水さえ死ななければ全員助かる可能性があるのだから、この判断は正しい。
「ハオ」
不意に名前を呼ばれ、ルーンの方を見る。ルーンは俺に対して背中を向けてるから表情は見えない。
「貴方も助けます、必ず」
心臓…があるのかないのかわからないが胸の辺りがギュッとなるのがわかった。改めて確信する。やっぱり俺は、ルーンが一番だ。
その時、隠し通路の入口から声が聞こえた。
「おーい、おーい!!誰かいる!?」
視線を向けたいが、力が入らず向けられない。他のみんなも同じみたいだ。すぐにバタバタと足音が響いてくる。
「これは…君達、大丈夫!?」
ロングコートがふわりと視界の端に入る。人間だ。何人か武装している人もいる。安心したのか、ルーンが術を止め、手を下ろして言う。
「…私は大丈夫です。ご主人とお嬢様を優先して下さい」
「ご主人?お嬢様…?あっ、この子達だね、おーい!手伝ってみんな!」
武装した人達に神楽水と紫月姉は抱きかかえられていく。二人とも気絶しているようだ。神楽水もまだ死んでない…が、体の重みは激しくなっていく。
「ハオ…キサメ、生きていますか」
ルーンが声をかける。ルーンもかなり消耗しているようで、先程まで中腰だったのに今は壁に背をもたれて座っている。が、残された三人の中では一番意識がしっかりしているようだ。
「ん…大丈夫…」
「キサメ…は気絶していますね。死んではないみたいですが」
壁を使いながらキサメに近寄ったルーンが言った。キーホルダーになってないって事は、ルーンの言う通りだろう。俺は床に顔を埋めた。
「うう…体が重い…」
「…それだけ喋れるなら無事な方でしょう…皮肉にもやはりご主人の元パートナーですね」
「…神楽水と紫月姉、どうなるんだろう…」
死にかけとはいえ二人は生きているし、警察に連れて行かれてしまった。たくさんの人を殺している。この通路の死体はルーンが殺ったんだろうけど、全ての元凶は神楽水だ。
「ご主人は犯罪者でしょうね。お嬢様は…わかりません、どうなるのか」
紫月姉は人間じゃない。でも、人間として生きていかざるを得ないのではないだろうか。ガチャっとではないのだし。
「ルーンも一緒に捕まるの?」
「…それならそれで受け入れます。ガチャっとの話をしても信じてもらえる可能性の方が低いでしょうし」
そんな話をしていると先程のロングコートの男が戻って来た。俺達と通路を見回し、真剣な眼差しで言う。
「君達には話を聞かせてもらうね。大変な時に申し訳ないんだけど」
ルーンは頷いた。俺も同じく頷き、通路を入り口側に歩く。階段を上って倉庫に出ると、焦げ臭い臭いが鼻をついた。ほとんど燃えていて、跡形もない。
「足元気をつけてね」
崩れた木や瓦礫を避けながら倉庫の外へと出る。消防車や救急車が集まっていた。人間達も、貼られたテープの奥から様子を伺っている。
ーー…終わったんだな、本当に。
隣を歩くルーンを見ると、何か考えているようだった。何を考えているかはわからないけど、考えている時の顔だ。長い付き合いだから、わかる。
「…何ですか」
見ていた事がばれ、怪訝そうな表情に変わる。俺は首を横に振った。
「なんでもない!」




