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07 力の試行錯誤とお揃いコーデ。



 昼前には、エル様は帰っていった。


 離宮で昼食を済ませた私は、魔法の練習をすると言って、離宮の外の広場に立つ。

 もう確認済みだけれど、魔力量は年相応の量だった。特段チート気味な魔力量になっているわけではない。

 普通の魔力や魔法と、聖女の力が別物だというなら、なんとか意識して掴めないか挑戦してみた。


 考えてみたけれど、聖女のイメージだとやはり祈りの力だと思うので、祈りでパワーアップとかするんじゃないかと実験。


 魔力を練り上げて、水を出すだけの魔法を発動させた。ぷくぷくと膨れ上がる水の塊。

 もっと大きくなれ。と祈りを込めて魔法を行使した。

 しかし、他の力が働いたようには思えない。ただただ自分の魔力で水の塊が出来上がっただけだ。


「んー」と首を捻って、魔力操作で氷結させる。ピキンと一瞬で凍り付いたのは、そのやり方を知っているからこその技だ。


 私には五年分の学習経験が頭の中にあるからね。これくらい楽勝なのだ。

 手を振り上げて、氷の塊となったそれを粉々に粉砕するように爆破して散らせた。スノーダストのように舞うそれは、空気に溶けて消えていく。


 拍手が聞こえて振り返れば、離れた場所で見守っていたレイチェラと護衛騎士二人が拍手していた。

 レイチェラは終わったと判断して駆け寄ってくる。


「すごいです、ルーチェ様! ……今のが聖女様の力ですか?」

「ううん、普通の魔法」

「その年齢で、普通の魔法としてあんなに使えるなんてすごいです!」


 ヨイショするレイチェラだが、大袈裟じゃなく、私の年齢としてはやはりすごいと称賛される魔法操作だった。


「あの天才宮廷魔術師にも、引けを取らないのでは?」


 ニヤリと悪い顔をするレイチェラは、離れたところで見ていただけなのに、さっきのオーランドの態度が気に障ったようだ。


 護衛騎士の二人もそばにやってきたので、聖女云々の話はこれでおしまい。


「素晴らしい魔力操作でした、王女殿下。最後の爆破の迫力も凄まじかったです」

「ありがとうございます」


 イアン卿が褒めて、隣でハース卿がコクコクと頷く。


「ルーチェエルラ王女殿下は、水魔法が得意なのですか?」


 イアン卿のその問いを聞いて、ハッと気付く。

 そうだよ。聖女といえば治癒魔法じゃないか。


 魔法は属性で言うと、火、水、緑、地、雷、風、それから光と闇に分かれている。

 治癒魔法は、光属性に分類されているのだ。偽の聖女ことリリスアンは、その治癒魔法が幼い頃から逸脱して優れていることで、聖女認定された。


 聖女のイメージというならば、やはり光属性の魔法を試すべきだった。


 光属性の魔法で使えるのは、治癒魔法、身体能力向上、いずれも威力は軽。

 ……ん? 試せる魔法がないわね。仕方ない、威力が測れる魔法を新たに覚えておこう。


「そうですね、一番得意としているのは水です」と、答えておいた。



 そのあとは、また離宮の見直し作業。

 ミワールが交渉した結果、奪われた離宮の予算は王妃から新たにもらえたので、それで私の衣装の手配もし、真面目に働く一同の食費の管理もしていく。


 古びたワンピースドレスは捨てて、すぐに着れる新しいドレスを十着は買って、ルンルンしたレイチェラがクローゼットに飾った。

 すっかり盗まれたアクセサリーも一個や二個は買うべきだが、ミワールからそれはエル様と買い物に行く時がいいと止められてしまい、ギョッとする。

 何故か、エル様と買い物に行く約束が出来上がってしまった。


 窃盗罪については、犯人をちゃんと特定するのに証言の整理する必要があって時間がかかるとのことだが、厳罰はどうするかと尋ねられた。

 『一度目』は、私もわかっていても何も出来なかった。冷遇されている王女だから何の力もないと。

 でもこうしてちゃんと厳罰を処すことが出来て、不謹慎ながらジーンと感動してしまった。


「王族の物を盗んだ罪は、軽くはないです。厳しく処罰しましょう」


 そう答えた私に、ミワールはとても満足そうに頷いてくれた。加害者に情状酌量の余地なし。


