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ガチャっと!  作者: 彩銘
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復讐


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ルーン、起きや」


お嬢様の声で目を覚ます。倉庫の中には朝日が所々差し込んでいた。肩に痛みが走る。槍は刺さったままで、何故かもう片方の肩は重く感じる。


見るとハオが頭を乗せて寝息を立てていた。


「…」


「好かれとるなあ」


肩をサッと自分の方に寄せ、ハオの頭は床に落ちる。ゴン、と鈍い音が響きハオが飛び起きる。


「痛!?えっ何!?」


「おはよ、ハオ」


「紫月姉…おはよう」


何が起きたかわからないという感じで起きたハオだったがお嬢様の挨拶でどうでもよくなったらしい。お嬢様が私の肩の槍を見る。


「えらいモン刺されたな。美術館のオブジェみたいや」


「後で抜きます。それより…今どういう状況ですか」


トキと姫路白菜の姿を捜す。正面の積み上げられた段ボールを背に姫路白菜は寝息を立てていた。トキは寝転がったままなのでまだ意識を失っているようだ。


「神楽水がキサメを殺すって言いよった。地下室の檻に閉じ込めたままなんやろ」


遠くに朝日を浴びながら伸びをしているご主人が見える。確かにあのまま閉じ込めていてもこちらにメリットはない。


その時、ガラガラと倉庫の扉が開く。予想外の人の入りに私達全員が扉に目を向けた。


「あれ?意外とキレーじゃない?」


「廃倉庫とか嘘じゃんね〜」


入って来たのは見知らぬ女…数人いる。背丈はお嬢様と同じくらいで全員私服だ。目視した感じただの人間のようで、敵意は感じない。


ただ、手にはスマホやカメラを持っている。自撮り棒で自撮りしている女もいる。


私達には気づいてないのかそれともガチャっとが見えないのか、女達はどんどん倉庫の中に入って来る。私達は物陰に隠れた。その中の一人が姫路白菜とトキを見つけたらしく、声を上げる。


「えっ!?人いるんだけど…って寝てる?これ」


「カップル?ってか倉庫で二人きりってちょっとアレじゃない?」


「ね〜」


ガヤガヤと話し、倉庫の中を撮影しながら女達は倉庫をうろうろしている。出て行くタイミングがつかめない。そもそも何しに来たんだ、あの女達…。


すると、ハオが私に耳打ちした。


「…あの人達…見たことある。紫月姉、えっと…亡くなった紫月姉ね。の…クラスの人じゃない?」


そう言われ、私は女達に目を凝らす。ハオの言う通り、確かにお嬢様…亡くなった妹様の中学校のクラスメイトだ。今はもう社会人だろうが。


ついお嬢様に目を向ける。お嬢様は誰?という感じできょとんとしている。わかるわけがない。お嬢様は亡くなった妹様の記憶はないのだから。


その時。


「えっ!?めっちゃイケメンなんだけど!」


遠くで甲高い声が上がる。見ると、ご主人の周りを女達が囲んでいた。あんな所まで入っていたのか。


「…オマエら、ここに何しに来た?」


ご主人は低い声で女達に尋ねる。嫌悪感をあらわにしているが女達は全く気づいてない。それどころか声もイケボ!などとはしゃいでいる。女の一人が質問に答える。


「なんかここ、心霊スポットらしくて。だからあたしら肝試ししに来た〜みたいな?」


「心霊スポット…」


「噂聞いた時はマジで手入れされてないオンボロ倉庫って聞いてたんだけど。まさか誰かいた挙げ句めっちゃイケメンとは思わなかったわ〜」


キャッキャと女達は盛り上がる。その光景をずっと見ていた私は気づいていた。


あの女達、妹様が自殺する原因になった奴ら…妹様をいじめていた奴らだと。


ご主人もそれに気づいているに違いない。女達は妹様の友達という名目で金を巻き上げたりプールに突き落としたりと色々していたのを知っているし、前の家に無理やり押しかけられた事もあった。


その時ご主人は女達と対面はしていないが部屋の隙間からチラチラ見ていた事は覚えている。女達の顔は覚えているはずだ。


ここにきて、まさか妹様の敵から来てくれるとは。しかも女達は妹様の兄と対面しているとは知らないし。


「…ここ、俺住んでるんだよね」


ご主人は取り繕った笑顔で女達に話しかける。あんな表情を見たのいつぶりだろうか。顔が比較的整っているせいであの声のトーンだとものすごく優男に見える。実際は真逆だが。


