薬師の隠れ里
「じゅ、獣人って、力持ちなんだね……?」
ノエルは茫然として、目の前の小さな体躯の修道士を見た。
「ふふ、人間よりはですねぇ。でも、僕ら魔法はあまり使えないんです」
と、猫耳少年が言う。
荘厳な装飾の部屋の中には所せましと本が置いてあり、まるで図書館のようだった。
見慣れないのはオリテの色とりどりのガラスの瓶だ。
赤、青、緑、茶色、……黒っぽいものもある。
部屋中が棚で覆われているように思えるくらい、天井までそびえたつ大きな枠に様々な物品がところせましと置かれていた。
「プルミエ様。お連れしました」
と、少年が言う。
「ご苦労でしたね、ニコラ」
部屋の中央に大きな揺り椅子が置かれている。
座って本を読んでいたのは、眼鏡をかけた知的な美人だ。
若者という年ではなさそうだが、老人というわけでもない。
成熟した女性のもつ色気がある。
長い藍色の髪は無造作にほどかれて降ろされていたが、その自然なさり気なさがむしろ美しかった。
「えっと、この方は……?」
ノエルは下がろうとした修道士、ニコラに尋ねた。
ニコラは、ああ、と何でもないことのように言う。
「プルミエ様です」
「どぅにえええぇぇぇぇぇっ!? だって、この人、どう見てもさっきのプルミエ様より……」
若い。
というか、別人だ。
服だけは同じだが、たるんで深く皺の刻まれていた顔はつるりとして、柔らかな皮膚になっている。
魔女プルミエと呼ばれた女は、肉感的な体に手を当てて、ふうとため息をついた。
「こちらの方が話しやすいのでな、失礼するよ。歯があると口が回りやすい」
「え、ええ、はい」
「君もちゃんと歯を磨けよ。老人になったときに歯があるのとないのとでは全然満足度が違うぞ」
「は、はい……」
まだ目の前の女性がプルミエだとは信じられないが、ノエルは頷くしかなかった。
修道院ぐるみで自分をだましにかかっているんじゃないかとすら思える。
プルミエは布張りの茶色いソファをノエルに勧めた。ノエルは素直に応じて座らせてもらう。
「どちらのプルミエさんが本物なんですか?」
「どちらも私じゃ」
「あ、口調は同じなんですね」
「言ったじゃろう、プルミエだと。見えているものが全てではなかろうて」
カッ、カッ、とプルミエは笑った。
「レナード王子にはまだ言っていないことがあるのじゃ」
プルミエは机の引き出しから、何かを取りだして戻ってきた。
予約が正しくできておらず、いつもより遅くなってしまったたた……しゅみましぇん




