鳥頭と猫耳とおっさん
その朝、レインハルトが気がかりな夢から目ざめたとき、自分がベッドの上で一羽の巨大な鳥に変わってしまっているのに気付いた。
だがしかし、体は人間で、頭部だけが――。
「とりぃぃぃぃぃぃ!?」
と、彼は叫んだ。
夢ではなかった。
それはまさしく地獄絵図だった。
起床して半狂乱になったレインハルトが薬を飲むまで一悶着あったが、三人は車座になって顔をつきあわせていた。
「えっと、プルミエによると、薬の効果は一日経つと発現するらしいんだ」
「つまり、明日の朝にならないと完全な『変身』にはならないってことか」
沈痛な面持ちでモルフェが言った。
毒でも飲んだような顔をしたレインハルトが――いや、正直なところちょっとマズイ餌を食べたペットのインコのような表情、もう表情すらよく分からない、ただの鳥なのだが――クチバシを開いた。
「さらに、七日間で薬の効果は切れる。ということは、です」
レインハルトがさらさらと紙にペンを走らせた。
鳥が羽ペンを使っているのはなかなかにシュールな光景である。
1日目(昨日)薬飲む
2日目(今日)レインハルト・モルフェ 残りの薬飲む
3日目 全員変化 完全完了 出発
4日目 継続
5日目 継続
6日目 継続
7日目 1日目の効果が切れる→ノエル 完全に元に戻る
8日目 2日目の効果が切れる→レインハルト・モルフェ 完全に元に戻る
「問題は7日目です」
トリ頭、もとい、レインハルトが言った。
ノエルは笑わないように、レインハルトの羽毛をなるべく視界に入れないように、あたかも考え事をしている雰囲気で下を向く。
鳥になってもやけにイケメンなのが、一周回って面白い。
「ノエル様は7日目には完全に元の姿に戻る。でも俺たちは、昨日飲んだ一口分の効果だけが無くなるはずです」
モルフェが不満そうに言った。
「おお? ってことはなんだ? 不完全に元に戻るってことか?」
「おそらく」
モルフェとレインハルトは嫌そうな顔で顔を見合わせた。
どうやら同じ想像をしているらしかった。
「じゃあ、今日はもう仕方が無いとして、だ。明日ここを出発して三日間が勝負ってことだな。薬が切れる前にレヴィアスにどうにか入国する。まあ、獣人の国だし――」
「ダメですよね。絶対に迫害されますよね、俺たち」
「国がどうとかじゃねぇ。今の見た目ならともかく、なあ? 考えてみろ。俺たちが後から飲んだ一日分だけ、変身を解き損なった姿を。どう考えても見るからにヤバイ奴じゃねぇか」
ノエルは、ふと人間の耳をした猫と、下半身だけ鳥のイケメンを想像した。
確かに、なんだかそれはそれで、すごくいやな感じだ。
「それは……目立つな……」
と、ノエルは認めざるを得なかった。
昔、生物か何かの授業で習った『不完全変態』という用語が脳裏に浮かんだ。
いや、この場合、トンボやらバッタやらカメムシやらではなく、単純に『HENTAI』と表記するべきだろう。とにかく、不完全な彼らを世に放ってはいけない。
(逮捕は勘弁だぜ……)
というわけで、さしあたり出発を翌日にしたのはいいものの、レインハルトとモルフェは、終日部屋に閉じこもる羽目になった。
そんな二人を残して、ノエルは意気揚々と『おじさん用衣服』の調達に出かけたり、修道院内を見学したり、調剤所でポーションを買ったりと、案外に楽しく過ごしたのだった。
連休の中、勉強とかバイトとか勤務とか家事とか育児とか頑張ってる皆さんお疲れ様でぇぇええす!!私も頑張るんで生き抜きましょう!!