 本物の聖女なら許すべきかもしれないが、だめなものはだめなのだ。

 聖女を虐げたから許しがもらえるなんて、到底納得出来ない。前世の記憶がある私だからこそ、そう考える。


 心広くなんでも許してしまうドアマットヒロインにはなりきれない。女神様、すみません。明日の神殿の祈りで許しを乞います。なーむ。


 今更ながら私に媚びを売ろうと必死になる輩もいたけれど、バルムート公爵家の一同が壁となって蹴散らしてくれた。

 つおい、バルムート公爵家使用人の面々。


 ちなみに処罰決定待ちの面々は、どんよりと悲壮な暗雲を漂わせた死刑囚のような様子だった。




 その夜、また私のワガママという体でレイチェラにはお泊りに来てもらった。

 目的はレイチェラの守護聖獣としての力を試すためである。

 夜の番の護衛騎士が私の部屋の外で待機しているので、寝室の隅っこで試す。

 守護聖獣の聖女への忠誠がカギだと思うので、気持ちを込めるところから始めてもらった。


「ルーチェ様の……『おそばで』……『お守りを』……」


 そう唱えて祈るポーズをしたレイチェラは、青い光を灯し始めた。


「ひ、光りました!」

「それを維持出来る? 魔力を操作するように、別の力だと感じる? 保てる?」

「べ、別の力……? あっ」


 気が逸れてしまったせいか、青い光は消えてしまう。


「もう一度やらせてください!」と、やる気に満ちたレイチェラは、再チャレンジをしてくれた。

 しかし、上手くはいかないようだ。


「難しいです……」

「魔力と違って新たに認識する力だから難しいのかもしれないね。かくいう私も聖女の力なんてわからないし……明日何かヒントを見付けよう。レイチェラはその青い光を不意打ちで出さないように注意してくれればいいよ」

「はいっ。かしこまりました」


 根を詰めることなく、明日の予定のためにも就寝することにした。



 レイチェラだけしかお世話してくれる人がいなかった私の身だしなみは、バルムート公爵家から新たに派遣された侍女達のおかげで手入れが行き届くようになった。

 専属侍女に昇格したばかりのレイチェラも、勉強しているようで彼女達とは仲良くしている。

 私もおずおずながらも会話に参加して仲良くなろうと努力はした。

 『一度目』は全然、バルムート公爵家の者と仲良くなんてする機会なかったもの。頑張らねば。


 昨日買ったばかりのドレスのうち、ライトブルーのフリルをあしらった白いドレスを着せられた。

 よく梳かした波打つ髪には金色のリボンでハーフツインテールにし、首には同じく金色のリボンで作ったチョーカーを結ばれた。中央に、ひし形のスファレライトがぶら下がっている。とても高品質のようで、金色に見えるくらい素敵な色だとドレッサーの鏡越しにしげしげと眺めてしまった。


「こちら、エルドラート公子様からの贈り物です」


 なんですと!?

 真っ赤になってしまう私の前で「愛されてますねぇ」と、レイチェラ達が生暖かく微笑んだ。


「ちょっと、エル様の色を意識しすぎじゃないかしら」


 今更ながら、白いドレスはエル様の白銀髪に近い気がする。金色のリボンも、彼の瞳の色。あまりにも『彼色』にしすぎている。


「問題ありません」と、レイチェラ達はしれっと言い退けた。

 謀ったな……!?


 侍女達の余計なお節介は、私側だけではなかった。


 迎えに来たエル様の装いは、ライトブルーのラインが入った白のジャケットに、同じ色合いのチェック柄の七分丈のズボン姿だ。胸元のブローチには明るいオレンジ色の琥珀。私の瞳の色によく似ている。恥ずかしさで卒倒してしまいそうだった。


 レイチェラも見送りに来た侍女もやり切った顔をしていた。おのれ。


「お揃いだね」


 儚げ美少年のエル様の嬉しそうな微笑みに、ギュンと胸が締め付けられた……!!


「今日はよろしくお願いしますっ」

「うん。行こう」


 エル様の手を取り、馬車へ乗せてもらう。

 同乗するのは、専属侍女のレイチェラとエル様の従者だ。もちろん他の馬車や馬で護衛も同行。


 王城から神殿へ出発。

 女神メリィンゴールド様を信仰する大神殿へ。



 

2024/05/14

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