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ガチャっと!  作者: 彩銘
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ーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌日…の六時間目。


列を作り、私達は体育館に向かう。トキ、そしてハオにも事情を話し体育館近くの男子トイレに隠れてもらっている。トキはキーホルダー姿で連れて行く事も考えたがハオが「一人でこんな臭いところにいたくない!」とごねたのでトキも一緒にトイレで待機してもらう事にした。二人に申し訳なさが募る。



体育館は他のクラスや学年の生徒であふれており、ざわついていた。全校集会というものは何故だかソワソワするものだ。


『ーー…それでは、全校集会を始めます』


司会進行の先生が舞台袖のスタンドマイクに向かって宣言する。その瞬間、体育館が静まり返る。


山吹先輩はというと先生達の横で放送部の子と何か話しているようだった。進行の確認をしているようで、怪しい素振りはない。周りにアオイ、ルーンの姿もない。



全校集会は進み、様々な議題を解決した後、放送部の子がスタンドマイクの前に立つ。


『続いて、生徒会長のお話です』


来た。私は思わず身構えた。山吹先輩が壇上に立ち、話を進める。話の内容は至って普通でどこの部活が賞を取ったとか、今後の行事の話とか…。


『…では、これで最後の話です』


数十分話した山吹先輩はすうっ、と息を吸った。そして、不意に右手を上に高く掲げる。生徒達が何事かと少しざわつく。


山吹先輩がパチン、と指を鳴らした。


その瞬間、生徒達がバタバタと倒れ始めた。先生達が慌てる。生徒達に駆け寄ろうとするが、その先生達も次々と倒れていく。


「…!?」


何故か私と美佳だけは倒れなかった。異様な空気だ。壇上に目を向けると右手を下ろし、微笑む山吹先輩が見えた。


『…久しぶりに話すなあ、二人とも』


マイクを通して私達に話しかけてくる。美佳が声を張り上げた。


「何をしたの!?」


『ちょっと気絶してもらっただけや。大丈夫、死んではないから』


舞台袖からアオイが姿を現す。今の一連はアオイの力なのだろうか。山吹先輩がアオイの肩に手を乗せる。


『すごいなあ。今の、アオイの力やで。やっぱり二本分の薬を入れたら強くなるんやな』


「二本分…!?」


アオイは既に黒に染まっている。という事は、キサメが言っていた黒に染める相手はアオイ?予想外だ。そんな事可能なの?しかし、アオイの様子は至って普通で、前と会った時と雰囲気も見た目もあまり変わらない。


『さて、ここからが本題や』


山吹先輩は私に視線を向けた。笑顔だが、目が笑っていない。背筋が寒くなる。


『白菜ちゃん、トキはどこや?』


キサメ…元はと言えばアオイが忠告した通りやはりトキ狙いだった。私は負けじと山吹先輩を睨む。トキは男子トイレにいるけど、絶対に口を割らない。山吹先輩が困った表情で言う。


『…ま、そう簡単には教えんよな。大方何をするかわかっとるみたいやし…アオイ』


アオイがひらりと壇上から下り、スタスタと体育館の扉の方に向かう。咄嗟に美佳がアオイの腕を掴んだ。


「行かせるわけないでしょ!?」


アオイがじろりと美佳を睨む。その瞬間、美佳が頭を押さえてうずくまった。


「う…」


『ほお、耐えるか。やっぱりガチャっとの加護とかあるんかな?』


アオイが体育館を出て行く。トキとハオの場所がわかるのかどうかは定かではないが、このまま行かせたらマズい。私は美佳を横目にアオイの後を追おうと走る。


その時だった。


「きゃ…!?」


床に突然大きな空洞が現れた。真っ暗で何も見えない。私は吸い込まれるようにその空洞に落ちてしまった。


ーー…山吹先輩の笑い声を聞きながら。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…来てる」


全校集会が始まったであろう時、俺の隣で個室のドアに耳をくっつけていたハオが小声で言った。


「誰が?」


「ルーン…じゃない、アオイかな…とにかく俺達意外のガチャっとがいる」


俺は感心した。元々ルーン、パルと同じカグラミのパートナーだっただけあってそういうのも感じ取れるのか。俺達普通のガチャっとには少し難しい。


「体育館、行ったほうがいいのか?」


「いや、まだ…多分いるだけで何もしてない」



どのくらい時間が経っただろう。相変わらずあたりは静まり返っている。全校集会というのは騒ぐような会ではないそうなので当たり前といえば当たり前なのだが。


すると、突然ハオが個室を飛び出した。


「は!?おい!!」


「マズい、動き出してる!!」


ハオが男子トイレ自体のドアを開けようと手をかけ、右に引く。しかし、ドアは開かない。


「開かない!なんで!?」


当たり前だが鍵はかけていない。できるとすれば外から鍵をかけられるのだが、今は全校集会中で校内に人はいない。それに、鍵がかかって開かないわけではなさそうだ。俺もハオとは逆のドアに手をかけ、左に引くがびくともしない。


