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〜第一章〜見習い保安官ジュリ、始動1(改)

私の眼前30㎝にはエメラード国の王、ジュアン・ライザ・エメラード。

御年40を超えているらしいがなんとまあお若い。

ダークブラウンの瞳が綺麗だし、褐色の肌に紋章のタトゥーが映えてとても綺麗だ。



微笑むと目尻の皺が深くなって素敵だなぁ。

顔の造形が良い人は目尻の笑い皺も素敵なんだなぁ。



なんてじっくり観察している場合ではない。

いわゆるこれはピンチのいうやつなのでは?

このままだと手篭めにされそうだ。

カイドさんが一人になるなと何回も言っていたのはこういう意味だったのかと後悔しても時既に遅し。



「へ・・陛下自らお越しいただかなくとも、命じてくだされば参じましたのに」

あぁ・・きっと顔が引き攣っている。

口角が上手く上がらないもん。

頬がヒクヒクと引き攣っているのを感じる。

上手に笑顔を作れない。



擦り寄ってくる陛下を避けるように後退りしながら背中にぶつかる壁を感じ冷や汗が流れ出るのがわかる。



「お前は14なのだそうだな。しかしもう少し若く見える。初めて見た時は10を超えたあたりだと思っていたぞ」

グイと顔を近づけて私の横髪をサラリと笑顔で撫でる陛下に私はもう俯いて目をきゅっと瞑るしかなかった。






何故に私がこのような状況になっているかというと、話は数ヶ月前に遡る。



私、ジュリ・カミノは王立学院を卒業した後、連合保安局に入局した。



連合保安局というのはこの大陸にある12全ての国を中立の立場から治安維持に努める機関で、各国主要都市に支部やらがあり、主に国家間の事件や事故の処理に当たっている。

国同士の争いにならぬよう、日々神経を尖らせ、目を光らせている機関だ。



そして、この12の国はそれぞれ一月毎に治める国が変わる。

例えば1の月は北のガルネット国、2の月はアメシット国、のように北から東、そして南から西へと総国王が変わっていく。



大本の法律などは変わらないが、ちょっとした条例なんかは思想の相違なんかで通りやすくなったりもするので、それがまた争いの火種とならぬよう注視する役割も担っている。



大昔、長きに続いた大戦火の教訓からおよそ100年前に締結された条約によって、12全ての国は公正・中立の名のもと、争いもなく、平和で安寧な時代が続いている。



私が生まれ育ったパーリー国でも賢帝が続き、比較的豊かで平和な環境のなか、人々の生活には多少のゆとりもあり、街は活気に満ちている。



そして私、ジュリ・カミノは医療師の両親を持ち、家庭環境もあり幼い頃より他人より少しだけ優秀だった。

私は、多くの人が6歳で入学する初等科に4歳で入学、その後も飛び級制度で通常12歳で入学する人が多い中高等科を12歳で卒業。そのまま最終学歴である王立専門学院へと進んだ。

周りは自分より幾つも年上の人ばかり。

幼くして人より優れる、ということは生きづらさに繋がりかねないが、揉まれに揉まれて気が強くなり、他人の目や悪口もなんのその、という可愛げのない性格になってしまったのは意外な副産物だ。

友人と呼べるのは数人しかいなかったけれど、念願だった保安官の職に就けたのだから私としては満足している。




ーーそして今日は入局日ーー



私は今日新たな気持ちで鏡の中の自分を見つめている。



制服の茜色のネクタイをキュッと締める。

最初は間違えながら結んでいたけれどすんなりとできるほどには回数を重ねた。



2つの月を数えた研修も昨日で終わり、いよいよ所属する部署が発表された。



えっと、確か2階の3つ目の部屋だったはず・・



私が配属された現地調査室、通称「現調室」。

その部屋の入口からそっと顔を覗かせる。

ぱっと見では数えることのできない程のたくさんの机の数と、数名の職員らしき人々、その1人に向かって私は声を掛けた。



「あの、すみません。私・・・」

「ああ、あなたジュリ・カミノさんね?」

私が全てを言い終える間もなく、細い銀縁の眼鏡を掛けた女性は早口で名前を被せて来た。



「はい、あの・・」

「私、アイラ・ツユリよ。よろしく。ちょっと待って。マリノ、マリノーっ」

二の句を告げる間もなく捲し立てるように話すアイラ・ツユリと名乗る女性に気圧されていると、マリノと呼ばれた女性が少し離れた机の下からむくっと身を起こした。



「どうしたのアイラ・・ あ、あなたジュリさんね?」

「はい、ジュリ・カミノです」

腰まである長い黒髪を後ろで束ねたマリノと呼ばれた女性がこちらに近づいてくる。



「私はマリノ・ミサキ。あなたのチームメイトよ。あなたの担当指導官でもあるわ。宜しくね」

「はい。本日より着任しましたジュリ・カミノです。ご指導宜しくお願いいたします」

背筋を正し敬礼をする。

研修中、手の角度だ、背筋の伸びが甘いだ、散々言われたことを苦く思い出す。



「現調室のチームは3〜4人で1チームなの。私達は今のところ3人。もう1人は今ちょっと席を外しているから後ほど紹介するわね。あなたの机に案内するからこちらへ来て」

「はいっ」

ツカツカと数歩先を行く背中を追い部屋の端の方へと進んだ。



「あなたの机はここよ。必要な物は揃えたけれど、何かあれば言ってね」

「はい、ありがとうございます」

「ずっと同じチームでやっていくんだもの、仲良くやりましょ。気軽にマリノって呼んでねジュリちゃん」

早くもちゃん呼び・・

そう言ってにこりと微笑んで差し出された片手を私がおずおずと握り返すと、マリノさんの顔が優しく綻んだ。



「早速なんだけど、昨日パーリー国とルビリエ国の国境で大規模な土砂崩れが起きたの。人為的に起こされた可能性が高いと見て先遣隊が調査に入ってるわ。私たち現調隊もすぐに向かうから準備をして欲しいの」

