砂漠の國
国境の小屋から出ると砂漠であった。
黒い猫が茶色くなった。
「ぷぇっ! ……何だこのうっとうしい砂は!」
突風で全身に思い切り砂塵をくらったモルフェは、腹立たしげに口に入った砂を吐き出し言った。
「先が思いやられるぜ」
一応整備された道はあるのだが、誰かが通った形跡は全く無い。
雑草さえもほとんど生えていないが、奥に歩みを進めるにつれて、なけなしの小さな草でさえも無くなっていく。
「本当に砂以外、なんにもありませんねぇ……」
ルーナが不安げに言った。
宿屋や店どころか建物すらない。
レイトの街とは大違いだ。
少し歩くと、もう一面の砂漠になった。
一行はルーナが持ってきた昼飯のパンや水をめいめいとりながら歩いた。
座って食べるにしても、砂が入りそうだ。
しばらく歩いても何も変わらない。
砂、砂、岩、サボテンのような硬そうな茎、砂、砂……。
延々と続く光景に、モルフェがぼやいた。
「なあ、本当にこんなところに集落があるのか?」
モルフェはもう自力で歩くのをやめて、ルーナの荷物袋にちゃっかり入っている。
「地図にはこの先に、この辺りでは一番大きな集落があるって書いてあるんだけど……」
ノエルが言った。
「ちょっとレイン、見てきてくれるか?」
「分かりましたよ。全く、鳥使いが荒いですね」
レインハルトは文句を言いながらも、ノエルの胸元から飛び立った。
ルーナが言った。
「攻撃してきたら、どうしましょう……」
モルフェがニャンと鳴いて言う。
「殲滅して奪うか」
ノエルは青ざめたルーナを見て、黒猫の鼻先を指でちょんちょん押した。
「何だヨ」
「物騒なことを言うんじゃない。基本的には敵対勢力であればあるほど話し合いだ」
「殺し合いじゃないのか」
「あのなあ」
ノエルは息を吐く。
殺戮機械ではなく、人間らしくなるためにはまだ時間がかかりそうだ。
「敵ならなおのこと、相手のことを知っていれば知っているほどいい。いいか、基本は対話だ。無用な争いは無い方がいい」
ノエルが諭すように言うと、黒猫はスピッと鼻を鳴らした。
モルフェはノエルのことを平和ボケした貴族だと思っているふしがある。
間違ってはいないが、ノエルの中身は三十年近く裏の世界と渡り合ってきた成人男性である。
危ない橋も何度も渡ってきた。
「視察……情報収集がまず第一だ」
ルーナが顔をあげた。
金色の鳥が優雅に飛んでいる。
戻ってきたレインハルトがノエルの肩に止まって言った。
「集落は、ありました。あと二十分もすれば、この先に見えてくるでしょう」
「攻撃してくるでしょうか?」
ルーナが不安そうにきいた。
「レヴィアスには騎士団があると聞いていますが……」
レインハルトが首を振る。
小鳥の体から小さな羽毛がはらりと砂地に落ちた。
「いや、おそらく、その心配はない」
鼻の穴に入った砂粒を出そうと前足で顔をあらいながら、モルフェが言った。
「どうしてそう思うんだ?」
「着けば分かる」
レインハルトはそっけなく返答し、ノエルの胸元のポケットに潜り込んだ。
さあ、ここからサクサクサクサクと物語が展開!!するはず!!しろ!!してくれ!!頼む!!




