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〜第一章〜見習い保安官ジュリ、始動5(改)

「ジルサミアか。よく知っていたな、ジュリ」

一通り進捗状況を報告した後にシュルス支部長にそう言われた。

「はい。でもまだジルサミアという確証が持てません。ジルサミアだとしたらケパコスが必要なはずなのですが、現場からはそれらしき鉱石は見つかりませんでした」

現場を隈無く探したつもりだが見落としはなかっただろうか。

今になって不安に苛まれる。



「そうだな。ジルサミアだとしたら恐らくケパコスは見つからないだろうな」

シュルス支部長の思わぬ発言に私だけじゃなくマリノさんやカイドさんも「え?」と同時に声を上げてしまった。

「どういうことですか?ケパコスが見つからない?」

カイドさんが机に身を乗り出してシュルス支部長に詰め寄る。

「まぁ落ち着けカイド。俺も詳しく知っているわけじゃないがな。ジルサミアを爆発させるのにはケパコスが必要、それはジュリに聞いて知ったんだろう?」

「ええ、私はジルサミアという名前だけは聞いた事がありましたがその使用方法や効果などの知識はありませんでした」

「俺は名前すら知らなかったです」



「まぁそうだろうな。ふむ、ジュリ、ジルサミアについて君が知っていることを話してくれ」

え、私?そんないきなり・・

一拍、間を挟み、何かを考えているように思えたシュルス支部長の口から出た言葉に私は思わずたじろいでしまった。

上官への報告は研修の時に経験したけれどやはり緊張してしまう。

「そんなに構えなくていいのよ。単なる練習だと思って」

そっと耳元でマリノさんが耳打ちをしてくれて少し気持ちを落ち着かせる事ができた私は頭の中を整理しながらジルサミアについて私の持ち得る知識を説明し始めた。



「ジルサミアはかつてこの大陸で広く採石された油分を多く含む鉱石で、ずっと以前はその油を抽出し燃料などに使われていました。それはジルサニアも同様で、より発火性の強いジルサミアは燃料として、ジルサニアは灯りなどの生活油として区分されていました。だけれど・・」

ごほん、と一呼吸置いて再び説明を始める。

捲し立てるように話しちゃ駄目。

落ち着いて話すことを心掛けないと。



「だけれど、ジルサニアの調合の技術が向上し燃料などにも使用できるようになったことと、ジルサミアの鉱脈が枯渇し始め産出量が減ったことによりジルサミアは徐々に市場から姿を消していき、現在では市場に出回ることはありません。だけれどジルサミアの持つある特性が発見されてまた僅かですが砕石が再開されることになりました。そのある特性というのが、衝撃を加えると爆発する、というものです」

ふと隣を見ると朝に顔を合わせたギルダさんとトキトさんも調査から戻ってきたのだろうか、私達の、いや私の説明を聞いていることに気が付いた。

私は思わず会釈をしてお疲れさまです、と一言挨拶をしてジルサミアの説明を続けた。



「爆発に必要なエネルギーの大きさは私が調べた文献には詳しく書かれていませんでしたが、それに必要な鉱石については記してありました。ケパコスという、大陸の北の方、ガルネット国やアメシット国などで採れる鉱石を一定量で混ぜ合わせる、というものでした。いずれも詳細な分量など記したものは学院の書庫にはなく、しかもその文献もかなり昔のものなので探せばもっと詳しく記したものが存在するかもしれません。私が知ることは以上です」

ふう、と小さく吐息を吐き胸に手を当てる。

何か説明し忘れたことはないだろうか。

私はちゃんと出来たかな。

知っていることは全て伝えられたはず。

数秒の間を置いた後、シュルス支部長が「そうだな」と口を開いた。



「ふむ、そうだな。ジュリの説明で概ね合っているだろう」

概ねってことは・・、多少なりとも私の説明に不足があったんだ・・

勉強するなら徹底的に、それをずっと信条として学院時代を過ごしてきた。

だから試験の順位だって、様々な年代が集う専門学院でだって一桁から落ちたことはない。

それでも不足があったということは少なからずショックを受けた。



「実はな、ギルダやトキト達の初動調査の報告を受けて、ジルサミアの可能性が思い浮かんだんだ。俺が新人の頃だからもうだいぶ昔だが、ジルサミアの誤爆発があってな。それが頭をよぎった」

「それで俺たちが支部長の指示を受けてクルリドの学院の書庫から参考になりそうな文献を借りてきたんだ」

そう言ってギルダさんは数冊の書籍をシュルス支部長の机に乗せた。



「マリノやカイドがジルサミアの可能性に辿り着くかと思ってね。ジュリが気付いたのは意外ではあったが」

「俺たちもすぐにでも参考になりそうな文献を探そうと思っていました。ありがとうございます」

カイドさんがシュルス支部長にお礼を伝えながら積まれた書籍の一冊を手に取り読み始めた。

それに続いてシュルス支部長の机に並べられた鉱石に関する書籍を各々手に取ってペラペラとページを捲っていく。

私も『油分を含む鉱石たち』というタイトルの書籍を手に取り中を読み進めた。

このタイトルの書籍は私がいた学院にはなかったな。

ゆっくりじっくり読みたいけれど今は事件に関連する部分だけを見つけて調べなければならない。



「私が見ている書籍ではジルサミアについての記載はありますが、はるか昔の生活に根付いた鉱石としてしか説明がないですね」

トキトさんは驚くほどのスピードで一冊を読み終え、次の書籍に手を伸ばしているのに驚いてしまった。

マリノさんやカイドさん、その見た目から勝手に体力自慢が売りだと思っていたギルダさんも驚く早さでページを捲っていく。



「あ、これ・・、もしかしたら関連するんじゃないかしら」

皆が黙々と書籍を調べている中、最初の手がかりを見つけたのはマリノさんだった。

「ここ読んでみて、ケパコスについて少しだけ記されているわ」

そう指差す箇所を読み進んでいくと、ジルサミアと調合する際のケパコスについての記載が他の文献よりも詳細に書かれていた。



「ジルサミアとケパコスを調合する際、ケパコスは細かく粉砕し、その粒子は砂粒よりも小さくなければならない・・か。やはり記憶の通りだったようだな」

「記憶の通り?」

カイドさんとギルダさんが声を合わせたかのように同時に支部長に問いかけた。

「その昔、俺もジュリと同じ疑問に辿り着いたんだ。ジルサミアが爆発するのにはケパコスが必要なはずなのにその痕跡がない、と。それで、まぁその時は当時の指導官だった先輩が教えてくれたんだが、何せ20年以上も昔のことだからな。自分の記憶に確信を持てるようにギルダ達に関連する書籍を借りてきてもらったというわけだ」

ケパコスの粒子は砂粒よりも小さい。

そう記されているということは細かすぎて見つけられなかった、ということだろうか。

だから隈無く調べたつもりでも見つからなかったんだ。




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