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03 冷遇されていても王女。



 バルムート公爵家は放任主義と思われているほどに、嫡子のエル様に干渉していないように見える。


 バルムート公爵夫妻が社交シーズンの王都滞在が半分もなかった時、エル様だけは王都に残ったことも多かった。エル様一人でパーティーに顔を出していることも多かったとも聞く。


 私もバルムート公爵夫妻に干渉された覚えがない。


 私達の政略結婚は、王家の償いだ。

 十三年前、ある重鎮がバルムート公爵家を貶めたため、王家を見限ろうとしたバルムート公爵家を引き留めるためだった。バルムート公爵領がまるごと王国から離脱するなど、莫大な損失。次に生まれるであろう第三王女を嫁がせるから、その第三王女の持参金を弾ませておくと確約の上で、盟約で繋ぎ止めたのだ。


 その事件で王家に不信を抱いているのに、いざ生まれたのは側室の子。不遇な王女を押し付けられては、いよいよ期待はなくなったのだろう。私に教育者を差し向けても、特に何も言われなかった。


 元々、私は頭がいい。他に必死になることもなかったこともあるのか、教えられたことは素直に吸収したので教師には出来を褒められていた。その情報は恐らく公爵夫妻には届いていたはず。


 放任主義だとしても、無関心ではなかったようで、公爵夫妻は物申すために国王の元へ向かったらしい。

 いわば慰謝料である私を冷遇しているとは何事か、という文句を言うのかな。


 バルムート公爵夫妻は、私から見ると魅惑的で隙のない大貴族という印象だった。

 十三年前の事件だって、自分達で害意を跳ね返したというし、王家も決して頭が上がらない一族なのだ。


 そんな夫妻が手配してくれたのは、バルムート公爵家の本邸も管理しているという執事長だった。左目に眼帯をつけていて厳しい顔立ちだから一見カタギに見えない、執事服の壮年の男性・ミワール。

 あの侍女長の部屋で管理名簿などを探っていたが、私は勇気を出した。


「あの、私が知る限りの情報も参考にしていただけますか?」

「はい。どんな情報でも構いません。それから、自分めに敬語は不要です」


 緊張していたし、歳上だから、つい。緊張を察したのか、柔らかい表情を作ってくれたので、いい人みたいだ。

 私は覚えている限りの情報を彼に渡した。


 もう少しあとになってから、離宮の管理を自分で行った際に、随分前から横領を知ったのだ。返してくれと説得したが、冷遇された王女には聞く耳持たずだった。

 食費の予算や、衣類の予算、離宮内の内装や庭の維持費まで、横領されているであろうものも告げる。


「ふむ……。ここまで酷いとなると一掃した方が早そうですね。臨時の使用人もバルムート公爵家から手配すべきです。旦那様と奥様に許可をいただきましょう」

「そうしてくれ」


 ほぼほぼ全員がクロの状況。一掃の方が早いのは確かだ。

 一新する前に、臨時でバルムート公爵家の使用人がついてくれるのはありがたい。

 でも公爵夫妻が許してくれるかしら。不安を察したのか、エル様が私の手を取ると手の甲を撫でて安心させてくれた。


 ミワールはすぐに追及出来る使用人から呼び出し、罪を明らかにしておおよその処罰を告げる。まぁ、降格は間違いなく避けられないという。妥当だ。


 阿鼻叫喚だった。違うと泣き喚く使用人や、怒鳴り散らす使用人。バルムート公爵家の護衛騎士達が睨みを利かせていたので、暴動にはならなかった。


 国王と話を着けたのか、バルムート公爵夫妻も離宮にやってきた。


「こりゃ酷いな」と感想を零すのは、まだ美青年と表現したくなる若々しい男性。将来のエル様によく似ている。白銀の髪と金色の瞳の中間的な美貌の持ち主。バルムート公爵家現当主、ノエルドラート様。

「本当ね」と相槌を打つのは、きつそうな印象を抱く美女だ。白金髪をカールさせて右肩に流した青い瞳を持つ。バルムート公爵夫人、エラノーラ様。


「お久しぶりです、バルムート公爵閣下、公爵夫人」


 カーテシーで挨拶をすると、すぐに構わないと言われるので姿勢を正した。


「頼ったのは正解だ。未来の公爵夫人が不当な扱いを耐えるのは、正しくない」

「今日から離宮の決定権はあなたに移りました。いい練習にもなるし、ミワールに教わりながら指揮しなさい」


 離宮の決定権が私に? 王妃とも話を着けて、離宮の支配権を奪い取ったのか……!


