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ガチャっと!  作者: 彩銘
36/40

戦闘3


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーー…トキは上手くやっただろうか。


キーホルダーになったパルを見つめながらそんな事を考える。地下室は当たり前だが防音なので上で何が起きているかは全く把握できない。


もう檻から出るのは不可能だと悟り、俺は檻の隅に座っていた。これ以上無駄に体力を消耗するのも馬鹿らしい。


…俺はいいのだが、洋平が心配だ。俺が殺されるような事があれば何とかして逃げるか、もしくは…。


「…無理にでも契約を解くか…」


契約を解けば俺が死んでも洋平にリスクはない。多分契約を解いた時点で俺の事忘れるだろうし。


正直、気は進まないが。


ーー…遠くから足音が近づいてくる。俺は足音の方に顔を向けた。誰だろう。


「…アオイ」


アオイだった。見た感じ一人らしい。という事は、トキは上手くやったのだろうか。殺されてはないはずだが。それにしても、何故アオイだけ戻って来たのだろうか。俺の見張り…?


アオイの視線がキーホルダーになったパルに向けられている事に気づく。見やすいように近づけた。


「見覚えあるでしょ。アオイがお姫様って呼んでたガチャっと」


「お姫様…」


ただオウム返ししているだけなのか、虚ろな目でアオイが呟く。こいつ、どこまで覚えているんだ?もう何も覚えてないのだろうか。


「涼華」


俺はアオイが一番反応するであろう名前を呟く。案の定アオイはピクリと肩を動かした。…まだ涼華の事を覚えている。


「覚えてるでしょ、あんたの元パートナーで今はもう」


「やめろ!!」


アオイは地下室に響き渡るくらい大きい声で俺の言葉を遮った。俺は鉄格子を掴んだ。


「涼華の事、わかるの?だったら今この状況がどれだけまずいかもわかるよね?」


アオイはハァハァと息を荒げ始めた。黒に染まってからどれくらい経ったのか不明だし、本当に涼華を覚えているのかもわからない。でも、先ほど俺の言葉を遮ったのは絶対に何かある。俺は続けた。


「思い出して、アオイ。涼華は…涼華は今みたいなアオイ、見たくないと思う」


アオイが俺を見る。その視線は今までの虚ろなものでも、敵意でもなかった。


ただ、悲しそうだった。


「アオイ…」


そしてアオイは力なく倒れた。顔の痣が薄くなっていく。元に戻ったのだ。


でも、俺は感じ取っていた。アオイはもう目を覚まさないだろうと。


手のひらのキーホルダーになったパルを見る。アオイもそのうちこうなるのだろうか。それともこのまま?


どちらにしても振り出しに戻ってしまった。俺は結局檻から出る方法もわからないままだ。深いため息をつく。


「トキ…上手くやってよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーー…私は物陰からトキとルーンの戦闘を眺めている事しかできなかった。


ほぼ互角の戦いだ。ルーンはトキより強いはずなのだが先ほども戦闘をしていたのだろうか、明らかに疲れが見えるし、なんだか肩を庇いながら戦っている気がする。


私と同じように遠くで二人の戦闘を見るハオの姿が目に入る。その表情は苦しそうで、どちらが勝っても負けても彼はその表情のままだと思う。


けど、二人の戦闘を止めようともしない…止められないのだろうか。


…ルーンは今カグラミのパートナーで、ハオは元パートナー…あの二人自体はそんなに仲が悪いようには感じない。心境は複雑だろう。


二人の距離が離れた。互いに息を整えている。トキが口を開いた。


「…聞きたい事がある」


「無駄話をする気はありません」


ルーンは服の汚れをサッサッとはたきながら答えた。その言葉を無視してトキが言う。


「お前、なんで山吹紫月に従う?」


ルーンの汚れをはたく手が止まる。


「…どういう意味です?」


「神楽水に従うのはわかる。さっきお前も言ってたけどパートナーに従うのは当然だからだ。でも山吹紫月は違う…お前どころかアオイとも契約してない」


確かに、初めて会った時からルーンは山吹先輩をお嬢様と呼んでいたし、山吹先輩もルーンと行動する事が多かった。互いに大切ならわからなくもないのだが…。


「山吹紫月は神楽水の何なんだ?身内か?じゃないとお前が山吹紫月を贔屓する理由がわからねえ」


「そうです。お嬢様はご主人の身内です。満足ですか?」


ルーンが再び身構える。隠していたつもりもなかったみたいだがこちらとしては驚きだ。あの二人が身内。言われてみれば顔が似ている。


「待て、もう一つ」


トキが少し後退りする。ルーンが握っていた拳を下ろし、呆れ顔でトキを見る。


「…何ですか」


「山吹紫月、あいつ人間じゃないだろ」


沈黙が流れる。私も聞き耳を立てながら硬直した。山吹先輩が人間じゃない?どういう事?トキが続ける。


「だからガチャっとと契約できない。違うか?」


ルーンは否定も肯定もしない。代わりにトキに素早く近づき、蹴りを入れる。不意打ちだったのでトキはそれをもろに食らい、倉庫のドラム缶が大量に置いてある箇所に突っ込んだ。轟音が響く。


