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14 『祈り』と『言霊』と『奇跡』



 大神殿の書物庫。護衛騎士に中の安全を確認してもらってから、また外で待機してもらい、三人だけになったところで、ホッと胸を撫で下した。


「なんか、ごめんね……二人にバレないようにって言い含んだのに、私が危ういことをしてしまって」

「いえいえ! ルーチェ様! セーフです、セーフ! そもそも自分達の力を把握しきれていないのですから、仕方ありませんよ!」

「そうです! 悪くありません! ルーチェ様!」


 ウィリーオンもレイチェラも、フォローしてくれる。

 そうね、セーフよね。大神殿で謎の発光をしてしまっても、全然セーフ。そう言い聞かせた。


「体調はよくなった?」

「ルーチェ様のおかげさまで! では、調べ物の結果を報告いたしますね」

「うん、お願い」


 ウィリーオンが椅子を勧めてくれたので、私もレイチェラも腰かける。


「結論から報告しますが……我々の力を理解出来るような記述は見つけられませんでした。申し訳ありません」

「まあ。……頑張ってくれたのだから、そんな頭を下げなくてもいいのよ」


 深々と頭を下げたウィリーオンに、頭を上げてもらう。この書物庫の聖女関連の知識を網羅しているウィリーオンでも、参考になる情報を集められなかった。


「労わってくれてありがとうございます……流石、我が聖女様です。力を理解するような記述が見つけられなかったので、その他の情報を掻き集めることにしました。邪神の情報です」

「! あったの?」

「いいえ、なかったのです。ですが、ヒントならあるはずだと思ったのです。例えば、過去にも偽の聖女がいた場合、それも邪神の悪しき力が働いたと考えたのです。初代聖女様と二代目聖女様は確かに本物だったと、『奇跡』が物語っています。ただ三代目以降から、疑わしいですね。七代目はデスドラゴンを討伐した『奇跡』を起こしました。ただ、この三方が『奇跡』を起こしたというだけで、平穏な時代に『奇跡』が必要なかった聖女様もいたでしょうから、その方々を偽物だとは断定も出来ないです。偽物だと断定して、詳しい情報を得ようとしているところでした。こちらが『奇跡』を起こしていない聖女様達の資料であり、こちらが『奇跡』を起こした聖女様達の資料となります」


 ウィリーオンは、すでに分けてくれて用意してくれていた。


「では、ルーチェ様は『奇跡』を起こした聖女様達の資料を見て、聖女の力を調べるべきではないですか? 私達は偽物の疑いがある聖女様の資料を調べて、邪神の正体を突き止めてみましょう」


 レイチェラがそう提案する。それがいいだろう。

 一先ず、私は私の聖女の力のヒントを探し、二人は邪神の悪しき力の方を調べる。

 しばらくして、私は口を開く。


「ねぇ、意見を聞かせてほしいのだけれど、いいかしら?」

「はい、なんでしょう?」


 二人は顔を上げてくれた。


「三代目聖女様の『奇跡』は、魔物や魔獣を言葉一つで退けるという『奇跡』を起こしたと記されているわ」

「はい。巨大魔物も『去れ』の一言で退けたとそうです!」


 聖女ファンのウィリーオンは目を輝かせて語る。


「うん……それは言葉の魔法のような力なのではないかしら。言霊。もしかしたら、私が『そばにいて』って言ったから、守護聖獣であるあなた達も従わずにはいられなくなっているのではないかしら……?」


 不安になって眉を下げて問うと、二人が顔色を変えた。


「いえいえ違います!! ちゃんと忠誠心があってこその自分の意志です!」

「はい、その通りです! 私は言われずとも『おそばにいて』仕えたく思っておりました!! 決して言葉の魔法で操られているわけではありませんよ!」

「そ、そう……? それならいいのだけれど」


 言霊という『奇跡』の力が、作用していないのならいいのだけれど。


「あれじゃないですか? 『祈り』の強さで『奇跡』を起こすことと同じで、脅威になる魔物を鎮めて追い返す『言霊』だったのでしょう。聖女様のお力は神聖な物です。悪いものではないはずなので、不安に思うことはありませんよ! 流石、真の聖女様、ルーチェ様です」


 明るく言い退けるウィリーオンは、そうにこやかに言ってくれた。


「なるほど……そうなると、言葉の魔法、いえ、言葉の『奇跡』で悪を退ける力があるということね。少なくとも、三代目の聖女はその力を使っていた。魔法使いが得意属性が個人で違うように、聖女の力も色々あって得意が違うと仮定すると……歴史を振り返れば、やはり初代聖女様が強力な力を振るっていたのよね。彼女の場合、撃退と治癒の『奇跡』を起こしたのだから」

「ルーチェ様の適正を見極めるべきでしょうか」

「そうね……。一応光属性の魔法を学んで、治癒魔法の類が効力が強くなっていないかを確認しようとは思っていたの」

「先程も光りましたしね……強化されている可能性もありますね」


 ふむと顎を擦ると、ウィリーオンはパチンと指を鳴らす。


「では、病院に行かれますか? 患者を治療しましょう!」


 と、患者に治癒魔法を施すために病院へ行こうと提案してくれた。


「えっと、でもそれは」

「偽物と鉢合わせしません? それこそ本物だとバレてしまわれるのでは?」


 レイチェラが代わりに危惧していることを言ってくれる。


「それなら心配に及ばない場所に行けばいいのです。偽物は基本、この大神殿と大病院にしか治癒行為を行っていません。ので、我々は他の病院に行けばいいのです。身分も隠して神官衣を用意しますよ!」