「わかりました。いただけたチャンスを活かします。誠にありがとうございます」と頭を下げた。

「いい結果を待っていますよ」

「はい」


 ミワールが必要な使用人の手配の許可をもらうと、公爵夫妻もエル様も帰ることになる。


「そうだ。この際、聞いておきたい。今まで断られたが、オフシーズン、領地に来ないか?」

「バルムート公爵領ですか」


 公爵閣下がついでだとお誘いしてくれた。

 実は『一度目』も、私はバルムート公爵領に足を踏み入れたことがない。このあとから、仕事を押し付けられて、王城を離れることが出来なかったのだ。

 今はまだ仕事漬けにはなっていないし、オフシーズンは秋から冬の終わりまで、だ。


「お誘いをいただけたので、ぜひとも行かせてください」

「本当っ?」


 私のイエスの答えに大きく反応したのは、エル様だった。パァッと明るい笑みになる。

 それにご夫妻が面食らう表情をした。


「は、はい。離宮の管理も、それまでに整えて行かせていただきたいです」

「じゃあ一緒に帰ろう。公爵領まで」


 嬉しそうな顔をしていらっしゃる……!

 ドギマギしている私は、後ろでポッカーンとしているご夫妻が気になってしょうがなかった。

 やっぱりエル様、感情豊かすぎな日ですよね……?


「楽しみだね」

「は、はいっ」


 儚げ美少年の笑顔が眩しいっ……!


 そんなこんなでオフシーズンに公爵領へお邪魔する話は、公爵閣下が許可をもぎ取ると約束までしてくれて、皆さんは帰っていった。


 ミワールが目を光らせる中、意気消沈している使用人達に本来の仕事をわからせて粛々とさせ、私の身近には手配した使用人に任せる。決定権も得たので、罪の重い横領犯である侍女長と腹心の侍女三名、そして料理長と二名は投獄行き。


 レイチェラは、侍女に昇格。私の贔屓を抜きにしても、男爵令嬢という身分と礼儀作法の習得で侍女の資格があった。ただ、私に同情的だから、疎まれてメイドに降格されていたのである。信頼もあるので、レイチェラは私の専属侍女だ。


 すっかり綺麗に掃除された部屋で、たっぷりな夕食をいただくと、レイチェラは涙ぐんだ。


「くすねずとも、ルーチェエルラ殿下の食事がこんなに用意されて」


 感動しているところがおかしい気がするが、これも私が不甲斐ないせいだったのだろう。しょうがない。


「本日はここまでにしましょう」とミワールは、私の情報を元に大きな罪人は投獄したので、あとは次の日にしてくれた。


「ルーチェエルラ王女殿下は優秀でございますね。未来がとても楽しみでなりません」


 強面ミワールも、ニコリと笑ってくれる。


 細かい罪、つまりは窃盗などは帳簿と照らし合わせて犯人を探すとかで、調査を手配中。まぁすでに仲間割れが始まり、誰々が盗んだところを見たという証言が集まっているらしい。盗っ人も捕えたら、次は職務怠慢のサボリ魔達の処罰を明らかにする。それも誰々が無断欠勤して遊び歩いていただとかの密告が多いんだとか。

 我ながら、恥ずかしい離宮の現状だった。


 はぁ、と怒涛の一日に疲れ切って、明かりを消したベッドでため息を吐く。


 真の聖女として死に戻りしては、前世の記憶を取り戻して、11歳から再スタートするなり、『一度目』で救えなかったレイチェラが守護聖獣だと明らかになったり、婚約者のエル様の様子が変わってて『一度目』と違って冷遇の環境から救われて……。


「………………ハッ!」


 そうだよ! 脱冷遇に安堵している場合じゃないよ!! 私は死に戻りして運命を変えなくちゃいけないんだった!!


