種が育ったぞ
ノエルは早朝から池の周りに降り立った。昨日撒いた豆とハーブの種が気になって仕方がなかったからだ。
「どうなってるかな……」
池のほとりに近づくと、地面に小さな芽がいくつも顔を出していた。特に豆の芽は、力強く伸びている。ノエルは嬉しそうに微笑んだ。
「早いな、もう芽が出たのか」
その時、カワウソたちが水から顔を出し、興味津々にノエルを見つめていた。一番小さなカワウソも、嬉しそうに近寄ってきた。
「キュイッ、キュイッ!」
「お前たちも元気でよかったよ」
案外に適応力があるらしい。
ノエルはアイスの魔法を加減して放ち、水面の温度を下げる。
今日は天気も良く、太陽が暖かく照りつけている。これなら植物も元気に育つだろうと、ノエルは思った。
「さて、これからは毎日しっかり世話をしないとな」
そう呟きながら、ノエルは豆の芽に優しく池の水を注いだ。
ついでのようにフローラを放つ。
ギュインと大きく育つのが楽しい。
カワウソたちも嬉しそうに周りを泳ぎ回っている。
降雨による水なので、塩分もない。
「よし、フローラ!」
ノエルが魔法を唱え終わると、池の淵には小さな花がずらりと咲いた。
「キュイ―ッ」
カワウソ達も喜んでいる。ように見える。
「おし。もういっちょ、フローラ!」
ノエルが手をかざすと、青い光が豆の芽を包み込み、芽は見る見るうちに成長していった。
何度も唱えるたびに、豆の茎は伸び、葉は大きく広がり、ついには花が咲き始めた。花が咲くと、まるで祝福を受けているかのように、豆の作物はさらに成長を続け、立派な蔓とたくさんの実をつけた。
もはや小さな木のようだ。
「すごいな……こんなに立派に育つなんて」
ノエルは感動しながら、その光景を見守った。カワウソたちも驚いたように、豆の蔓を眺めていた。一番小さなカワウソが、満足そうにノエルを見上げた。
「キュイッ!」
「気に入ったか?」
ノエルはカワウソの頭を優しく撫でた。周囲には草の香りが漂い、風に揺れる葉の音が心地よかった。
「そう言えば、お前らって何食べるんだ?」
カワウソの集団が、ピチピチ跳ねる素振りを見せた。一匹は、ピョンピョン跳ねている。その隣では、丸まっているのがいる。
「魚? なるほど。隣はカエルか? その横が分からん……あっ、貝か!」
ノエルは川でも生きていけそうな生物を思い浮かべた。
捕りやすそうな川魚。
「うん、ニジマス……とか?」
ノエルは水面を見つめた。
力を手のひらに集める。
だいぶ、慣れてきた。
ここに自分のイメージを込めて、形作ればいい。
「レインボー・フィッシュ!」
エネルギーが水面を穿つ。
すると、色とりどりの光が弾ける中から、たくさんの魚が現れた。
「おっしゃあ! んー、大きさは小さいしなんかすんげえ虹色だけど! まあ、いっか!」
近くにいたカワウソたちがすぐに駆け寄り、嬉しそうに虹魚を捕まえて餌にし始めた。
「おお、よかった……」
「キュワワーキュピイイイ!」
カワウソたちの嬉しそうな様子を見て、ノエルは、
「よしよし」
と、微笑んだ。これで彼らも幸せな時間を過ごせることだろう。
「次は他の作物も試してみるか」
ノエルは決意を新たにした。エラにもらったハーブの種にもフローラの魔法をかけてみたら育つかもしれない。




