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〜第一章〜見習い保安官ジュリ、始動2(改)

「カイド、ジュリちゃんをお願い。私は支部長の所へ寄って行くから」

「ああ。こっちだ」

ツカツカと早足で歩き出すカイドさんに置いて行かれぬよう小走りで追い掛ける。

官給品の鞄は革製でずっしりと重く、14にしては小柄な私には扱いづらい。



「身分証を衛兵に見せて手続きをするんだ。どこの関所にも板書があるからそこに名前と所属、滞在日数を書く。今回は調査で来てるから滞在日数は未定・・と、これで良い。それで宿舎の鍵を借りるんだ」

官舎の入口で12と書かれた木版に付いた鍵を衛兵から渡され、吹き抜けの広いロビーを進み階上へ進むカイドさんの背中を追い掛ける。



「どこの官舎も基本的に本部の官舎と大差はねぇよ。食堂もあるし門限もない。他国の支部の奴らも常駐してるんで知らない顔は多いけどな」

「ただ・・な、部屋はちと異なるけどな」

12と書かれた扉の前で止まるとカイドさんはその扉を開いて中に入った。

それに続いて私も入ると、大きなダイニングテーブルがあるまるでリビングのようなセンタールームに左右に扉が一つずつ。

その1つの扉を開けるとベッドが2つ並んでいる。



「個室じゃなくてチームで1室を共有する形だ。初めは抵抗あるかもしれないがすぐ慣れる。案外便利なんだよな。内密の話も場所を選ぶことなくここで出来るしな」

なるほど。

3〜4人で1チームと言っていたけど理に適っている気もする。



「ジュリはマリノとそっちの部屋を使え。とりあえず荷物片して飯行こうぜ」

カイドさんに言われて片方の部屋に入るが、左右どちらのベッドを使って良いのか分からず立ちすくんでいると、マリノさんが戻ってきた。



「ジュリちゃんベッドどっちにする?」

「あ・・、もし選べるのでしたら私は向かって左が良いです。私、右側を向いてしか寝られないので、それならせめて壁に向かって寝たいです、すみません」

「ふふ、分かったわ。私は特にこだわりはないの。だからジュリちゃんはそっちを使うと良いわ」

マリノさんはクスクスと小さく笑いながら荷物を片し始めた。

私はなんだか恥ずかしくなって顔が熱くなるのを感じながら、マリノさんの真似をして鞄に詰め込んだ着替えやら何やらを備え付けの引き出しに仕舞い込んだ。



「飯行くぞ、早くしろ」

センタールームの方からカイドさんの声が聞こえ、それに応えるようにマリノさんに続き私も部屋を後にする。

「クルリドの飯旨いよな。ここに来る数少ない楽しみだわ」

「スジの煮込みが絶品よね。残っていると良いけれど」

そんな会話を遠くに聞きながら私は初めて来たクルリドの関所の中をキョロキョロと見渡すのに視線を忙しく泳がせていた。



わぁ、もう夜だというのになんて人が多いのかしら。

見たことのない髪色、聞き慣れない言葉たち、大きな荷物を抱えた沢山の旅人、その全てが目新しくてここは関所で旅の拠点なのだと改めて実感する。



「ジュリちゃん、こっち、あまり離れないで」

マリノさんが私を呼ぶ声にはっと意識を戻らされ、数歩先にいた二人に駆け寄るように足を早めると、その先に広がるのは大きな食堂だった。



「うわぁ、これ全部食堂ですか」

「そう、国境にある関所は在中する人数が多いからね、食堂もだけど、全てが大きいわよ」

「へえぇ、中を見て回る時間が取れると良いですけど」

遠くの方にあるメニューを書いた看板はここからは読むことが出来ないほどに広さがある。



「保安局の官舎と同じ要領よ。自分の食べたい物を食べられるだけ取るビュッフェスタイルね。でもここはルビリエ国の料理が多めだからそれがちょっと異なるかしら」

「旨いぞ、ここの飯。ちょっと辛いのが多いけどな」

「ルビリエの料理・・、初めて食べます」

楽しみ、どんな料理だろう。

食べることが大好きな私はソワソワとした気持ちを抱えながらマリノさん達の後に続いてビュッフェコーナーへの歩みを進めている。

目の前には食べたことがない料理がちらほら並んでいて、そのどれもが美味しそうだ。

二人に倣ってトレーに幾つかのお皿を乗せて幾つもの料理を皿に盛る。

お昼の休憩以来何も口にしていなかった私は山盛りの料理をよそって席に着いた。



「お前、それ食べ切れるのか?凄い量だぞ」

私のトレー満杯によそられた料理たちを見たカイドさんは驚いた顔で私に訊ねてきた。

「はい。私、食欲には自信あるんです」

「それなら昼食のサンドだけじゃ足りなかったでしょう?」

お昼時に馬を変えるために立ち寄った関所で、急いでいた私達に馬車でも食べられるようにとサンドウィッチを持たせてくれた。

それは確かに有り難かったし美味しかったのだが、確かに私には物足りなく感じてしまった。

「そうですね、だから今いっぱい食べるのです」

ふふん、と笑って一口目を大きく頬張ると、じゅわぁっと溢れ出る肉汁に感動して思わず声が出てしまった。

「んんーっ、美味しいですぅ、何のお肉ですかね、これ」

「鳥かしらね、私も食べて疲れを残さないようにしないと」

「ルビリエ国は治安も微妙だし疲れる国だが、料理の旨さで救われるよな」

初めての料理たちを頬張り、空腹感も満たされてゆく。



「明日はね、部屋で引継ぎをした後すぐに発ちましょう。朝の鐘で先遣隊が部屋に来てくれることになっているから、それまでに朝食と身支度を整えておいてね。ジュリちゃんは朝起きるのは苦手?」

