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12 根本的な認識の違い。


 口をパクパクしているレイチェラは、熊の手になった両手をわたわたと振る。


「一体何をイメージをしたのですかっ?」


 ウィリーオンさんがあらゆる角度から見て尋ねた。


「強そうな熊に変身するイメージを……」


 あわあわしているレイチェラは、熊に変身したかった結果、半獣人化したみたいだ。


「変身魔法は高度な魔法なのに……獣人族の奥の手でしたよね?」


 ちょっとすごさにドン引きしているウィリーオンさんが私に確認してくるように、獣人族の変身は奥の手と言われている技だったはず。そして変身魔法もあるけれど、それは高度に分類される。


「でも、私……熊さんに変身するつもりでした…………戻り方がわかりません」


 ぐずるレイチェラに「くまさん」とオウム返しするウィリーオンさん。


「落ち着いて。イメージで出来たなら、戻り方もイメージよ」

「は、はいっ」


 うーんうーん、としばらく唸っていたレイチェラは、ようやく仄かに青く発光する熊の手を消し去って元の姿に戻った。安堵のせいか、脱力したレイチェラはお疲れのように見える。


「疲れた?」

「はい…………気力が削れたような……」

「魔力じゃなくて、気力がエネルギーなのかしら」


 気力が守護聖獣の力なのなら、魔力と違う認識なのも頷けた。

「なるほど、気力を消耗するのですね」と、ウィリーオンさんも納得する。


 とりあえず、レイチェラは休ませてあげて、話を詰めた。


「レイチェラもそうだけれど、力を使えるようにしたくて、神殿で情報を集めようと思ったのです」

「ルーチェエルラ王女殿下、自分に敬語は不要です。情報なら自分がまとめておきます。もっと参考になる情報を得られないか、もう一度読み返します。偽物の動向も見張っておきます」


 キリッと眉を寄せてかっこつけるウィリーオンさんだが、把握が早い。とても助かる。


「わかった。そうしてくれると助かるわ。ウィリーオンさんを頼りにしてる」


「うぐっ!」と、ウィリーオンさんは胸を押さえて呻いた。

 どうしたの?

「自分のことは……どうぞ、ウィリーと」と、息絶え絶えに言ってきた。


「ずるいです! 私もレイと愛称で呼ばれたいです!」と、レイチェラも参戦した。


「えっと……レイと、ウィリー?」


 言われた通り、小首を傾げて呼んでみる。


「はうっ!」

「真の聖女様っ……尊い!」


 二人して胸を押さえて悶えた。

 この場合、私はどういう反応をするのが正しいのだろうか……。


「ウィリーはスパイ行為もする気みたいだけれど、無理はしないでね? 守護聖獣だってバレたら厄介だし、リリスアンは悪知恵が働くから」

「ええ、存じております」


 ウィリーオンは苦虫を潰したような顔をしたから、一体リリスアンのどんな一面を見て嫌うようになったか尋ねてみた。


 すると、リリスアンが私をダシに神聖なマリーゴールドを摘んだ話を教えてもらった。

 もちろん、花はおろか、何かをもらったことなどない私は、首を横に振る。


 可哀想な冷遇された姉を思い遣る王女を演じたリリスアンに、レイチェラも憤怒した。

「そこまでする方だったのですか!」と、ようやくリリスアンの本性に気付く。


「でもその時点では、リリスアンが私に渡していないって知らなかったでしょ? 何故わかったの?」

「いえいえ。嘘臭さが嗅ぎ取れたのですよ。あざとらしい悪知恵の臭いがね!」


 言い切るウィリーオンは、やっぱり直感、いや本能で嫌悪しているようだ。


「偽物は一先ず置いといて、大元の元凶である邪神について情報はないのですか?」


 なんて、話を変えたウィリーオンに問われて、キョトンとしてしまった。


「いいえ? 女神様からは、邪神の悪しき力が、私達の運命に影響を与えて狂わせた、としか聞いていないわ。もしかして、邪神相手に戦うことを考えている? 邪神とはいえ、神だからそれは……」


 と、口ごもる。


「ですが、悪の根源は断ち切らないと。邪神についても調べてみましょう。何か対策が見つかるかもしれません。偽物は所詮偽物。こちらが本物だと名乗れないのは厄介ですが、それだけじゃないですか」

「……」


 ウィリーオンの言葉を聞いて、口を噤む。


 ウィリーオン達と私は、根本的に認識が違う。


 邪神が悪の根源であっても、神の領域に手出し出来るとは思えないし、私としては私を死に追いやったリリスアンが最大の敵という認識だ。でも『一度目』を知らないウィリーオン達にとっては、リリスアンは偽物という認識でしかない。私ほどの脅威の認識をされていないのだ。


 『一度目』を話すべきだろうか。いや、今はまだやめておこう。もっと味方を集めてからにして、打ち明けよう。


「では、お願いするわ。邪神の悪しき力がどう作用しているかは未知数。くれぐれも気を付けましょう」

「「はい」」


 今はこれだけにしよう。


「偽物の件もそうよ。彼女が偽物で、私が本物だと知った時、彼女や彼女が取り巻く環境がどう牙を向くか……わからないんだから」


 ちゃんと、偽の聖女のリリスアンの脅威も釘を刺しておく。わかるのは、牙を向けられるという事実。

 偽物の烙印をリリスアンが許すわけもなく、周囲も認めるわけもないのだ。


「わかりました」

「……かしこまりました」


 二人は、重たく頷いた。


「苦労をかけるけれど、自分達を含む多くの人々を救うためよ。頑張りましょう」

「「はいっ!」」


 力強い返事をもらえた。

 自分達の命も運命も救うための戦いに挑むのだ。


 先ずは、二人。残りは、四人。

 そして、一人は来月の剣術大会で――――。



 

いいね、ありがとうございます。

2024/05/23⭐︎

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