間抜けな物語
「おい藤田、肩に猫乗ってるぞ」
「あ、ほんとだ。誰だこんなところに猫乗せたのは」
「眠ってるみたいだぞ」
「まじ?参ったな」
「とってやろうか?」
「いやいいよ、起こしたら悪いし」
「優しいじゃん」
「まあね。なんか猫が乗っかってるのも悪い気はしねーし」
「ああ、なんかわかる」
「藤田君菊池君おはよー」
「おはよー」
「おはよー」
「なんか藤田君の肩に猫乗ってるよ」
「ああ、丁度その話してたんだよ」
「知ってたんだ。じゃあお先に~」
「またねー」
「またねー」
「なんの話だっけ?」
「いや、悪い気はしないっていう」
「ああ、それね。わかるよ。だって例えばさあ、注文したライスに唐揚げが乗っかっててもさ、満更でもない気になるもん俺」
「やっぱ菊池分かってるね」
「だろ?いわゆるサプライズだからね。ご飯に予想外の唐揚げてのは」
「うん確かに」
「でも気になるのは、そのサプライズが故意か過失なのかってことだな」
「というと? 」
「故意だとすると、大体は純粋な善意ってことになるだろ?あの客に唐揚げ乗せたらきっと喜ぶぞ~的な。その顔を見れて自分もハッピー的な。でも逆に悪意って線もあるっちゃある。なんかむしゃくしゃするしあの客に唐揚げでも乗せてやるか。ってね」
「むしゃくしゃして唐揚げ乗せるってのもずいぶん微笑ましいな」
「そうだな。微笑ましき悪意。マッサージ中に突然こしょばしたり、海で思いきり水をかけるのと同じようなもんだわな」
「店長いい奴なんだな」
「唐揚げ乗せたのは店長だとは限らないけど、まあ店長でもいいよ」
「で、その過失ってのは?」
「過失の場合は全くその店長に意図はないんだよ。元々何も乗せる気なんかなかったのに、気づいたら唐揚げを乗っけて客に提供してたんだ。無自覚だよ」
「ずいぶん呑気で間の抜けた話だな」
「そうだな。つまりこの猫は誰かの純粋な善意か、微笑ましい悪意か、もしくは間抜けの産物で乗っけられたものってことだな」
「でもさあ菊池」
「なんだ?藤田」
「一番間抜けなのは猫が肩に乗ってるのに気づかない俺なんじゃないのかな」
「ああ、それは俺も考えてた。まあお前の場合は、微笑ましき純粋な間抜けってことになるんじゃね?」
「ひでえな」
「でもいい話のタネができたじゃん」
「まあね、こんな事滅多にないしね。将来小説にでもして投稿しようかな」
「いいね、猫好きには受けるんじゃね?」
「でも信じてくれるかな?こんな間抜けな話」
「それは読者次第だよ」