切り札
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ーー…先程の人間二人は私達を他の武装した人間に任せ、足早に地下室を去った。誰一人抵抗せず、私達は武装した人間に着いて行く。
「…白菜姉達大丈夫かな…」
ぽつりとハオが呟く。未だに上の様子は不明だ。お嬢様なら知っているかもしれないが、今は聞ける状況ではない。
上階に繋がる階段が見えた時、けたたましい轟音と共に地面…いや、天井が大きく揺れた。全員上を見上げる。
(爆発…?)
「おい!何だこの音は!」
「わ、わかりません!」
武装した人間達も予想外だったようで辺りを警戒し、階段の方へ走って行く。という事はこいつらが仕組んだ事ではないのか。とすると…
「神楽水やろうな」
お嬢様が察したように言う。同意見だ。あの人がここのいわばラスボスなわけだし、倉庫の事も知り尽くしている。私達が知らない場所に爆弾を仕掛けたり爆薬を仕込む事は可能だろう。
「無茶苦茶すぎる!何してんのあいつ!」
唯一私達の中でハオだけがあたふたしている。慌てたところで状況は変わらないだろうに。
…もしかして、ご主人は私達ごとこの倉庫を木っ端微塵にでもするつもりだろうか。あり得る。
「な〜んか失礼な事考えてそうだなぁ?ルーン」
階段を降りてくる足音と共にご主人がゆっくりと降りてくる。当たり前だが武装した人間達はご主人に銃を向ける。
「お前は…!動くな!」
ご主人の事はさすがに共有されているらしい。このままだとまた捕まって地上の人間に引き渡されるだろうな。ご主人は静かに言った。
「戦う気はねぇよ。ただ、ここで全員死んでもらうだけ」
「な…!?」
「地上はとっくに火の海だ」
だろうな。あの爆発、天井が崩れてきそうな音だった。この地下室は頑丈みたいで少しひびが入っただけで崩れはしなかったが。武装した人間達はなおも銃を下ろさない。
「そいつらを渡せ。そしたらお前らも助けてやるよ」
そいつら…私、ハオ、お嬢様…そしてキサメを見回しご主人は言った。この状況で助けてくれるのか。見捨てられると思った私は少し目を丸くした。
「この状況でどうやって助けるんだ」
武装した人間の一人が言う。
「こんな時の為に隠し扉くらい作ってあんだよ。天才だからな」
天才は余計だしこんな状況を想定するなと言いたいところだが今回は功を成している。武装した人間達が互いに目を見合わせ、頷く。
「…いいだろう」
武装した人間達が私達の前を開ける。銃はご主人と私達に向けられたままだが、状況は好転した。隣に立った私にご主人が周りに聞こえないように言う。
「…ルーン、あいつら全員殺れる?」
「可能です」
ご主人が悪意に満ちた笑顔を浮かべる。最初からそのつもりだったな、この人。隠し扉もただのブラフだろうか。
そう告げてご主人が足を止める。私達もつられて足を止めた。一見何もない壁をご主人がコンコン、と叩く。すると、ゆっくり壁がスライドし、道…というよりは空間が現れた。薄暗く、先はよく見えない。
「じゃ~ん、こちらが隠し扉ならぬ隠し通路となっておりまぁす。まっすぐ歩けば外に出られるってワケ」
武装した人間の一人が顔だけを空間に入れ、辺りを見回した後他の人間達に目配せした。危険な物や怪しい物はないと判断したらしい。
「外まで案内しろ」
ご主人はもちろん、といった感じで一番最初に隠し通路へ入って行った。隠し通路は人一人歩ける幅しかない。という事は、後ろから一人ずつ殺れ、という事だろう。
(仮に撃たれたとしても私は簡単には死にませんしね…ご主人より私を消そうとするでしょうし)
そこまで計算済みなのだろう。腹の立つ男だがやはり頭は良い。そこは尊敬に値する。
武装した人間が全員通路に入った事を確認し、私は一番後ろに着いた。すると、ハオが私の後を追おうとする。全て察しているであろうお嬢様がハオを止めた。
「待ちや、うちらはここに残ろう。他にもあいつらの仲間が来たら対応できんやろ?」
もっともらしい事をハオに言う。この時点で援軍が来てないのだからもう来る事はないと思うが、単純なハオは力強く頷く。
「そうだね!って事でルーン、俺は紫月姉とここにいる!」
「…お願いします」
…さて。舞台は整った。目の前を歩く人間の首を私は飛ばした。
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勢い良く倉庫のドアを開ける。ものすごい熱風が身体を包んだ。熱い。倉庫の中は赤々と炎が燃え盛っていた。
やはり神楽水はこういう事も想定していたのか。舌打ちする。炎と煙で周りはよく見えないが、人の姿はない。
(地下室は無事なのか…?扉がわからない)
足を踏み入れようにも熱さと恐怖で体が動かない。俺はガチャっとだからそう簡単には死なないけど、痛みや熱さは感じるし、何より今既にボロボロの状態だ。
…白菜は追ってこない。多分警察が阻止したのだろう。ありがたい。もう危険な目に合わせたくない。
色々考えを巡らせているとぼんやりと煙の奥から人影が見えた。数人いる。
「ゴホゴホッ…って、え?君、どうして…!?」
「戻ってきたのか…!?」
真ん中二人の男が俺に声をかける。この二人、蟹江と溝口という男だ。この部隊の指示をしているであろう二人。服は焦げ、煙で汚れている。よく無事だったな。
「これで全員…じゃないよな」
先程突撃してきた部隊より少ない。それに、地下室に入ったルーン達の姿がない。
「地下室の奴らは俺の部下に任せたよ…つってもこの状況じゃ地下室にいた方が安全かもな」
「君も、ここは僕達に任せて。ね?」
二人に促され、俺は再びパトカーを待つことになった。若い方の男が電話している間、老いた男と二人になった。
「…白菜は?」
俺は男に聞いた。男はポケットからタバコを取り出し、ライターで火をつけた。煙がゆっくり空に上がる。
「無事だよ。さっき親御さんの元に送ったって電話があった」
俺は胸を撫で下ろした。良かった、白菜だけでも無事で。ただ身なりがボロボロだから家族に何て説明するかあたふたしてそうだが。
「ただ、お前の方が気になるな俺は。お前何者だ?」
刑事の勘とでもいうのか何なのか、男は真っ直ぐ俺を見た。何から説明すればいいかわからないし、信じてもらえるかも怪しいが、隠す必要はないので答える。
「…人間じゃないとだけ」
「ほー…何だ?宇宙人とかか?」
意外とあっさり受け入れられ、拍子抜けする。半信半疑といった感じではあるが。それ以上男は何も聞かず、ただ時間だけが過ぎていった。
しばらくしてパトカーが到着し、乗り込む。倉庫の扉の隙間から見える炎と煙を見ながら、俺は倉庫を後にした。




