いざ変身
(信号機みてーだな……)
とノエルは思った。
赤・黄・緑の瓶に入った薬は、ノエルがプルミエから貰ってきたものだ。
あの図書館のような戸棚に入っていたときは小さく見えたが、今こうして手元にあると思いの外大きく感じられる。
ごくり、とノエルは唾を飲み込んだ。
モルフェが自分の口端に着いたパン屑を払い、あくびをしながら言った。
どうやらよっぽど眠たいらしい。
「おい、その前に確認させろ。これは何になるんだ? 効果はいつまでだ?」
「えっと、この中の二つが動物になるらしい。全員動物だと移動しにくいから、一人は人間のまま、髪の色や目の色が変わるようになってる」
レインハルトが目をこすりながら言った。
「俺がゼガルドに脱出したときと同じ薬かもしれません。俺はもともと髪も目も金でしたが、薬を飲んだら銀色になり、髪も伸びたのです」
ノエルはさらさらして艶のあったレインハルトの髪を見た。
普段は質の良い布のようなレインの髪は、今は見るも無惨に埃と泥を被っている。
「ふうん。だが、なら、そんな感じなんだろう。効果は七日だ」
ノエルはさらっと言った。
が、モルフェは見逃してくれなかった。
「なのかぁ? なんでそんな短ぇんだ? 万が一、騎士団や憲兵に見つかったときに、拘束でもされたら言い訳きかねぇぞ」
「俺の『対価』じゃ七日が限界だったんだよ。とにかくこれを飲んだら、すぐに出発する。明日の朝だ。一晩かかるらしいから、朝起きたら姿が変わってるはずだって」
ハッタリでは限界があったが、希望の糸はまだ切れていない。
七日経つ前に、レヴィアスに入国してしまえばこっちのものだ。
「おい、ノエルは人間用のを飲めよ。お前がイチバン常識的だからな。行動が」
モルフェにも非常識な自覚はあったらしい。
確かに秘密の暗殺者やら、ザ・王子様やらに比べれば、多少なりとも一般人寄りではある。
(一応、伯爵令嬢として育てられたんだけどなあ……転生者なんだけどなあ、俺)
納得いかない部分はあるものの、ノエルは素直に人間用の赤色の薬を手にとった。
「よし、いざっ!」
思い切り良く、ガラスの栓を引き抜いてごくんと飲み込む。
フローラルな香りがする。
後味はフルーツのようにさっぱりとして、さらりとしている。
(お、おお! あたかも高級梅酒のような、まったりとさっぱりの交わりッ! 鼻に抜けるふわりとした余韻ッ!)
後半、テイスティングのようになりながらも、ノエルは最後まで頂いた。
「よし! ってあれ?」
気付けば、もう限界だったのか、レインハルトとモルフェはウトウトと船をこいでいる。
「おーい! レイン! モルフェ! だめ! 今日だけはまだ寝ないで! 疲れてるのは分かるけど!」
「うお……ヤベー、マジで寝そうだった」
「思っていたより、疲労しましたね……」
「お前らまだ体汚れてるだろっ。ほら、はやく薬飲んで。共同浴場があるから行ってこいよ」
もはや、兄弟を持つお母さんの気持ちである。
「眠い」
「目が重いです」
「ほら、そこに座ってるともっと眠くなるから! ほら、薬!」
レインハルトとモルフェはそれぞれ手渡された薬を一口飲んだ。
「う……」
「に……」
「ウニ?」
高貴な美貌と野生的な色香が、仲良く叫んだ。
「うえええぇぇっっ!! まずううぅぅっ!!」
「にっっっっがい!!!」




