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ガチャっと!  作者: 彩銘
34/40

過去:神楽水サイド


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…ベル、紫杏との契約を解こうと思ってるみゅ」


ーー…数年前、不意にそう言ったのはベル…今のパルだった。その言葉は私とレオン、今のハオ三人の関係を変える一言だった。私はご主人の食べ終えた夕食の後片付けをしながら、レオンはそんな私の手伝いをしていた。


「な、なんで急に?」


レオンは落としそうになった皿を支えながら尋ねた。私は何も言わず、黙ってベルの話を聞く。


「…紫杏は変わったみゅ」


それには心当たりがある。ある人を亡くしてからご主人は学校にも行かず、部屋に閉じこもるようになった。このままでは退学だと、両親と言い合っていたのを覚えている。


「…紫杏兄、ずっと閉じこもったまま何してるんだろう」


ご主人は私達も部屋に入れなくなった。お手洗いの時や食事の時は姿を現す事があるのでたまに部屋を覗いたりしたのだが、先日見ていた事が見つかり怒られ、それから徹底的に部屋を覗かせないようにしている。


「何かしらの実験をしているようです」


洗った皿を拭きながら言う。ベルが首を傾げた。


「実験…何のみゅ?」


「さあ。しかし恐らくは…妹様の為でしょうね」


沈黙が流れる。先ほどのある人が亡くなった、というのはご主人の妹様の事だ。それも事故や事件ではなく、自ら命を絶ってしまった。最初にそれを発見したのもご主人だった。


「とにかく…ベルはここを出るみゅ。契約も解いて、ガチャポンに戻る」


私達三人は他のガチャっとと違い、自由にパートナーとの契約を故意に解く事ができる。通常は人間側の許可も必要なのだが。


「そうですか。さようなら」


「ちょ、ちょっと!そんなあっさり…ベル、考え直して?」


レオンが慌ててベルを止める。しかし、ベルの意思は固く、その日のうちに契約を解いてご主人の元を去った。



ーー…翌日、その事を念の為報告するべく私はご主人の部屋のドアをノックした。


「…何だ」


「報告があります」


ご主人はあっさりと扉を開けた。珍しい、最近は扉越しに用件を言え、という事ばかりなのに。


「ベルがあなたとの契約を解いてここを出ました」


「フーン」


契約されていたご主人も勘づいていただろうに、薄い反応だ。その時、ご主人の足元で何かが動くのがわかった。思わず身構える。


「あ〜やめろやめろ。敵じゃねーから」


よく見るとそれは人間だった。小学生くらいだろうか。黒いワンピースを着た、長い黒髪の少女。そして、私はその顔に息を呑んだ。


この少女…。


「…妹様…?」


そう、少女は妹様に瓜二つだった。さすがに困惑し硬直する。妹様は先日亡くなったはずで、とっくに遺体も火葬されたはず。


「そっくりだろ?我ながらよ〜く再現できたと思うわ」


「再現…」


「俺はアイツらに復讐する」


ご主人が冷たく言い放つ。その足元で妹様…にそっくりな少女がご主人のズボンを掴んだまま俯いている。ご主人が続ける。


「…紫月を殺した奴らを、俺が殺す」



ーー…そのまた翌日、少女を連れてご主人がリビングに降りてきた。両親は仕事で不在、私とレオン二人のリビングに。


「おはよ〜オマエら」


少女は相変わらずご主人の足元でリビングを珍しそうにキョロキョロと見回している。そんな少女にご主人が言う。


「紫月、この二人はオマエの味方だ」


「みかた?」


初めて声を聞いた。声まで妹様にそっくりだった。妹様じゃないのに、もうとっくに亡くなっているのに、懐かしい気持ちになる。


「そう。何か困った事、嫌な奴…何でもこの二人に言え。絶対に助けてくれる」


次は私とレオンにご主人が耳打ちする。


「…コイツ、紫月に容姿は似せてるが紫月の記憶は全く持ってない。ややこしいからな…俺の事も兄だと認識させてないから上手くやれ」


そう言ってご主人はやる事あるから!と少女を置いて部屋に戻ってしまった。少女はどうしたらいいかわからないのか、オロオロしている。


そんな少女にレオンが話しかける。


「初めまして、俺はレオン。君の事なんて呼んだらいい?」


少女がじっとレオンを見る。少し考えて、少女は呟いた。


「…紫月。うちは、山吹紫月」


レオンが私の方を見る。妹様はご主人と違ってこっち…関西で生まれて育ったので方言が出るのはわかるのだが、「山吹」という名字は…奥様の旧姓だ。


ご主人は自分が兄だと明かす気はないらしい。


「じゃあ紫月姉。よろしくね」


「姉?」


「うん。そう呼んでたから」


「?」


妹様ではないと言え、レオンも思うところがあるらしい。妹様は今度は私に目を向ける。いつもしていたように、頭を下げる。


「ルーンと申します。よろしくお願い致します、お嬢様」


これも妹様を呼んでいた時の呼び方だ。お嬢様の表情が明るくなる。どうやら私達に心を開いてくれるらしい。


「よろしくな、二人とも」



ーー…それ以降は比較的穏やかな日々を過ごしていたのだが、不幸とは重なるものである。


ご主人の両親が亡くなった。旅行先で、交通事故に巻き込まれて。


ご主人に身寄りはいなかった。私とレオン、お嬢様の三人だけ。葬式を終えたご主人は帰ってきて早々部屋を片づけ始めた。


「何してるんです、ご主人」


「この家を売りに出す」


「出してどうするんです、野宿でもするつもりですか」


「んなワケあるか。拠点を移すんだよ」


ご主人は私達の知らない所で両親の遺した大金を活用し倉庫を購入しており、しかも地下室まで作っていた。妹様が亡くなってからずっと引きこもっていたと思っていたのにこの行動力には脱帽せざるを得ない。


それにこれは生まれつきだがご主人は頭が良い。だからこそ妹様にそっくりな少女を作り上げたり、私達ガチャっとも作れたのだ。



ーー…ご主人が購入した倉庫は荒んでいた。いかにも何にも使ってない、長年手入れもされていないといった感じで、立地も木々が生い茂る町からは離れた不便な所。長年買い手なんてつかなかっただろう。


ご主人はそのおかげで安く購入できたと嬉々としていたが。


「ルーン、レオン。ここそれなりに綺麗にしとけ。俺はしばらく地下にいる」


そう言い残し、ご主人はほとんど地下室から姿を見せなくなった。食事の用意は昔と同じようにしろとの命令だったので私が率先して作ることになった。


お嬢様はというと普通の人間と同じように成長し、小中学校を卒業。あっという間に高校生になっていた。高校入試も高得点で、特待生として現在の高校に通う事になった。


…お嬢様はご主人の言う「設定」曰く、早くに両親を亡くし、唯一の親戚であるご主人に引き取られ、そして私達はお世話係としてそばにいる、となっている。


お嬢様が中学校を卒業した日、ご主人はお嬢様と私、そしてレオンを地下室に来るよう命じた。この時初めて地下室に足を踏み入れる事になるーー…。



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