「…閉じ込められたって事か…?」


すると、ハオがドアを引くのをやめ一歩下がり、手をドアにかざした。何かするのだろうか。俺もハオに習って一歩下がる。ハオが低い声で呟いた。


「…開け」


パキン、と何かが割れるような、よくわからない音がした。ハオが再びドアを引くと、ドアが開いた。


「すげえ…」


「これ、ルーンの術だ。ここに俺達がいるのわかってたんだ」


「さっきルーンはいないって言ってなかったか?」


「いたのかもしれない…俺はもうカグラミのパートナーじゃないからルーンとも遠くなってる…気配がわからなかったのかも」


ハオがしゅん…と肩を落とす。カグラミの事は嫌そうだがルーンの事は好きそうなので気配がわからなかったのはショックだったのだろうか。


「とにかく、外には出れる。体育館に行くぞ」


外に出た時、廊下に人影があった。思わず立ち止まる。


「お〜よく出れたなぁ、オマエら」


その声を聞いて、ドクンと心臓が鳴る。この声前も聞いた。どこだったか…美佳の家の前?俺の後ろにいたハオが後ずさる。


「お前は…」


「お前、はねぇだろ。レオン?ああ、今はハオだったなぁ」


人影が近づいてくる。俺は身の危険を感じ、キーホルダー姿になろうとした。しかし、なれない。


「ムダムダ。オマエあん時みたいにキーホルダー姿になるつもりだろ?俺が嫌だから」


ハオが反射的にその人影に飛びかかる。その時、人影がハオに何かを投げた。その何かはハオに当たり、ハオは床に落ちた。


「!これ…っ」


見るとハオの首に革製の首輪がついていた。見た感じすぐ外れそうだが、ハオが引っ張っても外れないし、千切れそうもない。


「試作品は厳つい鉄製だったんだけどよ、ルーンの奴がダサいっつーから俺めちゃくちゃ頑張って革製のヤツ作ったんだわ。オシャレだろ?」


ハオが人影を睨みつける。それに構わず人影は俺の前まで歩いてきた。顔がハッキリと見えた。やはり美佳の家の前で会った男だった。


「まずは自己紹介しとくか〜俺は神楽水紫杏かぐらみしあん。ルーンのパートナーで…オマエらガチャっとの生みの親だ」


カグラミ。こいつが…。俺は黙ってそれを聞いていた。神楽水が俺の肩に手を置く。


「俺の目的はただ一つ。人間を滅ぼしてガチャっとだけの世界を創る。オマエらは実験体」


「…人間を滅ぼしたらお前にも影響あるだろ」


やっと口が開けた。神楽水はニッコリ笑う。


「そりゃそうよ、人間は死ぬんだから。俺人間だし…でも構わねぇな、ガチャっとだけの世界の方が大事」


神楽水は俺から離れ、ハオに近づく。ハオは首輪をつけられてからずっと座り込んだままだ。


「利口だなぁ、ハオ。その首輪つけたまままあんまり動くとオマエのご主人様が危ねぇもんな?」


どういう意味だろう。不思議そうに二人を見ていると、神楽水は俺に説明した。


「この首輪、つけたガチャっととパートナーの命を削る力を持ってんの。しかも動くとそれが早まる。だからこいつ大人しいんだわ」


「…それだけじゃないんでしょ」


ハオが神楽水に言う。神楽水はフン、と鼻を鳴らし再び俺に向き合った。


「トキ、こいつを…いや、他全員もだな。全員を助けたければ俺について来い」


罠だ、絶対に。キサメがアオイの忠告を聞いた通り神楽水の狙いは俺。何を企んでいるかはわからないが、この提案を拒むと俺…そして白菜達にも被害が及ぶだろう。


「…わかった」


「トキ!」


ハオがダメだと言わんばかりに声を張り上げる。そんなハオを見て神楽水は不気味な笑顔を浮かべた。


「トキがわかったつってんだよ。オマエには止める権利ねぇから」


「…」


ハオは唇を噛み締めた。今すぐにでも神楽水に飛びかかっていきたい雰囲気だが首輪の手前そうもいかないらしい。神楽水は踵を返す。俺は神楽水の後をついて行く。


「…ハオ、大丈夫だ。白菜達を頼む」


まともに動ける状態じゃないハオに頼むのも気が引けたがハオなら…それに今の状況だと、全校集会が終われば誰かここを通りかかるだろう。その時にハオを助けてくれるだろうと信じ、ハオの横を通る。ハオが頷くのが見えた。


俺は神楽水と共に学校を後にした。

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