ハオ
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「冴子ちゃん、待たせたなあ」
放課後、約束通り私と部長は待ち合わせてガチャっとがいるというガチャポンを回しに行く事になった。小声で部長が尋ねる。
「…二人には言ってないよな?」
「はい、ホームルーム終わってすぐ出てきたので」
「ほっか。ならええわ」
部長は校門を出てしばらくしたところで止まった。ガチャポンが並んでいる。ここ、赤間君と二人になった時のガチャポンだ。あの時、確かにキーホルダー…ガチャっとが入っていた。
「冴子ちゃん、回してくれるか?」
「…はい」
百円を財布から出し、入れる。ガチャポンを回すのは初めてではないが、状況が状況だからか緊張する。ハンドルを回すとオレンジ色のカプセルが出てきた。
「…ほお、ええの引いたなあ」
部長がそう言うなりポンッと音がして男の子が現れた。男の子といっても背丈は私より高い。ただ、何故か裸だったので私達は慌てて物陰に移動した。
「あなたが…ガチャっと?」
「うん!お姉さんが回してくれたの?」
「う、うん…」
「ありがとー!カプセルの中って窮屈だから出られて嬉しい!よろしく!」
そう言いながら男の子は私に抱きついてきた。勢いとはいえ裸で男の子に抱きつかれるのはかなりマズい。私はとっさに男の子から離れた。
「あれ?嫌だった?」
「い、嫌じゃないけど…は、裸なのはちょっと」
そっかあ!と言って男の子は辺りを見回す。なんか犬みたいな子だな…。よく見ると犬みたいな耳と尻尾もある。化け猫ならぬ、化け犬?謎だ。
「冴子ちゃん、名前つけたげて」
私達を見ていた部長が口を開いた。その部長の声を聞いて男の子が耳をピンと立てた。
「んっ?その声まさか…紫月姉!?」
「そうや。久しぶりやな」
「紫月姉ー!!」
男の子はさっきと同じように部長に抱きつく…つもりだったのだろうが、部長はひらりとそれを避けた。避け方綺麗だな…。
「紫月姉元気だった?ルーンも一緒?」
「元気や。ルーンは一緒やないな、留守番や」
「ええールーンに会いたかった…」
二人の会話を私はしばらく聞いていた。この感じ、二人は知り合い?そんな私を見て部長が言う。
「こいつ昔馴染みなんや。契約はしてなかったけどな、ルーンの事も知っとる」
「へ、へえ…」
「ねーお姉さん、俺の名前は?」
忘れてた。とはいえいきなり名前をつけろと言われても正直困る…が、今決めないといけないんだろう。私はウンウン唸って、決めた。
「…ハオ」
「はお?」
「あ、うん…昨日食べた肉まんにハオって書いてあったから…嫌かな」
「ううん!いいよ!俺はハオ!ハオ〜」
くるくると回りながら男の子…ハオは名前を言う。本当に犬みたいだな。部長が手を叩く。
「さて、今日はこれでお開きにしよか。作戦…というか話はまた明日しよ」
「そうですね…」
これで私もガチャっとと契約が結べた。白菜と美佳がどんな事をしているのかはっきりとわからないが、私もようやく関われる。それは嬉しい。
「帰ろ、お姉さん!」
ハオが私の手を握る。
「あの、私冴子っていうから…名前で呼んで?」
「さえこ?じゃあ冴子姉!帰ろ〜」
ぐいぐいと私の手を引っ張るハオ。裸なので私の長袖の体操服を着せ、コソコソと歩く。部長とは久々の再会だったようだが積もる話なんていうのはないのか。さっぱりしてるな…。こうして、私達は帰路を辿った。
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「…」
静かだ。先輩はまだ帰ってこない。先ほどまで俺は眠っていた。見慣れた倉庫の部屋の天井…。ここに来て、先輩と会って、どれくらい経っただろう。
涼華の事を忘れた事はない。今でも、会いたくて会いたくてたまらないし、どうして守ってやれなかったのか今でも後悔の念がつのる。
あの時、少し目を離した隙に、俺が一人にしたから…だから、涼華は襲われ死んでしまった。
あの日も満月だったな。
「ただいまあ」
先輩の声だ。俺は部屋から顔を出した。先輩は俺を見ると微笑んだ。かなり機嫌が良い。
「起きとったんか」
「はい…先輩、何か良いことありました?」
「おん。アオイ、仲間が増えたで」
「…仲間?」
「そう。黒には染まってへんけど…昔馴染みやし確実にうちらの味方や。うちがそう仕向けたからな」
先輩は慣れた手つきで緑茶を注ぐ。俺の分も用意してくれた。仕向けたという事は、またあることないこと吹き込んだのだろうか。この人はそういう人だ。
「ーー…昔馴染みという事は私も知っている人物ですか」
いつの間にかルーンが俺の隣に立っていた。相変わらず気配を消すのが上手い。最初は驚いていたがもうすっかり慣れてしまった。
「レオンや。今はハオって名前やけどな」
聞き覚えのない名前だ。俺がここに来る前いなくなった奴だろう。ルーンを見ると苦虫を噛み潰したような表情をしている。
「…何故よりによって…」
「あんた分かり易すぎやろ。わざとやないよ?誰が出るかは分からんかったんやから」
ルーンはため息をつき、部屋から出て行った。ルーンがあんなに嫌そうな顔をするのを初めて見た。よっぽど苦手なんだろうか。
「…ルーンと何かあったんですか。その、ハオって奴」
気になりすぎて先輩に聞いた。先輩は意地悪そうな顔をする。この人楽しんでるな…。
「何もないよ?ただ…まあ馬が合わんのや。仲は悪くないと思うで」
俺は眉間に皺を寄せた。ルーンがあれだけ嫌がる奴、仲間になるとか俺もなんか嫌なんだけど。とはいえ、そんな事言ったら俺が追い出されかねない。
俺、誰とも契約結んでないからガチャポンの中に戻されるだろうし。
「さて、うち明日早いからもう寝るで。アオイはまだ起きとくんやろ?あんま夜更かしせんようにな」
「はい。おやすみなさい」
「おやすみ」
先輩は部屋を出て行った。俺は再び寝転び、瞼を閉じた。