「え?ここに住んでんの?倉庫なのに」


「色々あって。地下室あるからそこで過ごしてんの」


…地下室の事を自ら明かすという事は大方誘い込んで全員地下室で殺すつもりか。キサメもそこにいるしまとめて葬るには丁度いいのだろう。


「地下室!?すご!見た〜い!」


案の定女達は地下室に食いついた。ただの心霊スポットだと思っていたのが地下室もあるイケメンの家(と化している)だと思うと女達からしてみたらラッキーだろう。


「よかったら入る?何もないけど」


「マジ!?やった〜!」


あれよあれよと女達はご主人の口車に乗せられ、地下室の前まで行った。一人くらいは怪しんでもよいのではと思ったが全員おめでたい頭である。


地下室の扉を開ける前にご主人が尋ねた。


「…オマエらさ、神楽水紫月って知ってる?」


ご主人が一番聞きたかったであろう質問を女達に投げかける。女達は顔を見合わせた。


「…誰だっけ」


「あ!アレじゃん?死んだヤツ」


「あ〜なんか珍しい名前だったわ。紫月チャンか」


「懐かし〜死んだって聞いた時はビビったわ。ま、でもあたしらはトモダチだったし何も聞かれなかったけど」


「疑われもしなかったよね〜」


昔のご主人ならその場で殺しててもおかしくないくらいの感想。ご主人はただ黙ってきいており、聞き終わるとすぐ地下室の扉を開けた。


「…どうぞ」


女達が次々と地下室に入って行く。最後の一人の姿を見送り、ご主人はすぐ扉を乱暴に閉めた。私達の事に気づいていたのかこちらに歩いてくる。


「ブチ殺すトコだったわ」


「…お疲れ様です」


ご主人はドカッとこれまた乱暴に近くにあったパイプ椅子に腰掛ける。お嬢様は何が何だかわからないらしく首を傾げる。


「そんなに嫌やったんなら追い出せばよかったやん。なんで閉じ込めたん」


「…社会的制裁よ。よーく見とけ紫月」


「いや意味わからんし…」


ご主人は白衣のポケットからスマホを取り出し、扱い始める。終始ニヤニヤしており、悪役顔というのはこういうのをいうのだろう。


「で、どう殺すつもりなんです?」


「ん〜毒ガスが一番手っ取り早いかなぁ。串刺しとか圧死とかもいいんだけど、死体がキモそう」


そういえばあの地下室、通気孔みたいなのは所々に設置されていた。酸素を送っていたのだと思っていたがそういう用途だったのか。


ご主人が指を鳴らす。


「決まり、毒ガスだわ」


「なあ、何も殺す事ないやろ…冷やかしやん、あんなの」


何も知らないお嬢様はご主人をなだめる。それもそうだ、お嬢様からしてみたらただ心霊スポットだと思っていた所に来ただけの他人なのだから。


「オマエの為だから。絶対殺す」


「…?」


お嬢様は再び首を傾げる。ご主人はそんなお嬢様を見て、黙って奥の部屋へ消えて行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーー…近づいてくる足音と話し声に目を覚ます。どうやら眠っていたらしい。アオイは人型のまま倒れている。やはり、キーホルダーには戻れないのだろうか。


それよりも今は足音と声が気になる。今までとは違う、多数の足音と話し声。声が大きいのか、遠くからでも会話の内容がわかる。


「マジあり得ないんだけど!閉じ込めるとか」


「てかガチ地下室じゃん。何なのこの変な液体に入ってるの…」


「ヤバい実験とかしてんのかな〜あのイケメン白衣着てたしね」


聞き覚えのない声だ。声から察するに全員女…どういう意図でこの地下室に閉じ込めたんだ?


「うわっ!?え!?何これ人?」


「…これ寝てんの…?」


アオイの姿を見た数人の女は口々に声を上げる。俺は警戒の意味もあって素早くキーホルダーに姿を変えた為、女達には気づかれていない。


「てか何この檻…」


「何か落ちてる、キーホルダー?」


俺とパルのキーホルダーを見た女と目が合う。知らない顔だ。もしかしたら洋平達の学校の生徒かもしれないが全員私服だからわからない。キーホルダーには触ろうとせず、女達は辺りを見回す。


「ねー連絡取れないの?」


「圏外なんだってば」


イライラが伝わってくる。全員それぞれスマホを扱っているがここから出る手段は見つからないらしい。


「出せー!!おいこらぁ!!」


女の一人が壁をドンドンと叩き出す。口調がだいぶ荒くなった。だが、返事はどこからもない。


「もー最悪なんだけど…」


中には泣き出しそうな女もいる。俺も不安だった。今から何が起こるのか…。


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