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ガチャっと!  作者: 彩銘
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絶望


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はあ…」


俺はため息をついた。檻にパルと閉じ込められてから、体当たりしたり鉄格子を揺らしたりあらゆる手段をとったが檻は壊れそうにない。


「みゅ…」


パルもへなへなと座り込んだ。元々ボロボロだったのだ、無理もない。俺も壁を背に座り込む。


ガチャっとだから人間みたいに餓死する事はないが、一生このままは困る。それに、あの二人がいるという事はアオイや山吹紫月もいる可能性が高い。決着をつける、絶好のチャンス…。


その時、突然パルがポムッと音を立ててキーホルダーに戻ってしまった。俺はパルを凝視した。急に何だ…?


その姿に違和感を抱く。


「…パル…?」


パルをそっと拾い上げる。まごうことなく、キーホルダーだ。俺はパルに呼びかける。


「パル?パル?」


パルは答えない。嫌な予感が頭をよぎる。これ、契約が解けてただのキーホルダーに戻ったんじゃ?


契約を解くには互いの了承を得てガチャっとを元の場所に戻す方法、そして…人間かガチャっと、どちらかが命を落とす方法があるが。


まさか…


「美佳が死んだ…?」


俺はすぐ鉄格子に体当たりをした。相変わらずびくともしない。何度も何度も体当たりをする。まずい、美佳が死んだなら、他の人間達も殺されるかもしれない。


「クソ…!!クソ!!」


体が痛い。洋平が、みんなが危ない。もう涼華みたいな人間を見たくない。俺は何度も何度も、体当たりを続けた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


松尾美佳を始末し、倉庫に戻るとトキとアオイが倉庫の隅に座っているのが見えた。目を覚ましたのか。


「ルーン、あの二人は?」


お嬢様が尋ねる。その横でちらりと私を見るハオの姿もあった。遠くから聞いていたが、ハオはこちら側につくようだ。


「松尾美佳は殺しました。姫路白菜はトキの事もあり生かしてますが…精神的ダメージが強いと思うのですぐには動けないでしょうね」


「…殺したの…?」


ハオが私を見る。私は黙って頷いた。殴られるくらいの覚悟はしていたがハオは何もしてこなかった。


「いやぁ〜優秀優秀!さすが俺のパートナーだわ」


大げさに拍手をしながらご主人が現れる。


「お褒めに預かり光栄です」


「松尾美佳が死んだっつー事はお姫様も無機物に戻ったワケだろ?サイコーだわ、回収して来ようかな〜」


「キサメがまだ生きていると思いますが」


「キサメ…」


ご主人が俯く。だいたい何を言われるか想像できるが黙っておく。しばらくしてご主人が静かに言った。


「ルーン、キサメのパートナーも殺って来い。まとめて回収するわ」


「かしこまりました…が、キサメの方は見張ってなくて大丈夫なんですか」


ご主人はトキとアオイに目を向ける。


「オマエらが見張れ。逃げられそうになったら殺してもいいわ。ガチャっとは無機物になるだけだしな」


二人は顔を見合わせ、地下室へと降りていく。本当にただの操り人形に成り下がったな。


「それで…キサメのパートナーというのは」


「赤間洋平君や。あんたも覚えとるやろ」


うっすらとしか覚えていないが随分前…まだキサメが黒に染まっていた頃アオイが連れてきたんだったか。そして、アオイとキサメの戦いに巻き込まれ、怪我をして入院した。それ以降、姿は見ていない。


「意識は戻ったみたいやけどまだ入院しとる。病院に入るくらい容易いやろ」


「はい」


私はご主人とお嬢様に頭を下げ、倉庫を出た。



ーー…倉庫を出てすぐ、松尾美佳の死体とその傍らで声を殺して泣いている姫路白菜が目に入る。先ほどの様子だとトキは黒に染まっているみたいだし、この人間も殺していいか…?


「…なんでこんな事するの」


風にかき消されそうなくらい小さな声で姫路白菜が尋ねてきた。殺意は感じない、戦う気はないのだろう。彼女に勝ち目もないだろうし。


「ご主人とお嬢様の命令だからです」


長話をする気はない。そう言ってさっさと歩いて行く。赤間洋平が逃げるとは考え難いので焦らなくてもよいのだが、早く終わらせたい。


「あなたのご主人って…」


どうも聞きたい事がたくさんあるらしい。話したところで私に不利な事はないし、知られて困る事もない。大方あちら側も私達の動向は掴めているだろうし。


「神楽水紫杏様です。名前くらいは知ってますよね」


姫路白菜は気づいていないがとっくに彼女とご主人は会っている。ハオの口止めの為襲撃した松尾美佳の家の近くで。


「…山吹先輩はパートナーじゃないんだよね…」


不思議そうに姫路白菜が私を見つめる。泣きすぎて目のあたりが腫れている。


「あなたも知っているでしょうけど。一人の人間につきガチャっとのパートナーは一体です。従って私とお嬢様は契約できません」


「でもその…カグラミはあなたと…パルとハオとも契約してたんでしょ?」


そこまで知っているのか。まあパルもハオもあちら側だったし無理もない。


「ご主人は色々弄っていますから。もう行きます」


「い、行くってどこに…」


「言うわけないでしょう」


冷たく言い放ち、私は赤間洋平のいる病院へ足を進めた。

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