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ガチャっと!  作者: 彩銘
29/40

救済


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーー…音がしなくなった。


私は叫び続け、ほとんど声が出なくなってしまった。喉がカラカラだ。息も苦しい。


床に座り込む。ここから出られるチャンスだったのに。涙がポロポロとこぼれる。このまま出られなかったらどうしよう。


その時、どこからか声が聞こえた。


「ーー…な!白菜ー!」


私は顔を上げた。この声、美佳だ。不意に立ち上がり、辺りを歩く。


「美佳!美佳!!どこー!?」


声が近くなってきた。倒れている生徒達を避けながら声の聞こえる方へ進む。しばらくして、美佳の姿が見えた。


「美佳!!」


「白菜…!!」


私達は駆け寄り、抱きしめ合った。そしてわんわん泣いた。私達の泣き声だけが暗闇に響いた。



ーー…ひとしきり泣き終わった後、私達は状況を整理する事にした。


「…じゃあ、私が穴に吸い込まれた後、トキと…知らない男が来たの?」


「うん…あたしも気絶しててあまり覚えてないんだけど…でも、生徒会長の知り合いみたいだったよ、その男」


知り合い。この校内に山吹先輩側の人がいたんだろうか。でも、何でトキと一緒に?


「で、トキがアオイに注射器を打たれそうになってたから…止めたんだけど間に合わなかった」


注射器。多分アオイやキサメが打たれたあの液体だろう。じゃあ、トキは黒に染まっているって事?不安になってきた。トキは無事なんだろうか。


「ハオは一緒じゃなかったの?」


「うん」


だいたいわかったが情報が少なすぎる。トキは山吹先輩達と一緒にいるのだろう。早く見つけないと。でも…


「ここから出なきゃ…」


私は呟いた。美佳も頷く。やはり先ほどの音は気づいてもらえるチャンスだったんだろうな。悔しい。


「そもそも、ここ何なの?」


美佳が怪訝そうに呟く。確かに、ここは何なんだろう。


『ーー…ここは狭間、だよ』


突然声が聞こえ、私と美佳は声の方を向く。見ると、知らない女の子が立っていた。この学校ではないが制服姿だ。歳も同じくらいだろうか。


ただ、体が透けている。生きている人ではないのだろうか。


「あなたは…?」


『私は羽山涼華。今は…アオイ、でいいのかな。アオイの元パートナー』


羽山涼華。私と美佳は顔を見合わせた。という事は、ここはもう死の世界か何かなんだろうか。


『大丈夫、あなた達は死んでないよ。私がここから出してあげる』


羽山涼華は上を指さした。すると、光が差し込む。小さな穴が大きくなっていく。と同時に私達の体がふわりと宙に浮いた。


「う、浮いてる…!?」


『慌てないで。そのまま身を委ねてたら上に上がれるから』


羽山涼華の言う通り、私達は上に上に登る。出てきた先は体育館だった。体が完全に出きった後、穴が小さくなっていく。


「待って!なんで助けてくれたの!?」


美佳が尋ねる。小さくなっていく穴の中で、羽山涼華が一言だけ言った。


『助けたかったの。…アオイの事も助けてくれたら嬉しいな』


ーー…穴は完全に塞がってしまった。私達はしばらくその場に突っ立っていた。アオイ…今は黒に染まっていて、山吹先輩と一緒にいる。


「行こう、白菜」


美佳が力強く言った。私は頷き、体育館の扉を開ける。


倉庫に向かって私達は走り出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…倉庫の下にこんな地下室があるなんて…」


話には聞いていたが実際目の当たりにすると実感する。本当に道が奥まで続いている。ところどころ液体に浸かったよくわからない物が置いてある。実験室みたいだ。


「ここは神楽水と…ルーン、ハオ、そしてパルしか知らない場所みゅ。あ、今はアオイも知ってるかもみゅね」


「山吹紫月も知らないの?」


「知らないみゅ」


パルはどんどん奥に進んでいく。特に罠や攻撃もない。それが逆に気味悪い。パルがいるとはいえあまりにも簡単に入れすぎじゃないか…?