 そうか。偽の聖女であるリリスアンは、聖女アピールをするのに一番注目を浴びる場を選ぶ。逆を言えば、小さな病院なんて彼女が足を踏み入れることはないのだ。


「でも……残る問題は、護衛なのよね」


 私は困ったと頬に手を添えて、後ろを振り返る。書物庫の外で待機しているはずの護衛騎士の二人だ。


「ああー……そうでしたね。護衛が必要ですもね。いくら我々守護聖獣がついていても……」

「それなら来月の剣術大会でスカウトする騎士を待つべきですね」


 困ったと首を捻るウィリーオンの向かいで、レイチェラは守護聖獣だと思われる騎士のことを口にした。


「その騎士ですが、大会前に接触は出来ないのですか?」

「うーん……そうしたいのは、山々なんだけれど……その接触出来なくて」


 私だって、大会当日になってやっと説得するなんて難易度が高いことをしたくない。

 しかし、情報がないのだ。私には捜索する伝手もないし……。バルムート公爵家に、これ以上は……。


「前も仰っていましたが……どんな騎士なのですか?」


 前回、話しておいたので、ウィリーオンも詳しいことを尋ねた。


「青いオーラ、つまりは闘気を扱う凄腕の騎士よ」


 戦闘において、闘気、通称オーラを扱う技がある。剣に乗せて斬撃を飛ばすような戦闘技術だ。

 彼が本物の守護聖獣だと判断する理由だった。

 でもどうして彼を知っているのかを話せないので、それしか知らないということにする。女神様の啓示ということにした。


「女神様の啓示をされている守護聖獣ですからね……その強さの期待は大きいですよね」


 ウィリーオンがプレッシャーをかける。これで違ったらどうしよう。説得出来なかったらどうしよう。


「でも、ルーチェ様。エルドラート公子様にもお話をしたらどうでしょうか?」


 レイチェラが遠慮がちにそう言い出す。


「いいえ……それはだめなの。バルムート公爵家と王家が対立する要因になりかねないわ。バルムート公爵家は王家が持参金を多く包む込んだ私を差し出すことで、この王国に縛り付ける盟約を結んだモノ。盟約の痛みがバルムート公爵閣下に行ってしまうわ」

「あっ……そうなんですね……」


 エル様との婚約が危うくなる要因になってしまうから、まだ現状を有利に出来ない今は無理だ。


「それに、患者を実験台のように扱うのはだめだわ……」

「そうですか? 実験台と言えば聞こえは悪いですが、本物の聖女様の治癒をしていただけるなら、幸福ですよ?」


 心の底から思っているような純粋な猫目をキラキラさせて、ウィリーオンは言い切った。


「でも、患者は知らないのよ」


「そうですけどもぉ」と、唇を尖らせるウィリーオン。


「来月のスカウトを成功させて、彼に護衛騎士としてついてきてもらって、それで治療行為をするまで、練習しておくわ」

「それがいいですね!」

「かしこまりました! ……でも、そうなると私達ですよね。守護聖獣の力です……」


 そういうことで、護衛騎士はスカウト予定の彼がいてくれれば、いいだろう。それまでの自己練習。

 そうなると、とレイチェラが顔を曇らせる。


「あれから変わりないんですよね……」


 レイチェラの半獣人化は、進歩がないという。


「せめて、ウィリーオン神官のように火を灯せれば……」と、ウィリーオンを羨ましそうに見やる。

 ウィリーオンは鼻を高くして、立てた人差し指の先でポッと桃色の火を灯した。


 キィイーとハンカチを噛むレイチェラ。ウィリー、煽らないの。


「半獣人化も目立つしね……怪力は戦闘に役立ちそうだけれど」

「ですね。いざという時は、ルーチェ様をお守りするために使いますが……。しかし、秘かに放火出来るウィリーオン神官の火は羨ましいです」

「放火を羨んじゃだめよ」


 苦笑を零す。こっそり使えるのはいい点に見えるだろうけれども。


「豹の姿の守護聖獣は火の海を生み出して魔獣の群れを浄化したと記述がありました。これはその火なのでしょう」

「浄化の火か……」

「放火に使われてますけれどね」


 レイチェラ……一言余計だわ。


「レイチェラなら水じゃない?」

「え? 水? どうしてそう思われるのですか?」

「熊だから、イメージで。水を操りそう。どうかしら」


 川で魚を獲る熊を連想して、提案してみたが、レイチェラの顔は浮かない。


「私……ルーチェ様と違って水属性の操作が下手なんです……」

「そうなの?」

「はい……どうしても加減余って大量の水が溢れてしまって」

「それは逆に強力だという意味では?」

「逆の発想!?」


 衝撃を受けたレイチェラは、すぐさま水を出そうとしたけれど、ここで大量の水を出されては困るとウィリーオンと一緒に止めた。



 


次回は木曜日(6/13)更新予定!

2024/06/10

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