「トキ!!」


私は物陰から飛び出し、トキに駆け寄る。トキはドラム缶に埋もれていたがすぐ顔を出し、私を抱き寄せた。


「図星だな」


ルーンを見ながらトキは不敵に笑う。ルーンは大きなため息を吐き、ガシガシと乱暴に頭をかいた。こんな姿は初めて見る。


「面倒くさい…黒に染まってた時にさっさと始末しておくべきでしたね」


「メッキが剥がれてきてんぞ」


「…その言い方もご主人そっくりでますます腹立たしい」


ルーンはドラム缶を蹴り飛ばす。私を抱き上げ、トキはルーンから距離を取った。ハオの隣に私を座らせる。


「…っえ」


ハオは予想外だったらしく、変な声を上げた。


「白菜を頼む」


ハオは私とトキを交互に見た。複雑な表情だ。ルーンがゆっくり近づいてくる。トキは私達の前に立った。


「頼む、お前しか頼れない。俺の大事なパートナーなんだ」


胸が高鳴った。ハオが私の手を握り、物陰まで移動する。その間もハオの顔はずっと暗かった。


「…ハオはルーンの事は嫌いじゃないの?」


小声で尋ねる。前に美佳の家で話した際カグラミの事は嫌いだとはっきり言っていたが、その後ルーンが来た際、ルーンとの会話は自然なものだった。


ハオは頷く。


「できたらルーンも俺やパルみたいに神楽水から離れてほしい。けど…それはしないと思う。神楽水が許さないだろうし」


「あなたとパルは納得したうえで神楽水と契約を解いたんだよね?」


「俺とパルとルーンは他のガチャっとと違ってパートナーの同意がなくても自由に契約を解けるんだ。神楽水がそう作ったから」


初耳だ。やはりカグラミの近くに置くガチャっとは少し特別なのだろうか。そのうえでハオに尋ねる。


「という事はカグラミの同意もなく契約を解いたの?」


「そう」


ドン!!と一層大きな音が響き、私達は物陰から顔を出した。見ると、トキの上にルーンが馬乗りになっていた。トキは息絶え絶えで、ルーンを見るのがやっとのようだ。


私は咄嗟に飛び出そうとした。だが、ハオが私の腕を強く掴む。振りほどこうとしたが力が強くて振りほどけない。


「離して!!このままじゃトキが」


「まだ…」


すると、そのハオの言葉とほぼ同時にルーンもうなだれる。よく見るとルーンの肩に槍のような物が刺さっていた。トキが出した武器だろう。


「…っ…この…」


「…お前、肩怪我してんだろ。弱点はわかんないようにしなくちゃ」


そう言ったトキは抵抗していた手を下ろし、ぱたりと動かなくなった。その直後にルーンも倒れる。


「ふ、二人とも死んじゃったの…?」


「死んでない、気絶しただけ。死んだら白菜姉と神楽水にも何かあるだろうし」


私は何ともない。かさぶたや生傷はそのままだが。ハオが掴んでいた手を離し、私はすぐトキに駆け寄った。気絶しているだけとは言え、死んでいるみたいに動かない。


「トキ…ごめんね」


私はトキを抱きしめた。ハオはというとルーンの隣に座り、髪を触っている。


「…勝手に触らないでもらえます?」


「あ、やっぱり起きてた。でも肩痛いでしょこれ」


槍はルーンの肩に刺さったままで血も出続けている。それにしてもトキは気絶しているのにルーンは意識があるのか。どう見てもルーンの方が重症なのに。思わず恐怖で身震いする。


「抜かない方がいいですね…これは」


ルーンはゆっくり体を起こし、引きずるように壁に背中をもたれかける。ハオが隣にちょこんと座る。


「何であなたも来るんです」


「いやそもそも二人を見張るのが目的でしょ。俺が隣にいてもおかしくない」


「…もういいです何でも。疲れた…」


ルーンは瞼を閉じた。眠るのだろう。それを見てハオはこちらに視線を移す。


「寝る前にルーンにトキを癒してもらえばよかったな」


「敵なのにそんな事してくれるの?」


「うーん…わかんないけど。紫月姉に頼んで紫月姉から指示されたらしてくれるんじゃないかな〜」


静かになってあたりが明るくなりつつある事に気づいた。一晩明けそうだ。



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