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09 初代聖女と守護聖獣。(三人称視点)



 ルーチェエルラが本日得た聖女の情報は、建国時に崇められていた初代聖女。


 初代聖女は、蔓延していた厄病を払い除けて、飢えた魔物も退けた救世主だった。そのまま、初代国王と結ばれた彼女は、女神メリィンゴールドの恩寵を受けた生を全うしたあと、聖女の任から解放されたと言い伝えられている。


 守護聖獣は新たな生を受けた時、人として聖女を守ると誓い永眠した。

 そうやって、守護聖獣の生まれ変わりが、女神メリィンゴールドの恩寵を受けた新たな聖女と結ばれて力を発揮するのだという伝承が始まったという。


「(つまり、私は新たに女神様に指名された聖女。でもウィリーオンさん曰く、偉業を成し遂げた人こそが真の聖女と名乗るべきなのよね)」


 ウィリーオン神官の言うことは一理ある。

 歴代の聖女の中で、真の聖女は本当のところ何人いたのか、疑わしい。白黒はっきりさせるならば、救世主と崇められるほどの偉業を成した人こそが本物という証拠だ。


 『一度目』の記憶を振り返っても、聖女認定を受けた第四王女リリスアンがそんな偉業を成したことはない。せいぜい行事で貴族が負傷したため、駆けつけて治療したパフォーマンスをしたくらいだ。あれはリリスアンがわざわざ駆けつけなくとも、神官が治せばよかった場面だった。だからこそのパフォーマンス。


「(前世が地球育ちのオタク女だった説明もつくわね。異世界へ渡り、たまたま聖女に指名されたのが『第三王女のルーチェエルラ』の魂となった私だった)」


 腑に落ちたところで、今日はエルドラートと買い物デートがあるので、切り上げた。




 一行を見送るウィリーオンは、ボケーと呆けていた。

 同じく見送りをするデードリヒ神官副長は、ぼやく。


「まったく、王女殿下相手になんて不敬な発言をするのだ。怖いもの知らずめ。冷遇された第三王女だからよかったものを。溺愛された第四王女の聖女様の耳に入ったらどうするんだ」


 ブツブツと愚痴を零すデードリヒ神官副長の言葉で、ウィリーオンはスッと目を眇めた。


「偏見塗れの変人も大概にしろよ!」

「(じゃあその変人に頼むなよ)」


 内心で反論するウィリーオンは、頼まれたから書物庫の書物を見繕ったのだ。

 一番聖女関連の知識が豊富なのは、誰もが認めるものなのに、偏見だと言われるウィリーオンの考えは疎まれている。


 ただし、あのルーチェエルラ殿下は違った。


「聖女様ねぇ……」

「なんだ、聖女リリスアン様を愚弄するお前なんぞ、聖女様を語る資格など……あつっ! 火!? ひぃいい!!」


 デードリヒ神官副長の神官衣の裾が桃色に燃え始めたことに気付き、デードリヒ神官副長はパニックに陥り、その場にのたうち回った。

 お付きの神官達が慌てて消火している間に、ウィリーオンは離れた。


「また謎の発火だぞ」

「なんなんだ、この発火。魔力の残滓もないのに……」

「謎の力だ……」


 その神官達の声を聞き流して、歩いていたウィリーオンは女神メリィンゴールドが愛したとされているマリーゴールドの庭園を見下ろす。


 かつて、現代の聖女と称えられ始めたリリスアン殿下が言ったことを思い出した。



『ルーチェエルラお姉様のために、花をいたただいてもよろしいでしょうか?』



 誰かが、どうして、と問うた気がする。


『実の母親を失くして心細くしているお姉様を元気づけたいのです』

『女神様のマリーゴールドを見ていれば、きっと心が安らぐでしょうから』

『あたくしは、お姉様に笑ってほしいのです』


 そう健気なことを言って愛くるしい笑みを零して、神官達を魅了していた。

 腕一杯にマリーゴールドを抱えて帰っていったリリスアン殿下だったが、先程、マリーゴールドの庭園を見たルーチェエルラ殿下はこう呟いたのを聞き逃さなかったウィリーオン。



