レヴィアスへ出立
※レヴィアスに入国するまで、主人公は青ひげのおっさんとなります。ご了承下さい。
画的に我慢できなくなった方は、ep83「拠点作り」へ飛んで下さい。
修道院を出立したノエルたちは、新街道を意気揚々と歩いていた。
結局途中の宿屋に2泊して、ようやくオリテの端までやってきた。
薔薇に例えられた令嬢の紅毛は見る影もなく消え去っていた。
代わりには青い短髪と髭。筋骨隆々とした肉体。
そりたての髭はすっきりさっぱりとして気持ち良い。
ノエルは満足気にチョリチョリした手触りの自分のあごを触った。
(ここまでなんだかんだ、色々あったなあ〜。この期に及んで、ゴリラマッチョ青ひげに変化するとは思ってもみなかったが)
ノエルはしみじみと、筋肉のついた自身の肉体にひたった。
我ながら惚れ惚れするボディーである。レインハルトやモルフェのような、いわゆる若者の見栄えの良い女受けしそうな筋肉ではない。ボディービルダーのような、魅せる筋肉なのである。一度は映画スターのような身体になってみたいという、前世の深層心理が反映されたのかもしれない。
「いやー、清々しい晴天だな!」
機嫌よく言ったノエルの後ろから、黒猫がチョコチョコ着いてきている。
目つきが悪い。三白眼の猫だ。
変化が完了したモルフェだった。
「……」
「おい、なんか言えよ」
「にゃあ」
「モルフェ」
「……猫は喋らねぇ」
「何を拗ねてるんだよ」
「拗ねてない。お前がマジでおっさんだったことに衝撃を受けてるだけだ」
「もう少しゆっくり歩くか? それとも抱っこしてやろうか?」
「いらねぇ!」
毛を逆立ててモルフェは威嚇した。
「カリカリするのは種族が変わっても治りませんね」
どことなくツンとした若い男の声がため息交じりに聞こえた。
が、音の出どころは頭上からだ。
見上げると、青い空に映える美しい金色の小鳥が優雅に飛んでいる。
レインハルトは言った。
「空から見下げると、自分の機嫌すら自分でとることのできない、その滑稽さが際立ちますね」
モルフェが鼻白んだ。
「うっとおしいことこの上ないなお前は! なんなんだ! 弟分みたいに思ってたやつが、突然青ひげのマッチョなおっさんになったんだから、少しくらい無言になってたっていいだろ!」
「俺は知ってましたよ。ノエル様の中にはずっとコイツが入っていたんです」
可愛い顔で小鳥がとんでもない台詞を投げつけてくる。
ノエルは不本意だった。
「あのな、確認するけど、俺はあくまでも前世は成人男性だったってだけで、さすがにこんなゴリゴリマッチョな見た目じゃなかったぞ」
と、ノエルは言った。
東洋人の平均ちょい上の背丈にそこそこの筋肉だった。
こんなハリウッドの映画俳優も顔負けの肉体は馴染みがない。
モルフェは野性的な勘なのか、鋭くノエルを見つめて言った。
「のわりに、ノリノリだったじゃねえか! 昨日修道院で古い男もんのシャツもらって、鏡の前でニヤついてたの知ってるんだからな」
「いやそれはいいでしょ! 少年用のシャツじゃまさに変態みたいじゃないか。パッツンパッツンで! ニヤついてたんじゃなくて安心してたんだ」
「どーだかなっ」
ケッと吐き捨てるように言って、モルフェは後ろ足で砂をかいた。
なんともふてぶてしい猫だ。




