計画
ノエルたちは、オアシスの静かな水辺で休息を取っていた。
ノエルは草の上に寝転がり、青空を見上げる。広大な砂漠の真ん中に出現したこの緑の楽園は、なかなかいいできだとノエルは自画自賛した。
「こうしてると、平和な気持ちになるなあ」
足首まであるワンピースを無造作にまとったノエルが、静かに呟いた。
ルーナが微笑みながら隣に腰を下ろす。
ノエルが女の体だと分かったルーナは、同性ならではの気安さでノエルに接するようになっていた。
「本当にそうね。あの乾いた砂漠にこんなオアシスがあるなんて、誰も想像してないと思う」
モルフェは池のほとりで足を水に浸していた。
「さっきから、魚が俺の足をつついてくるんだが……」
「餌だと思われてるんじゃないか?」
と、ノエルが言うと、
「勘弁してくれよ」
モルフェは年相応の顔で笑った。
そうしていると普通の青年のように見える。
レインハルトは泉のほとりに座り、黄色っぽいデーツの実をかじりながら、満足げに笑った。
「ああ、ここは本当に素晴らしいですね。これをノエル様が作ったとは……」
カワウソたちと遊んでいたノエルは、得意気に胸をはった。
「俺の『フローラ』も役に立っただろ?」
レインハルトが頷く。
「ええ。まさかこんなふうに使うときが来るとは……、あの山火事を起こしたときは、隠蔽とねつ造に使用する魔法として使い勝手がいいなと思っていたのですが」
「ええ~? 山火事って何、何!?」
ルーナが身を乗り出した。
快活な笑みは、生命力にあふれている。
レイトの街で小さくなっていた面影はどこにもない。
元々は明るい性格の娘だったのかもしれない。
ノエルは眉を寄せた。
「もう、その話はいいだろ……先の話をしようぜ。それに」
自分と一緒にいる仲間の顔を見渡しながら、ノエルは噛みしめるように言った。
「あのさ。ルーナはオアシスと拠点の屋敷と、つなぐ道を整備してくれた。モルフェとレインハルトは、なんだかんだ協力して屋敷の内部を作りあげてくれた。おかげで俺は外の環境を整えられたんだ。それぞれが良い仕事をしたよ。オアシスができたのはみんなのおかげだ。ありがとう」
ルーナが嬉しそうにノエルに抱きついた。
意外にも豊満な胸元がぎゅっと押しつけられる。
(おおっ!?)
ふわふわした感触が心地よい。
懐いてもらえたうれしさ半分、間違って圧し殺されないかという不安半分で、ノエルは曖昧に微笑んだ。
黙っていたモルフェは手を伸ばして、水面に触れた。
透明な雫が跳ねて、日に焼けたモルフェの肌を濡らす。
「クソ竜の襲撃の心配がなければ、もっと長くこの平和を楽しめるんだがな。そうもいってられねぇ。ノエル、どうするつもりだ?」
ノエルは頷いた。
「ああ、竜が来るのは時間の問題だな。とにかく、今よりもっと防御を強化しないといけない」
このままだと、同じ悲劇が繰り返されるだけだ。
レインハルトが言う。
「シールド、をはるってことですか? そんなこと可能なのでしょうか」
モルフェは率直だった。
「不可能じゃねーよ。でもほぼ無理だ。永続的な防御は結界に近い。そんなのは力のある神官でもなけりゃあ、難しいだろう。現実的な話、俺らにできるのは、一時的な防御魔法だけだ」
「じゃあ、集落の周囲に防壁を作るのはどうでしょう?」
ルーナが提案した。
「壁を魔法で強化すれば、竜の攻撃にも耐えられるかもしれません」
ノエルは頷いた。
「なるほどな。それはアリかも……壁を作っておいて、そこにモルフェと俺で強化魔法をかける」
デーツを食べ終わったレインハルトが、池の水で手を洗いながら言った。
「それも必要かもしれませんが、……竜は空から攻撃してくるのでしょう? 空に壁を造るわけにはいきませんね」
モルフェが真剣な表情で付け加えた。
「なら、偵察すりゃあいい。竜の動きを常に監視する。早めに気づけば、対策も取りやすい。攻撃してきたところを即座に防御する」
一面が業火となるような攻撃をしてくる敵だ。
運良く最初の攻撃が防げたとしても、その後は――。
ノエルの心に過ぎった不安を加速させるかのように、レインハルトが言った。
「仮に、最初の攻撃の防御がうまくいったとして、俺たちはたった4人だ……村にいる村人たちは、戦闘力はない。騎士団を壊滅させたドラゴンを、4人でどうやったら倒せるかを考えねばなるまい」
「うーん……」
ノエルは考えた。
レインハルトの言うことはもっともなのだが、なかなか良い考えが浮かばない。
レインハルトが籠を持ち上げて立ち上がった。
小さな子どもくらいなら入れそうな、大きな籠だ。
村長の妻のエラが椰子の葉で編んでくれたバスケットは、収穫用にはもってこいだった。
「その豆はエラさんたちに好評でしたよ。今日はすり潰して、芋と混ぜて焼いてみるそうです」
ノエルは池の周りに生えている豆の群生を見た。
ぐんぐん伸びた豆の一本は、もはや木のようになっている。
フローラをかけまくって一本だけ成長させてみたら、某お伽話の豆の木のようになってしまった。さすがに雲には届かないが、ビーンズツリーと名付けても差し支えなさそうなくらいには成長している。
レインハルトはノエルにも籠を渡した。
近くに居ても物を投げないところが、レインハルトが紳士たるゆえんである。
「まあ、こうしてても何ですし、とりあえずは晩ご飯を収穫しましょうか」
というレインハルトの言葉にみんなが動き出した。
ノエルはもう一度、大きくそびえ立つ豆の木を見た。
もしも、自分もこれくらい大きな背丈があれば、怪物との戦いなどすぐにでも勝ってみせるのに。
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