「どうですかね・・、学院にいた頃は寝坊はありませんでしたけど朝はやっぱり眠くて頭が働かないかもです」

「ふっ、お前まだガキだもんな」

揶揄うように笑うカイドさんにムッとしてしまう。

子供扱いされるのは好きじゃない。

「子供じゃないです。もう社会人ですので」

語気が強くなってしまって、ハッと口をつぐむ。

こういうところがきっとまだ大人になりきれていないんだ・・

「ふふ、カイドがこんなに早く口数が多くなるなんてね」

「どういう意味ですか?」

「カイドは最初は取っ付きにくいのよ。話し方もぶっきらぼうだしね」

「あぁ・・確かに挨拶した時少しそんな感じは受けました」

「慣れるとそんなことないし、寧ろ人情味溢れる部分もあるんだけどねぇ」

「うるせぇよマリノ。さっさと食って戻るぞ。お子さまはもう寝る時間だからな」

また子供扱いして、と抗議しようとしたが、照れ隠しなのかお皿いっぱいの料理をカカカっと掻き込む様子を見て、ここは一つ私が大人になろう、と生暖かい視線を向けた。







トトトン、と部屋の扉を叩く音がするなり「入るぞ」とツカツカと足音を立てながら男性が2人入って来た。

「遅れて悪い、ちょっとトラブルがあってな」

朝の鐘で来る予定だった先遣隊のチームは予定より少し遅れてやってきた。



「おはよう。久しぶりねギルダ。トキトさんも。お変わりないかしら」

「マリノにカイド、武器密輸の事件以来だな」

「ギルダは相変わらず声がでかいな」

「はは、まぁよく注意されるんだがな、地声だから仕方ねぇ」

ギルダと呼ばれた男性と一瞬視線が合い軽く会釈をすると、それに気付いたマリノさんが紹介をしてくれた。



「この子はジュリちゃん。配属されたばかりの新人さんなの。今後顔を合わせることもあると思うわ」

「そうか、俺はギルダ、でこっちの男がトキトだ。宜しくな」

「ジュリ・カミノと申します。まだ未熟な新人ですがご指導宜しくお願いいたします」

差し出された右手を握り返しながら挨拶をした。

トキトと紹介された縁無しの眼鏡をかけた男性も軽い会釈を返してくれた。



「ジュリ、公安局員同士では名を名乗る時に家名は名乗らないのが通常だ。覚えとけよ」

「あ、そうでした、ご指摘ありがとうございます」

私たちが所属する公安局は貴族の子弟や王族なんかも在籍するが、平民出身の者が多くを占めている。

家柄に関係なく同僚同士接せられるよう家名は伏せる、というのを教わった。



あれ、でも確かアイリさんやマリノさん達は家名も名乗ってくれたよね・・

「私たちやアイラが家名を名乗ったのは同じ部署で長く時間を共にするからね」

私が視線を下に落とし何か考え込んでいるのに気付いたマリノさんが察して答えてくれた。

「そうでしたか。研修でも教わったはずなのに失礼いたしました」

「研修は二月の間に詰め込みまくるからな。俺はあの時のことは殆ど記憶に残らないくらい頭がパンパンだったな」

ははは、と豪快に笑うギルダさんに視線を戻すと、左耳の紅玉のピアスに気付いた。

「ギルダさんはルビリエ国の方なんですか。すごく大きなルビーですね」

国の境を越えて仕事を共にすることも少なくないこの大陸では、それぞれの出身国に因んだ宝石を身に着けることで自身の出身を表す文化が根付いている。

私も出身国であるパーリー国の象徴である真珠のピアスをしている。

「ああ、俺は出身もこの関所のあるクルリドの出でな、街のことには詳しいぞ。旨い店など知りたかったら聞いてくれ」

