作物も栽培するんだぞ
ノエルはエラにもらったハーブの種を懐から取り出した。
村長の家で飲んだ甘ったるい匂いを思い出す。
エラによると、『スイートシトリン』というらしい。
(正直、あれは苦手な味だったけど……ルーナは美味しそうにしてたからなあ)
種は黄色くてごつごつしている。
いったいどのような形の花なのだろう。
ノエルは種を地面に植えて、土を被せた。
「フローラ!」
魔法を唱えると、青い光が種を包み込んだ。
すると、その種は驚くべき速さで成長を始めた。
「うお!? け、けっこう大きいな!?」
芽は、勢いよく地面から伸び出し、あっという間に大きくなっていった。
ノエルの膝下ほどまで伸びた草から、にょんにょんと花が咲く。
葉はくすんだ緑だったが、花は白く可憐で、周囲に甘く爽やかな香りを放っていた。
「これは……」
ノエルは驚きを隠せなかった。見たこともない花と芳香が辺りに広がっていく。カワウソたちも興味津々で花に近づいてきた。
一番小さなカワウソが花の香りをかぎ、嬉しそうに跳ね回った。
「キュイッ! キュイッ!」
「すごいな、これが獣人のハーブ……スイートシトリンか」
ノエルはその花をじっくり観察した。
長い間、この花は獣人たちに愛されてきたらしい。もしかすると、このハーブには彼らにとっては特別な意味があるのかもしれない。
「エラさんに感謝しないとな」
ノエルは気合いを入れ直した。
今日は新しいことを試すのだ。
「食料を作りたいな……家庭菜園的な……」
これくらい地面が潤っているなら、小さなトマトのような作物くらいなら育つのではないだろうか。
しかし、前回のように節操なしに草を生やすのではなく、範囲を決めたい。
ノエルは新しい魔法を試すことにした。
「えーと、庭……庭、だから……あれだ! フローラ・ガーデン!」
ノエルは慎重に呪文を唱え、地面に手をかざした。周りの空気が一瞬静まり返った。次の瞬間、池全体に美しい花畑が広がり、花の香りが風に乗って広がった。辺りは甘い香りで満たされた。
「すげぇな……我ながら」
コボルトの首を刎ねるより、こちらの方が自分に合っている。
ノエルは花の咲く砂漠の池の美しい光景に目を見張りながら、自分の新しい魔法の成功に満足していた。
「待てよ? フローラ・ガーデンを応用すれば……」
ノエルは深呼吸をして集中した。ゆっくりと手をかざしながら、新しい呪文を唱える。
「フローラ・ベジタブル・ガーデン!」
地面がやわらかく輝き始めた。
次の瞬間、色とりどりの光が地面から湧き上がり、そこから様々な種類の野菜が次々と生えてきた。殆どは枯れてしまったが、トマト、キュウリ、そしてカボチャ、ナスがみるみるうちに成長した。
「おおおおお! ツヤツヤ野菜!」
ノエルは感動した。
「と、いうことはフルーツもいけるのでは!?」
こうなると、研究は加速していく。
「フローラ・フルーツ・ガーデン!」
「フローラ・サボテン・ガーデン!」
「フローラ・アルコール・ガーデン! は、さすがに無理か……酒の花が咲かないかと思ったけど……テキーラ・ガーデンなら……いや、無理か……」
ノエルの挑戦は日暮れまで続いた。




