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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は第2王子に婚約破棄と国外追放されたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(7)東レヴィアス入国 マールの村

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拠点作りィ

ノエルたちは村長に連れられ、空き屋の集まる廃墟に案内された。

街の入口よりは少し小高い丘の上に位置しているが、水は干上がり地面はひび割れている。廃墟といって差し支えない。


「もうがらくただ。どこにも人はいない。何でも自由に使ってくれていい」

と言った村長は、妻の看病をしに戻っていった。


人の気配はない。

住んでいるのはもう数人だというから、この一帯はもう空き屋だらけなのだろう。

元は大きな集落だったようだが、瓦礫にまみれていて良く分からない。


「酷い襲撃だったのね……」

ルーナが悲しそうに呟いた。


「災害も戦争も、平民にとっては同じようなものなのかもしれないな」

ノエルも胸が苦しかった。

レインハルトも黙っていたが、モルフェはクンクンと辺りの匂いを嗅いだ。


「感傷にひたってても腹は減るぜ。とにかくどの家を拠点にするか決めよう」


非常に現実的な男だが、仲間に一人こういうのがいると役に立つ。

ノエルは村の奥地に、崩れていない壁の大きな家を見つけた。

何だかあれだけものすごく大きく見える。


「あそこにしよう」


近付いてみると、それは家というよりも屋敷のようだった。

長い年月を経て所々が少し崩れているものの、高い塔のような建築物や広いバルコニーがあり、かつての栄華を思わせる美しいデザインが施されている。


「立派なものですね」

レインハルトが呟いた。

「入り口に騎士団の紋様があります。どうやら、獣人たちの騎士団本部だったようですね」


屋敷の外壁は頑丈な石材で作られていた。

砂漠の厳しい環境にも耐えることのできる重厚な造りだ。

しかし、壁面には魔物の襲撃によるひっかいたような傷跡や、溶けた金属が散らばっている。


(これが爪跡だとすると、ずいぶんデカい……幅が家の扉くらいある。この石壁に跡をつけるほどの力があるってことか。恐竜みたいなもんか? まさに災害だな)


ノエルはごくりと唾を飲み込んだ。

今は、拠点が整うまでに、再度襲撃されないことを祈るしかない。


「いきますよ。ふんっ……!」

ルーナが扉を押し開けた。


屋敷の一部はやはり崩れていた。特に南側の壁の損傷が激しい。風や砂嵐によって崩れた部分から、屋内に砂が入り込んでいた。

あちらこちらに美しい装飾が施されており、かつての獣人の歴史が偲ばれる彫刻や模様が刻まれていた。



「よし! 修繕するぞ!」

ノエルは荷物を砂っぽい床にどさりと置いた。

「とりあえず、俺とルーナはひたすら屋敷の掃除と修繕だ。えーと、レインハルトとモルフェは……屋敷の探索かな」


小鳥と猫の手にできることは限りがある。

モルフェとレインハルトは先を争うようにして、屋敷の奥へと歩き出して、否、()()出して行った。




「よし、じゃあ……まずは崩れた外壁からかな」

「はい! 指示お願いします、ノエルさん! 力仕事ならお任せ下さい」

ルーナがふんっと胸をはった。

自信を持ってくれるなら、すばらしい。


「ルーナが頼りだよ。よろしくな」

と言うと、ルーナは丸い熊の耳をピクッと動かして、破顔した。


重い石材はルーナがクッションでもつまみ上げるように、ひょいひょいと運んでいく。

ノエルは全体を見て、指示をするだけでよかった。


「すげぇなー……」



ノエルは『おっさん』の体らしく、それなりに力を入れて散らばった金属だの端材だのを運んだが、ルーナの五分の一の石でも重かった。

やはり、獣人は人間の常識を遙かに超える力を持っているようだ。


「ノエルさあん! 塔の屋根も直しますか!?」

穴のあいた屋根を指さして、ルーナが叫ぶ。

隣にある小さな物見櫓のような塔だ。

ものすごく高いわけではないが、建物の二階くらいではある。

ルーナは石造りの塔の屋根を下から見上げて言った。


「劣化してますね。この木材を打ち付けたら、とりあえずは直せそうですが」

「危ないから、いいよ。俺がやろう。って、いってもはしごがないな……」

「そんなの要りませんよ」


ルーナはひょいっと外壁を上っていく。


「え!? ルーナ!? えっ! ちょ、危なっ」

するすると木登りよろしく、石登りをしたルーナは屋根に到達した。

しかも、背中に木材を負ぶっている。


「か、たて……? は? ん? 俺は何を見てるんだ?」

放心するノエルに、ルーナは笑った。

「熊はー! 木登りー! 得意なんですー!」


生き生きしている女の子は、なんだかいいなあ。

すがすがしい空気を出している気がする。


ノエルは己の常識をとりあえずは横に置いておいて、ルーナの活力に満ちた表情を下から見守ることにした。

この娘には、これからこういう顔で生きていって欲しいものだ。


(えーと。彫刻の修繕はともかく後回し。造りだけはしっかり修復をやらなきゃな)


と思ったとき、ノエルはひらめいた。


(待てよ? 『バリア』を張ればいいんじゃないのか? モルフェが言ってたな……何だっけ……網。隙間のある網じゃなくて、盾を作るって言ってた。だけど、俺はモルフェみたいに無詠唱で魔法は使えないな。となると)



考えていたその時。


「うわああああああっ!」

「ギャアアァァァァァッ!」


屋敷から、ぞうきんを引き裂くような汚い悲鳴が聞こえた。

レインハルトとモルフェの声だ。


「何だ!?」


まさか敵――。


ノエルはルーナに身振りで降りてくるように伝えると、屋敷の中に戻る。

声がしたのは二階だ。

石造りの階段を駆け上がる。


幸運にも、扉は木製だった。


バンッ!


「レイン! モルフェ! 大丈夫か!?」


音を立ててノエルが扉を開けると、そこには信じられない光景がノエルを待ち受けていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 続きが気になります~ ちなみにノエルさん女の子の姿には戻らないのかな?
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