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ガチャっと!  作者: 彩銘
19/40

対峙2


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌日。


「白菜、おはよう」


「おはよう」


あたしは下駄箱で靴を履き替えていた白菜の背中を見て挨拶をした。白菜も振り返り、挨拶を返す。


「…昨日の冴子、何か隠してたよねあれは」


あたしは白菜に顔を寄せて小声で尋ねた。白菜が辺りを見回して頷く。下駄箱には登校してきた生徒がたくさんいるが、冴子の姿はない。


「やっぱり山吹先輩と私達を会わせたくないんだろうね…」


何故冴子があたしと白菜を敵視し始めたのか不明だが生徒会長が絡んでるのはわかる。でも、冴子の前に生徒会長にアオイの事を聞かなければ。もしかしたら、冴子の誤解にも繋がるかもしれない。


「ーー…美佳」


コソコソと話していたあたし達は不意に呼ばれ、同時に勢いよく振り返った。立っていたのは冴子だった。あたしも白菜も口を紡ぐ。今の、聞かれてた?鼓動が早くなる。


「…冴子」


「話があるんだけど。昼休みいい?」


「う、うん」


冴子はちらりと白菜を見て付け加えた。


「一人で来て」


冴子はそのまま廊下を歩いていく。つまり、白菜は来てほしくないという事だ。察したのか、白菜が慌てて言う。


「私の事は気にしないで」


「うん…」


白菜には悪いがこれはチャンスだ。うまくいけば誤解が解けるかもしれないし、生徒会長の事も、アオイの事も聞けるかもしれない。あたしは気合いを入れた。




昼休み。


あたしは冴子に呼ばれ、茶道部の部室のドアをノックした。


「どうぞ」


「…」


冴子の声じゃない。あたしはドアを開いた。そこには冴子と、生徒会長がいた。部室は昼間なのに薄暗く、二人の雰囲気が妖しさを一層放っている。敵のアジトにでも踏み込んだ気分。


「ふふ、怖い顔やな。やっぱりうちは信用できんか」


「…当たり前ですよね。冴子の事もあるし」


「冴子ちゃんに何吹き込んだんかって話やろ?物は言いようやな」


生徒会長は例の物置部屋に入るようあたしと冴子を促した。少し身構える。今、この状況は袋のネズミだ。何をされるかわからない。今日は念の為パルちゃんにもキーホルダーでついてきてもらっている。


「そうそう、あの後ここ少し掃除したんよ。ちょっと綺麗やろ?」


あたしの心配をよそに生徒会長はクスクスと笑った。あたしは生徒会長の姿をチラチラと見ているがルーンもアオイの気配もない。油断しては駄目だ、この人なら隠して上手く連れてきているかもしれないし。


生徒会長と冴子が並んで椅子に座り、二人の正面にあたしは座った。


「冴子ちゃんから聞いたんやけど、うちと話したい事あるんやろ?」


先に引導を渡され、驚く。てっきり生徒会長が冴子にあたしと白菜に会わないよう手引きしてるんだと思っていた。冴子はというとずっと黙ったままだ。


「…アオイの過去を教えてほしいんです」


あたしは正直に言った。白菜がアオイが言っていたという言葉は伏せるが、アオイの過去を知りたいのは本当だ。生徒会長は少し驚いた表情をする。


「ほお?てっきりうちやルーンの事聞いてくるかと思っとったのに。アオイねえ…」


生徒会長は頬杖をつく。


「…アオイの前のパートナーが死んだのは知っとるんか?正確には殺されたんやけど」


その話は白菜から聞いた。白菜もキサメから聞いたらしく、キサメから許可をとって話してもらった。あたし達側の人はみんな知っている。


「そのパートナーが殺された後、キサメの話だとアオイはガチャガチャの中に戻ったって言ってました。その後生徒会長がアオイと契約した事になりますよね」


生徒会長は黙ってあたしの話を聞いている。口を開く気はなさそうだ。あたしは続ける。


「でも、生徒会長はアオイのパートナーじゃない。生徒会長とアオイの関係って何なんですか?」


「…友達やって言ったら納得するか?」


生徒会長は冷たく言い放つ。なんとなく怒っているような気がする。怯んだら駄目だ、まだ何も聞けていない。


生徒会長は不意に立ち上がり、部屋の鍵をかけた。逃げられないと言わんばかりに、不気味に微笑む。


「ええよ、教えたる。うちとアオイに何があったか」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーー…真っ暗だ。