「土砂崩れ・・ですか。準備というのは具体的には?」

着任早々の事件に胸がざわつき、ピリッとした少しの緊張が身を包む。



「そうね、長ければ数週間の調査になるわ。だから何着かの着替えと身の回り品を急いでまとめてきて欲しいの。これ持参品のリストね。これを参考に鞄一つにまとめてきて」

現地調査・・!研修の座学で学んだけどこんなにいきなりあるものなんだ。

「はい」と短く返事をして急いで宿舎の自室に戻った。



「ああ、戻って来た。紹介するわ。彼はカイド・コウレン、私達3人で1チームよ。剣術と暗器の達人でもあるから時間を見つけて稽古を付けてもらうといいわ」

私が取り急ぎ必要な物を官給品の鞄に詰めて小走りで現調室に戻るなりチームメイトだという男性を紹介された。



「ヨロシク、カイド・コウレンだ。カイドで良い」

ぶっきらぼうに差し出された片手を握り返しながら自己紹介をされた。

「ジュリ・カミノです。本日より宜しくお願いいたします」

「ああ」

赤茶色の短髪ををツンと立てた目鼻立ちのはっきりとしたやけに整った顔立ち。

大柄ではないけれど筋肉質でパッと見でも鍛え上げられているのが見てとれる。



コウレンって・・。王都の西側を広く治めるコウレン侯爵家と同じ家名だなぁ。

この国の貴族の家名は学院にいる時に全て教わった。

そうは言ってもこのパーリー国では貴族、平民の区別はあれど、身分の差に関しては比較的寛容で、貴族と平民が共に仕事をしたり、友人関係になったり、婚姻なんかもよく聞く話だ。



カイドさん今まで見た中で一番のイケメンかも。

かっこいいなぁ。

机に腰掛け、手に持つ書類を読んでいる姿に見惚れていると、俯いたまま、これ、と書類を渡された。



「これ見ておけ。今から行く場所の地図だ。山の中だからな、地形を自分で確認して頭に入れておけ」

「分かりました」

現場付近の地図と一緒に幾つかの資料を渡され、それを確認しようとすると、

「今回は馬車で行くのだし、それは後で良いわ。とりあえず出発しましょう」

早歩きで現調室を出るマリノさんの背中を小走りで追いかける。



「マリノさん、現地には馬車で行くんですか?てっきり早馬のように早急に向かうものだと思っていました」

「そうね。場合によってはそういう時もあるけれど。でもそういう時はクックルで向かうことが多いかしら」

「クックルですか・・・」

クックルは馬よりも早く駆ける大型の飛ばない鳥で、馬で駆けるよりも倍以上早いのだが、慣れていない者が乗ずると振動に耐えられず酷い乗り物酔いのような状態になると言われている。



「ジュリちゃんはクックルには乗れる?」

「研修期間中に何度か乗りました。でも長距離では乗ったことはありません」

「それなら機会を見つけて練習しましょう。頻度は高くないけれどいずれ必ず乗ることになるから」

あの激しい揺れに慣れろというのか・・・

研修中、クックルに乗る度に気持ち悪くなり吐いてしまったのを思い出し、はぁ・・と小さな溜息が出てしまった。



正門につけてある馬車に荷物をくくり付け乗り込むと、

「悪い、待たせた」

と、カイドさんが少し遅れて小走りで乗り込んできた。

馬車の扉を閉めると、マリノさんが御者さんに合図をして馬車が動き出す。



現地までの道中、マリノさんはたくさんの事を話して、教えてくれた。

心構えや調査の進め方、研修の座学で教わったこととはまた違って、とても臨場感があった。

揺れる馬車で私はメモを取るのが難しくて少しでも多くインプットしようと熱心に聞き入った。



カイドさんもぶっきらぼうな話し方で自身の経験や、これから向かうルビリエ国の情勢なんかをポツポツと語ってくれた。

マリノさんの朗らかな話し方と、カイドさんのぶっきらぼうな話し方が対照的で、何故だかひどく可笑しく感じて溢れ出る笑いを堪えるのに必死だった。

これからこの人たちと共に働いていくんだ。

そう思うと胸の高鳴りを感じた。



途中、数度の休憩を挟み、道中の官舎で馬を変え、事件現場最寄りのクリルドの関所に到着したのは夜も随分と更けてからだった。



「しばらくここの官舎に泊まらせてもらうわ」

国境の関所には必ず保安局の支部がある。

大陸の真ん中、かつての大聖堂と神官達が住んでいた区域は、現在『中央』と俗称される保安局の本部と官舎、そして訓練所になっているが、多くの局員は各国の城や国境付近の関所にある支部にいることが大半だ。

だからたまにしか顔を合わせない同僚が殆どよ、と車中でマリノさんが話してくれた。




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