おまえらおかしいよ
※胸クソの悪い回ですが、次回天罰が下るので我慢して下さい。
朝早く、ノエルはふわふわした頬の感触で目が覚めた。
(ん……朝か……なんだこのふわふわ……)
気持ち良いので目を閉じていると、ふわふわは指を舐めてくる。
(あったけぇ……)
ふわふわが去り、ぺろぺろも終わった。
ノエルは穏やかな気持ちで、もう少し暖かな布団の感触を愉しむことにした。
ぶちぃっ!!
「うおーっ!!??」
ノエルは額を押さえた。
衝撃で開いた目に、黒いふわふわが映る。モルフェだ。
「お前、髪抜いただろ!?」
激高するノエルをじっと見て、ぷいっと顔を逸らす。
猫姿がやけに堂に入っている。
「喋れるんだから、普通に話しかけて起こしてくれよ……」
「それより早く外に出てみろ」
「何だよ。レインが体操でもしてるのか?」
「だといいんだけどな」
モルフェが意味深長に呟いて、姿を消した。
宿屋の玄関に出ると、ちょうどレインハルトが空へ飛んでいくのが見えた。
朝の鳥散歩ってやつだろうか。
あれはあれで、鳥生活になじんできているのかもしれない。
適応力の早いレインハルトらしかった。
玄関の外ではルーナがうつむいていた。
ノエルがおはようと話しかけると、ビクッと背を伸ばす。
「ルーナ、どうしたんだ?」
ノエルが声をかけると、ルーナは宿屋の外壁に背中を向けて立った。
何かを隠すような仕草が不審だ。
「ちょっと、いいか」
ノエルはルーナの後ろをのぞき込んだ。
壁には残酷な言葉が書かれていた。
『獣人はクズ』
『絶滅しろ』
『オリテ中に謝罪しろ』
『生きる価値なし』
魔物の血だろうか。
赤い文字で書かれた殴り書きを見て、ノエルは自分の血液が沸騰しそうになるのが分かった。
「おい、これ」
恐ろしく低い声が出てしまった。
まずい、と思う前に、ルーナはびくりと身を震わせた。
「あの、その、ごめんなさい! すみません」
「なんでルーナが謝るんだ?」
「わたしは……わたしが、獣人だから」
ルーナは、落書きを手で擦って消そうとした。
人間の掌と同じ柔らかい皮膚が、魔物の血で赤く汚れる。
むきになるように、ルーナはごしごしと壁を擦った。
「あっ……!」
バキッという音がする。
ルーナの力は強すぎるのだ。
壊れてしまった壁を、ルーナは泣き出しそうになりながらまた擦った。
「もういいよ、ルーナ。やめてくれ」
「ごめんなさい……だ、大丈夫です」
ノエルは、いらいらした。
どうしてこの子は『大丈夫』と繰り返すのだろう?
昨日の夜もそうだった。
どう見たって、決して『大丈夫』ではないのに。
「なあ、ルーナ。俺の目を見てくれ」
「……」
ルーナは落書きの血で赤くなった手をだらんと垂らして、ノエルの目をぼうっと見あげた。
「壊れた鍵のことも、崩れた壁も、この落書きだってさ。全然大丈夫じゃないじゃないか。なんで……」
ガラッと壁が崩れて、端材が地面に落ちた。
その音に引き寄せられたのか。
いつの間にか集まっていた何人かの町人が、その場面を見てひそかに笑い始めた。
「あはははは、あの子、またやってる」
「うるせぇよ、もうあんまり見るなって。かわいそうだろ。見てないふりしなって」
「だってさあ……もう、ここにいるのやめりゃあいいのに」
「オリテに合ってねぇんだよ」
「獣人のくせにねぇ」
「ひどい」
「誰か助けてやれよ」
「汚い」
「臭い」
「誰がやったのかしら」
「関わるなよ」
……
朝方の、道行く町人たちは好きなことを呟く。
しかし、誰一人としてルーナに声をかけ、歩み寄ってくる者はいない。
「ほんと、嫌よね。獣人って。だっさいし臭いし、キモチワルイわ」
身を飾り立てた派手な町女が、その場の主役にでもなったかのように言い放った。
こちらに聞こえるように、わざと大声で言っている。
ルーナは呟いた。
「大丈夫です……」
ノエルは頭を殴られたように衝撃を受けた。
大丈夫と繰り返す人は、特別強いというわけではなくて、誰かにそう言って欲しい人なのだ。
(ばかだ)
ノエルは恥ずかしかった。
(平和ぼけも過ぎてる。俺はおっさんになるまで生きてきて、何でそんなことも忘れてたんだ)
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レヴィアスに行く行く詐欺をしてはや数週間ですが、めげずにギャンバリます。