目を開けても何も見えない。暗闇だ。目が潤んでいるのが自分でもわかる。記憶を辿って、パートナー…今はもう元パートナーだが、涼華の最期を思い出す。


そうだ、涼華は殺されたから契約が切れて、俺はただの人形に戻ったんだ。ここはカプセルの中だ。


あれからどれくらい経ったかわからない。でももう、どうでもいいや…。


目を瞑ろうとした瞬間、目の前がぱあっと明るくなる。突然の眩しさに思わず目を細めた。


「よお、ガチャっと。目覚めはどうだ?」


声の方に目を向けると見知らぬ男が立っていた。白衣を着ている。医者?研究者?その男の背後からじっと少女が俺を見ている。こちらも知らない。


「見ろよ紫月、こうやってガチャっとは出てくんだ」


男が少女に声をかける。少女はサッと男の背後に隠れてしまった。


「ガチャっとにも人見知りすんのかよ…人じゃねぇからガチャっと見知りか?」


「…契約したくない」


思わず口からこぼれていた。まだ涼華の事を忘れられないのに新しいパートナーなんて…この時点で今の俺のパートナーはこの男だ。だが、すぐ契約を切る事もできる。お互いの同意さえあれば…。


「おう、俺もハナからオマエと契約する気ねぇから」


男はしれっと言った。思わず目を丸くする。じゃあなんでガチャガチャを回したんだ?ガチャっとの事を知らないわけじゃないだろうし。


「すぐ契約は切る。で…オマエには別の道を歩ませてやんよ」


「別の道…?」


男は白衣のポケットから注射器を取り出した。中の液体はドス黒い。明らかに普通の薬じゃないのはわかった。男は注射器を器用に回しながら言った。


「これをオマエに注入する。で、こいつのお守りをしてもらう」


男は少女に視線を移した。少女は俯いたまま、男の白衣を握る手に力を込めている。少し震えているようだ。お守りって…この少女の?


