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11 二人目の守護聖獣。




「ようこそ! ルーチェエルラ王女殿下!」


 大神殿に行くと出迎えたのは、ウィリーオン神官一人だけだった。

 昨日とわかりやすい待遇の違いだ。誤魔化したいのか、とても明るい笑顔のウィリーオンさん。

 まぁ、目くじら立てることでもないから、昨日と同じく書物庫に入らせてもらおうとしたのだが。


「今日は先に初代聖女様と守護聖獣の壁画をご覧になりませんか?」


 と、ウィリーオンさんが提案してくれた。


「壁画があるのですか……初めて聞きました」

「ええ、庭園の最奥にあるのですよ」

「では、ぜひ」


 案内してもらった色とりどりのマリーゴールドの庭園の最奥。一本道で並んで立って目にするのは、大きな壁画。

「女神様に似ている……」と、ポツリ零した。


「ええ、そうですね。初代聖女は、女神様に瓜二つとも言われております」


 聞き取ったウィリーオンさんは、同感だと頷く。

 壁画の中央に祈りのポーズで描かれている女性が初代聖女だろう。女神像にもそうだが、見たことがある女神様にとても似ていた。そして左右に六匹の聖獣が描かれている。


「こちらが赤の守護聖獣、あちらが青の守護聖獣です」


 右側が赤の守護聖獣であり、左側が青の守護聖獣か。確かに左側には熊の姿があった。

 レイチェラが目配せしてくるので、許可を出す頷きを見せれば、そちらに寄っていって凝視する。

 額に角を生やした黒の爪の熊の聖獣。レイチェラに見えていたソレと重なる姿だ。


「昨日もそうでしたが、侍女さんも熱心にご覧になられるんですね」


 ウィリーオンさんの声に反応して振り向けば、意味深にじっと見てきていた。


「自分も聖女様以上に守護聖獣には心惹かれるものを感じるのです」

「だから神官になって信仰しているのでは?」

「……ええ、まぁ」


 何が言いたいのだろうか。

 なんだか物言いたげな表情でじっと見てくるウィリーオンさんは、今日は警戒心を出していない。

 昨日は守護聖獣の話題にはピリピリしていたのに。おかしな人ね。


「自分は心から聖女様に仕えたいと思っているのですが、第四王女殿下にはそれを微塵も覚えないのです。どうしてだと思いますか?」


 マリーゴールドの匂いを運ぶ風の中、ハッと息を呑む。

 これはもしや。いや、でも。まだだめだ。慎重にならなくては。神殿だっていわばリリスアンのテリトリー。

 そこで都合よく味方がいるわけ……。でも彼はリリスアンを嫌っているようだし。でも。でもでも。落ち着け。


「……では、お聞きしますが……」


 ドクドクと心臓が緊張で高鳴る。静かに返答を待っているウィリーオンさんに、壁画を指差して見せた。


「自分が聖女様に仕える守護聖獣ならば、どの姿だと思われますか?」


 あなたは、どの守護聖獣なの? その問いをする。


「自分はあれです」


 すんなりとウィリーオンさんは指差したのは、赤の守護聖獣の方、額に一角を生やした豹だった。


「髪色とお揃いの桃色の豹です」


 自分の髪を摘まむと口角を上げて見せたウィリーオンさん。

 ゾクゾクッとした。まさか。そんな。

 こんなにも早く二人目を見付けられるなんて! あまりの幸運に鳥肌が立ってしまう。

 ありがとうございます、女神様! え? 罠とかじゃないよね? 絶対そうだと言って!


「豹の守護聖獣ってどんな記載がありましたっけ? もう一度昨日読ませてもらった書物を確認してもいいですか?」

「ええ、どうぞ。では行きましょうか」


 このやり取りを全然見ていなかったレイチェラは、“え? もう行くんですか?”という顔をしたが、自分の壁画に見とれている場合でないのだ。問答無用で連行である。


「二人は外で待っててください」

「……中を確認次第、待機します」


 書物庫の外で待機を命じたら、イアン卿は不服そうな間を空けたけれど、書物庫に他に人がいないことを確認すると外の入り口で待機してくれた。


「ウィリーオンさん。あなたは真の聖女になら、心からの忠誠を誓えますか?」


 スッと背筋を伸ばして、ウィリーオンさんを見上げて問う。後ろでレイチェラが息を呑んだ気配がした。


「『そばにいて』くれますか?」


 手を差し出す。もう心臓はドキドキだ。もしも罠だったなら、という不安もあるのだから。

 片膝をついたウィリーオンさんは、壊れ物を扱うようにその手を包んでくれた。



「それが真の聖女様が望む忠誠ならば、そばにいると誓いましょう」



 その言葉に反応して、桃色の光りが灯る。温かな光だ。そうして、桃色の豹が見えた。


「うわっ……!? こ、こんなっ……こんな現象、初めてだ! 本物だ!!」


 猫目を見開いたウィリーオンさんは、涙を目尻に溜める。


「我が聖女様……!!」


 ひしっと両手を握り締められた。挙句、すりすりと頬擦りされる。

 シュバッと、レイチェラが私を抱え上げて離してくれた。


「不敬ですよ! この方を誰と心得るのですか!」

「我が聖女様!」

「二人とも静かに! しー!」


 待機しているイアン卿が聞き取って入ってきたらどうするのだ。


「ウィリーオンさんは、守護聖獣の自覚が前からあったのですか?」


 フシャーと威嚇しているレイチェラに下してもらって、確認する。


「ええ。あの壁画を見たら、ピンときまして。それから家族の反対を振り切って、神官になったわけなのですが……先日聖女認定されたアレには全然心が動かなくて、守護聖獣だと名乗りませんでした。名乗りたくありません。断固拒否です。アレは認めません」