 えっと、えっと! 先ずは、レイチェラに守護聖獣のことを話さないと!

 真の聖女である私は、ちゃんと聖女について学ぶ必要があるけれど、自覚がないであろうレイチェラも同じこと。守護聖獣の力をコントロールしてもらわないと、何かの拍子で偽の聖女である妹の守護聖獣だと勘違いされて奪われかねない。真の守護聖獣にどんな力があるかはわからないけれど、無意識に発動なんかして事故が起きてはいけない。

 一刻も早くレイチェラに伝えねば!


 寝間着のワンピースから簡易のドレスに着替え直して、慌てて離宮の奥にある使用人寮へと慌てて向かった。


 レイチェラは昼にたっぷり仕えたので、夜はもう上がりで、寮にいるはずだ。使用人寮は、離宮の裏手にある。入ったことはないが、行き方はわかっていた。


 その途中、何故か不安に駆られる。なんだろう。この胸騒ぎ。

 ついつい、急かされるかのように歩みを速める。


 廊下の窓の外に、人影を見つけた。使用人や警備兵のようだ。

 その中心に膝をついているのは、レイチェラだった。


 焦って窓枠を飛び越えて駆け付ける。


「何をしているの!?」

「ルーチェエルラ、殿下っ……」


 見たところ、レイチェラに怪我はなさそうだけど、突き飛ばされたのかもしれない姿勢だった。


 私の介入に少しは怯んだけれど、警備兵達は解散しようとしない。


「殿下に媚びを売ったこの裏切り者は、今まで食料をくすねていたのです!」

「なのに処罰を免れるなんて許せません!」


 それは私のために用意した食料である。今更責め立てて、レイチェラだけが罪を免れることに八つ当たりをする一同。

 私のせいで、レイチェラが私刑を受けてしまう。

 私のためだったのに。それを言って、身勝手な彼らが納得するか? 否。そもそも納得させる必要はない。


「黙りなさい!!」


 勇気を振り絞って、声を張り上げた。こんなこと『第三王女ルーチェエルラ』になってから生まれて初めてだ。

 レイチェラも彼らも、心底驚いただろう。


「あなた方が職務怠慢に過ごした時に、レイチェラは私のために食事を確保したのです! あなた方に責められる謂れはないのです!」

「っ! ()()()()()()()()()()()!」


 冷遇された王女。そう軽んじられる。私のその肩書きは、薄っぺらい。だがしかし。それだとしても、私は王女なのだ。王族なのだ。



「冷遇されようが、私は王女! 王族よ! あなたは王族である私を貶してただで済むと思っているの!?」



 権力を振りかざせ。ありったけの力を込めて。


 昼間のエル様のように。


 王族だという現実を突きつけられて、すっかり警備兵達は真っ青になった。


「私はいずれバルムート公爵夫人になる第三王女ルーチェエルラよ! 愚弄するなら、処罰を受けるというのね!?」


「そ、それはっ……」と、口ごもる警備兵。


「全員、王族冒涜罪で投獄いたしましょう」


 いつの間にか現れたミワールが告げた。

 借りていた騎士数名と、バルムート公爵家の男性使用人達が、この場にいた警備兵や使用人達を一網打尽に捕らえる。


 私はレイチェラを振り返り、震える手で手を貸した。


「レイチェラ、大丈夫?」

「……ルーチェエルラ殿下……」


 震える私の手を見つめて、ギュッと握り締めてくれるレイチェラ。

 緊張の糸がほどけて、またもや泣きそうになった。今日は泣きすぎだと、なんとか堪える。


 ミワールにもそっと部屋に戻るように言われたので、本来のレイチェラに守護聖獣について話す用事もちゃんとこなそうと「レイチェラ、今夜は一緒にいて」と頼み、護衛騎士についてきてもらい、部屋に戻った。


「ルーチェエルラ殿下。助けに入ってくださり、本当にありがとうございます。とても……とても立派になりましたね」


 部屋に戻るなり、向き合ったレイチェラは感動したように涙ぐむ。


「レイチェラ。あなたは大事なメイドだったわ。でも今日、気付いたの。聞いてほしい」


 私は涙ぐむレイチェラの両手を取って、語りかけた。



 

2024/05/10◎

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