「俺、忙しくてさぁ。オマエの他にもガチャっとはいるにはいるんだけど俺の世話役だし手放したくねぇわけ。で、オマエに頼みたいのよ」


「…その女と契約しろって事?」


「契約はしなくていい。この薬を注入して、そばにいてくれれば」


俺は首を傾げた。だったらこの男と俺は契約したままでいいような…?そもそも契約を切ったら俺はまたカプセルに戻るんだけど。


「これ、特殊な薬だから俺と契約切ってもオマエはカプセルには戻らねぇの。それは心配要らねぇ」


怪しい。色からして危ないし、この男も少女も信用できない。でも、もうどうでもいい。この後俺がどうなろうと、涼華は戻って来ないんだし。


「…わかった。その注射打って」


「聞き分けがいいなぁ。んじゃ、プスっとな〜」


チクリと痛みが走る。ドス黒い液体がみるみる体の中に入るのがわかった。その瞬間ものすごい開放感に包まれた。快楽すら感じる。気持ちいい。


「…はい、終わり。具合はどうよ」


「どうとも…」


少女が男の背後から顔を出した。少し目を輝かせている。なんだろう?男が少女に言う。


「黒に染まるところを見たの初めてだったっけ、オマエ。なかなかかっけぇだろ?ルーンもレオンも染めなくても強ぇからな〜いい実験になったわ」


何を言ってるかわからないが特に問題はないらしい。少女がおそるおそる俺に近づく。


「…アオイ」


「え?」


「アオイって名前にする」


どうやら俺の名前らしい。男はまぁいいんじゃね?とか言って少女と俺に手招きしながら歩いていく。少女が俺の手を握って、笑った。


「これからよろしくな、アオイ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なかなかハートフルやろ?」


一通り話し終えた生徒会長がフーと息を吐く。注射器、黒い液体、そして黒に染める…。まさかここまで話してくれるなんて。


「…今の話に出てきた男は…」


「カグラミや。知っとるんやろ、その名前も」


生徒会長は即答した。そうなると、全ての元凶はカグラミという事になる。アオイを黒に染めたのも…。


「…部長、今の話…」


ずっと黙っていた冴子がやっと口を開いた。理解が追いついてない顔だ。生徒会長から詳しい話は聞いてなかったんだろうか。


すると、生徒会長が微笑んだ。


「堪忍なあ、冴子ちゃん。ずっと黙っとって」


その瞬間、赤い飛沫が飛び散る。血だ。気づくと、冴子のお腹に鋭い刃物のようなものが突き刺さっていた。


「…あ…」


冴子はそのまま倒れる。あたしは冴子に駆け寄った。床が、血で赤く染まっていく。


「冴子!!冴子!!」


見ると、いつの間にかルーンが立っていた。赤く染まった刃物を持って。生徒会長が言う。


「…ハオ、おるんやろ?」


ポンッと音がしてハオが現れる。倒れた冴子を見ながら呟く。


「…冴子姉死んだの?」


「死んどらんよ。急所は外すようルーンに言ったからな」


「俺が目的なんでしょ?紫月姉」


ハオは生徒会長から視線を逸らさない。生徒会長も真っすぐハオを見ている。あたしはスマホで救急車を呼んだ。その間、誰も冴子を心配するでもなく話が続いている。


あたし、とんでもない事に足を踏み入れてしまったんだろうか。


「美佳ちゃん」


不意に名前を呼ばれ、生徒会長を見る。あたしは屈んでいるので自然と生徒会長の目線が上になる。微笑んでいるが、目が全く笑っていない。


「パルを渡してくれん?」


「…は…?」


「大人しく渡してくれたら冴子ちゃんみたいにはせんよ」


脅されている。言われるまでもない。ルーンは生徒会長の後ろにいるが、まだ刃物を持っているだろうし、ハオは遠くを眺めている。部屋のドアまでは距離があるし、鍵を開けるのに少し時間がかかる。


あたし、本当に袋のネズミだ。


「…傷つけますか?」


ルーンが刃物を構える。生徒会長が手で制止した。


「待ちや。まだ返事聞いとらんやろ、せっかちやな」


あたしはぐったりした冴子を見ながらどうしたらいいか考えていた。パルちゃんを渡すなんて駄目だ。どんな目に遭わされるかわからない。でも、このままだとあたしも冴子みたいに…。


「美佳、大丈夫みゅ」


そう言いながらポンッという音と共にパルちゃんが人間姿であたしをかばうように立ち上がった。あたしはパルちゃんの腕を掴む。


「パルちゃんダメ!危ない…!」


「パルがそっちに行けばいいみゅね」


パルちゃんは生徒会長とルーンを見たまま言った。ルーンが刃物を下ろし、生徒会長がクスリと笑う。


「聞き分けがよくて助かるわ」


「勘違いするなよ。お前の為じゃない、美佳の為」


パルちゃんは低い声で言った。ルーンが眉間に皺を寄せる。よほど不愉快だったようだ。あたしはパルちゃんの腕をさらに強く掴む。


「パルちゃん!!」


「約束しろ、山吹紫月。パルはそっちにつく。けど条件付きだ、今後美佳及び美佳の友達や家族に手を出さない事」


「…破ったら?」


「殺す。お前もルーンもアオイもみんな」


チッ、とルーンが小さく舌打ちしたのがわかった。パルもそれに気づいたらしくルーンに視線を向ける。


「不満みゅ?」


「ええとても。お嬢様がいなければ殺していたかもしれません」


「ルーンにパルは倒せないみゅよ?」


普段のパルからは考えられないくらい挑発的な発言で思わず体がこわばる。パルちゃんに関わらずルーンもハオも戦闘狂みたいなの、なんか嫌だな…。


「交渉成立やな」


生徒会長がパン、と手を叩く。あたしは生徒会長を睨んだ。何が交渉成立だ、交渉なんて全くしていない。パルちゃんが折れただけなんだから。


ーー…その後、救急車が来て一時学校は騒然となった。だが生徒会長の巧みな話術(ほぼ嘘)で、事は丸く収まった。


そして、パルちゃんは生徒会長達と共に行ってしまった。


「…あなたは行かなくてよかったの」


色々収まり、帰路を辿るあたしの隣を歩いているハオにあたしは聞いた。生徒会長もパルちゃんは連れて行ったけどハオは特に連れて行く気はなさそうで、ハオもあっち側に行く気はないらしい。


「俺、ダシにされたんだと思う。紫月姉達の狙いは最初からベル…じゃなかったパルだったんだろうし」


ダシにされてるとわかったのによく平常心を保っていられるな。ハオは続ける。


「それに、冴子姉が心配」


それはあたしもそうだ。まさか刺されるなんて思わなかった。生徒会長も怖いが、人を刺す事を躊躇わないルーンも怖い。生徒会長の命令なら本当に何でも聞くんだろう。


「…ルーンって昔からあんななの?」


「うん。紫月姉と…ご主人、あ、カグラミね。その二人の命令なら何でも聞いてた」


「ふーん…」


とりあえず今日はハオはあたしの家に泊まってもらう事にした。白菜と赤間君にも、今日の事は話すつもりだ。

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