「…変みゅね。誰も来ない」


パルもさすがにおかしいと思ったのか背後をチラチラ気にしている。先ほどの話だと、もう俺達が地下室に入っている事は知られているはずなのだが。


ーー…歩いているうちに一番奥まで来たらしい。今までとは違う、頑丈そうな扉が目に入る。


「ここは…」


「神楽水の部屋みゅ」


パルは先ほどと同じように手をかざす。


「…開け」


が、何も起こらない。音もしない。パルが両手をかざす。


「開け、開け!」


何度もパルは言ったが、びくともしない。その時、上から何か降ってきた。俺とパルは背中合わせに廊下の中心に寄った。


「何…!?」


降ってきたのは鉄格子だった。大きい柱くらいの太さ。それが均等に俺とパルを囲った。これ、まるで大きな檻みたいだ。


「嵌められたみゅ…!この檻、パルが閉じ込められてたやつより頑丈みゅ…」


「嵌められたって…俺達が入ったのをわかったうえでわざと放置してたって事…!?」


「その通りです」


俺達が来た通路からルーンが姿を現す。パルがルーンを睨む。


「…わかってたみゅよね、パル達がここに入ったの」


「もちろん。…まあ私もこの檻は予想外でした。ご主人があらかじめ用意してたんですね」


「だぁってオマエたま〜に報告サボるじゃん?信用してねーワケじゃないけどさ?念の為よ念の為」


ルーンの背後から白衣の男が姿を現す。男は俺を見てニヤニヤと笑った。


「オマエがキサメかぁ…よく元に戻れたなぁ?」


「…あんたがカグラミ?」


「そーそー。ヨロシク〜」


カグラミはひらひらと手を振った。なんとも適当そうな男だが、こいつが全ての元凶…。


「お姫様も久しぶり〜」


「馴れ馴れしく話しかけるな」


パルの声が低くなった。殺気を感じる。いつもとの落差で身震いすらする。そんなパルに対し、カグラミは顔色一つ変えない。


「怖〜ツンデレもここまでくると恐怖だわ」


パルが鉄格子を掴み、大声で言う。


「出せ!!ここから!!」


フン、と鼻を鳴らしカグラミは来た道を戻って行く。そんなカグラミの背中を見ながらルーンが言う。


「出たいなら自力でどうぞ。あなたが壊した檻とは段違いで頑丈ですがね」


「…っ」


パルが唇を噛み締める。そんなパルの表情をしばらく見つめ、ルーンも来た道を戻る。俺もそんな二人を見ているだけしかできなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あ!!」


檻にキサメとパルを閉じ込めた事を確認し、来た道を戻るご主人が突然大声を出した。


「…何です」


「あそこにあの檻置いてたら俺部屋戻れなくね?しくじったわ〜」


そう言いながら頭をワシャワシャとかく。こういうところは考えてないんだな、この人。頭が良いのか悪いのか…。


「別に部屋でなくても実験も観察もできるでしょう。モニターや道具はそこらにあるんですし」


「いやまぁそうだけど…雰囲気出ねーじゃん」


意味のわからない理由に拍子抜けする。


…それにしてもこの地下室、長すぎる。なんでこんな地上に出るまで時間がかかるようにしたのか。沈黙が続く。


「…ハオに変な事吹き込んだでしょう」


世間話ついでに口を開く。別にご主人との沈黙は珍しくないし苦痛でもないが、今くらいでないと話せない気がして。


「変な事?」


「私がお嬢様を好きだの何だの」


「事実だろ」


ご主人はあっさり即答した。何が見えているのか。私は否定する。


「大切だと、護りたいと思っているのは事実です。でも恋愛感情はない」


「いやいやオマエあわよくば恋人になりた〜いとか思ってんだろ」


「…殺しますよ」


からかいすぎたと思ったのか、ご主人は黙った。実際すぐにでも殺せる。その代わり私も一緒に死ぬが。


「嫌なの?恋愛感情自覚すんの」


また蒸し返してきた。とはいえ真面目な声のトーンだったのでからかっているつもりはないらしい。


「嫌も何も…私達に恋愛感情は芽生えませんよね?」


「いや俺も予想外なんだけど既に芽生えてる奴がいんのよ、ちらほら」


それ、ご主人からしたら失敗作では?と喉まで出かかったが口を紡ぐ。それを言ってそうだな!で始末されたらたまらない。


「トキがいい例なんだけど〜ハオもなんだよなぁ。ちょっと話して確信したわ」


「でしょうね。じゃないと私に好きだの言いませんよね」


ご主人が足を止め、私を見た。


「は?言われたの?ハオに」


「はい」


沈黙が流れる。失言だったな、と思った。話の流れとはいえハオにも失礼だった。すると、ご主人は肩を震わせ始めた。


「…ご主人?」


「ハハハハハハハハハ!!サイコーだわアイツ!!言うかねフツー!!」


ご主人は腹を抱え、壁をバンバン叩きながら笑い出した。私は一歩引きながらご主人を眺める。


「何が最高なんです…あなたのせいですよ、余計な事吹き込むから」


「こ、告白しろとは言ってねーわ…こ、こくはく…ンフフッ」


「真面目に聞いてください」


「聞いてる聞いてる。で?どー思ったのオマエ」


今度は私が黙る。考えてなかった。あの時はなあなあになってしまったし…。


「…何言ってんだこいつ、ですかね」


「オマエもサイコーだなぁ」


ご主人が私の肩を叩く。よりによって怪我した方を叩くもので痛みが走る。本当に身勝手な人である。


そうこうしているうちに地上に出た。

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