『素敵ですね、マリーゴールド。初めて見ましたわ』



 うっとりと愛おしそうに眺めるルーチェエルラ殿下を見て、ウィリーオンはリリスアン殿下に対して憎しみすら湧いた。


 ルーチェエルラ殿下のために、神聖な花を持ち帰ったはずなのに、当の本人は初めて見る花だと言う。


 あんなにも、違う母親を持ち、孤独にしている腹違いの姉を心配していると言いふらしていたくせに、それらはパフォーマンスにすぎなかったのだ。側室の子で冷遇された姉を思い遣っていることを見せつけて、好感度を上げていった。幼いくせに、悪知恵が働く悍ましい少女だ。


「(だから、あんなのを認めたくないんだっ……!!)」


 直感的に、聖女とは認めたくない。認められない。


 自分の嫌悪は正しかったと、自嘲が浮かぶウィリーオン。


「……真の聖女か」


 ボソッと口から零す。それは自分が一番知りたいことだった。


「……真の守護聖獣……」


 廊下を歩いていけば、鏡の壁に行き着く。そこに映るのは、桃色の髪をした青年。

 ゆらりと、桃色の豹がその青年の姿と重なった。


 フイッと、ウィリーオンは歩みを再開する。


「(そういえば、ルーチェエルラ殿下が、熱心に侍女に読ませているページがあったな)」


 不思議に思い気になっていたウィリーオンは書物庫に戻ると、その本を開いてページを探し出した。

 それは初代聖女の守護聖獣の特徴が書き記されたページ。位置からして、ルーチェエルラ殿下の侍女が食い入るように凝視して読んでいたのは。


「青の守護聖獣……熊」


 熊の姿の青の守護聖獣だった。

 頭に神聖な角を生やし、両手の黒の爪で襲い掛かる魔物を屠ったとされる最強の怪力を誇った青の守護聖獣。


「青…………青の、守護聖獣……」


 呟きつつ、どうしてルーチェエルラ殿下がこの部分を侍女に読ませたのかを考える。

 そして、侍女が青い髪をしていたことを思い出す。それから、自分の桃色の髪を摘まんだ。


「まさか、な……」


 一度は否定するウィリーオンだったが、ルーチェエルラ殿下に信用すると言われた時の心地よさを思い出して、恍惚と呆けてしまう。


「早く、次来ないかなぁ……」


 つい先程見送ったばかりなのに、再訪問を楽しみに待った。




 馬車の中の群青色の髪を結った侍女、レイチェラはポーカーフェイスを保ちつつ、思考を巡らせていた。

 ルーチェエルラ殿下から読ませてもらった自分のことであろう青の守護聖獣の記述。


「(やはり怪力なのね。でもどうやって発揮するのかしら。それに黒い爪って出せたりするのかしら? これくらいの馬車をひっくり返したり、引き裂ければ、守護聖獣の力を引き出せたということになるのかしら……。そもそもどうやって引き出せるのかしら! 書いてなかった!)」


 ポーカーフェイスを必死に保ちながら、内心で頭を抱えるレイチェラ。


 熊の守護聖獣だとルーチェエルラ殿下に言われてから、なんとなく怪力なのではないかと思っていたし、力持ちの自分にお似合いだとも思っていた。

 しかし、いざ力を出すには情報がなさすぎる。


「(ルーチェ様が仰るには、魔力とは違う力の認識が必要みたいだけれど……わからないわ。ルーチェ様への想いがカギだから……ああ、だめだめ、今試行錯誤してはいけないわ! 青い光を出してしまったら大変だもの!)」


 レイチェラは発覚を恐れて、先程も祈りを控えていた。


「(今はルーチェ様とエルドラート公子様のお買い物デートよ!!)」


 専属侍女は、職務を全うしようと切り替えた。


 つらい日々を過ごしていたルーチェエルラ殿下に、ぜひとも楽しいひと時のデートを過ごしてほしい。



 

2024/05/16◯

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