 頑なな拒否であった。ウィリーオンさん、本当にリリスアンが嫌いなのね……。


「ピンとくるってなんですか? イマイチわかりませんわ……。守護聖獣は、聖女様への忠誠心をきっかけに覚醒するのではないのですか?」

「え? だから覚醒したのでしょう? 自分は聖女様に仕えるべき守護聖獣だと自覚したから」


 怪訝なレイチェラの問いに、ケロリと答えるウィリーオンさん。ますますわからないと眉間にグッと寄せるレイチェラだった。


「先程のような発光は初めてなのに、どんな自覚をしたというのですか……?」

「ああ、これですよ」


 自覚した要因を見せてくれた。掌の上に、ポッと灯る桃色の火。


「魔力の気配じゃない……!」

「! つまり、これは守護聖獣の力!? どうやって使うのですか!?」

「うおっと! 危ない!」


 食いついたレイチェラが掴みかかったから、ウィリーオンさんはひょいっと避けた。


「危ないよ、これは火ですよ。これでバカな神官副長や先輩神官達の神官衣を燃やしたのですからね」

「いや、何やってるの……」

「ルーチェ様、この方、人違いかもしれません……神官らしくもないですし」

「しょうがないじゃないですか。自分、聖女ファンなのに聖女認定された第四王女殿下は慕わないのですから。変人扱いして虐げる神官達に仕返しを少々」


 へらりと答えると、掌を振って火を消すウィリーオンさん。


「そうだったのですね……大変だったのですね」

「いえいえ! もう真の聖女様に出会えたので、もう報われました!」


 清々しい笑顔になるウィリーオンさんだった。スッキリした様子。


「真の聖女って……昨日は偉業を成し遂げた方を呼ぶと言っていたのでは?」

「昨日は生意気言って申し訳ありませんでした。本物の聖女様は、魂からわかりました!」


 揚げ足をとりたかったわけじゃないが、昨日と発言が違うと指摘したらその場でひれ伏した。


「ルーチェエルラ王女殿下こそ、いつから覚醒を? どうして第四王女が?」と、ひれ伏した姿勢のまま、ウィリーオンさんは恐る恐ると説明を求める。


 私とレイチェラは顔を見合わせたあと、あの夜にレイチェラに伝えたことを簡潔に伝えた。


 女神様から真の聖女だと告げられた私と、覚醒したレイチェラ。邪神の悪しき力が働いているせいもあり、状況は不利だから、力をつけて味方を集めることにした、と。

 レイチェラの時は放心していたが、自覚が早かったおかげか、ウィリーオンさんはすんなり呑み込めたようだ。


「なるほど、真の聖女だと知っているのもこの当人達だけなのですか、賢明な判断ですね」

「ウィリーオン神官。あなたの他に、守護聖獣らしき方はいないのですか?」

「いないでしょうね。守護聖獣を名乗っているあのオーランドはどうですか?」

「彼は偽物です」

「おや? そう断言する理由は?」

「真の聖女だと守護聖獣は本能で気付けるようですし……何より、守るべき聖女に牙を向けるのならば、守護聖獣なわけがないでしょう」


 『一度目』の死に追いやったオーランドを思い出して薄く笑って言ってしまうと、二人が目の色を変える。


「一体、あの魔法使いに何を……いえ! 葬りましょう!」

「いや待て。一度奴のローブに火をつけたが、水魔法でなんなく鎮火されてしまった! 天才魔法使いは伊達じゃない……こちらも力を蓄えて闇討ちせねば!」

「闇討ちしか考えられないの……?」


 なんて物騒な守護聖獣なのだろう。私の報復のためだろうけれど、やめてほしい。闇討ちを選ぶのも、まだ表舞台に上がって正々堂々と処罰を下せないからだろう。


「どうしてオーランドにまで放火をしたの……?」


 先ずそこが気になるところだ。放火魔かな。


「だって守護聖獣を名乗ってるんですよ? ムカつきません? アレに仕えてるし。火だるまにする勢いでやれば火傷くらいさせられたのに」


 プーと膨れっ面をするウィリーオンさんは悔しそう。そして、やっぱり放火魔みたいだ。


「そんなに放火してて大丈夫なの?」

「バレません。魔力ではないので残滓は感知されませんし、あの魔法使いには警戒されてますが、神殿では謎の怪奇現象だと騒がれてるだけです」


 神官が神殿で怪奇現象騒ぎを起こしちゃダメでしょ。


「お願いします! 守護聖獣の力の使い方を教えてください!」


 ウィリーオンさんの手を今度こそ掴み、レイチェラは頼み込んだ。

「私、まだ青い光しか出せなくて!」と目を潤ませた。


「自分も大した力は使えてないですよ? さっきの発火ぐらいで。まぁ、助言をするなら、イメージの具現化ですね。魔法と似ていて違いますが、イメージの具現化をするんです。魔力を使わずに、具現をするイメージで!」


 ウィリーオンさんは、火を操れるのか。

 魔法に似ていて、異なる。魔力を使わずしてイメージを具現化。

 私も参考にしようと頭の中でメモした。すると、早速実行したのか、レイチェラが青く発光。熊になった。

 そう。熊になったのである。

 発光する群青色の毛を頬や額に生やし、手も熊の手になっていた。


「「「なっ……!?」」」


 なんじゃこりゃ!? という叫びはかろうじて三人で飲み込んだ。



 


二人目は放火魔神官 笑


2024/05/20

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