「それならば今度美味しいタルトのお店を教えてください。時間があったら行きたいです」

「おう、任せとけ」

ギルダさんは手に抱えていた幾つもの資料を机に広げながら顔いっぱいの笑顔で応えてくれた。



「それでな、今回の事件だが・・」

「ギルダ、やっぱり事故ではなくて事件なのね?」

「ああ、初動の調査では事件の疑いが濃厚と結論付けた。トキト、説明を」

「この事件のこちらの見立てを報告します」

トキトさんは初めて口を開き、淡々と今回の事件の説明を続けてくれた。



「まず、土砂崩れによる死者はありません。この規模の土砂崩れとしては奇跡的と言っていいと思います。怪我人は6名。うち重症者が3名、残る3名は軽症です。巻き込まれた6名のうち4名は同じパーリー国の商会の者達で、ルビリエ国で仕入れをした帰りでした」

「この商会の人達が狙われたってことか?」

カイドさんが渡された資料にメモを取りながらトキトさんに尋ねた。

「そうですね。その可能性が高いと見ています。他の2名はそれぞれ単身で国を越える者達でした」

「事件と見る根拠は何かしら?」

「ここの地盤は元から頑丈でこれまで大きな土砂崩れが起きたことがないことが一つ。ここしばらくは雨も降っていませんしね。そしてこれはまだ確定ではないのですが、爆薬のようなもので人為的に起こされた土砂崩れではないかと見ています」

爆薬・・

とても高価なものだと聞いたことがあるけれど・・

大きな建物を壊す時、または鉱脈に辿り着くため山を削る時、爆薬を使うことがある。だけれども余程のことがない限りでは使うことが叶わない価格だと教わったことがある。



「爆薬を使った痕跡でも見つかったのか?」

「ええ、土砂崩れが発生したと思われる箇所に不自然な大きな穴と、倒木が見つかりました」

「それとな、これだ。資料にも書いてあるが、黒く光る石が大量に現場に落ちていた」

ギルダさんは机いっぱいに広げた資料の一つを指差した。

「これが爆発して土砂崩れが起きたってこと?」

「いや、それはまだ分からない。だがこの黒く光る石が広範囲に広がっていて、その可能性があると見て調査を進めてみてもいいかと思ってな」

黒く光る石・・・、以前調べた記憶がある・・

何の為に調べたのかそれをすぐに思い出すことができない。



「この資料にも書いてあるが、この地盤の石とは違う性質を持った石と判断した。だから何らかの関係があるのだろう」

「現場は今は騎士団と治安部の者達が立ち入らないよう規制しています。まだ地盤も安定していないと思いますので調査の際はくれぐれもご注意ください」

「了承したわ。間違いなく私たちが引継ぎます」

マリノさんが引継ぎ書にサインをしてギルダさんとトキトさんは部屋から出て行った。



「さてと、まずは現場に向かいましょう。被害者の話を聞くのは戻ってからね」

「俺はもうすぐに出られるから先に行って馬を用意しておく。西門に集合な」

そう言ってカイドさんは必要な資料だけ持って足早に部屋を後にした。

「ジュリちゃん、資料はカイドが持って行ってくれたから、昨日話した持ち物を持ってすぐに出ましょう」

マリノさんは昨夜寝る前に身軽に発つ為に必要最低限の持ち物を教えてくれた。

今回の事件は山間部ということもあって荷物も最小限にする必要があるのだ。




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