放免されたノエル
魔女プルミエは準備があるといって退席した。
残されたのは、全身に変な汗をびっしょりとかいたノエル。
考え込んで憮然とした機嫌の悪そうなモルフェ。
遠くを見る視線が氷のようなレインハルト。
(ま、まだケンカしてくれた方がマシだった……! この冷戦のような空気にハートが耐えられないッ)
ノエルは内心で泣いていた。
過去がヘビー級の二人は色々と思うところもあるのだろうが、同じパーティーにいるうちはうまくやってほしい。
状況を打開したのは、意外な人物だった。
表情筋が絶滅したような修道士が三人をじろりと見た。
先ほどプルミエの世話をしていた彼だ。
「時に、あなた方にお伝えしなければならないことがあります」
修道士はパーティーのリーダーがノエルであることを、会話の端々から察したらしい。
彼はノエルの目を真っ直ぐに見て言った。
「我らが修道院に不埒な真似をする奴らを懲らしめて頂いたとのこと、感謝の念にたえません。
修道院の者として礼を言わせて下さい。ありがとうございました」
「おっ!? おお、いや、特にたいしたことはしてないっていうか、おれ……自分は何もしていないんです。ここにいる二人が……まあ主に一人だけど……」
しどろもどろになるノエルに、修道士は言った。
「ところで、悪党に交じって巡礼者が倒れていたようですが」
ノエルはギクッと固まった。
「その件について、詳しくお話を――」
(うわあああああ、見逃してもらえなかったー!)
「大変申し訳ありませんでしたッ!」
そういうわけで、ノエルは先陣を切って頭を下げたのだった。
修道士は居心地の悪そうなモルフェとレインハルト相手に、こんこんと説教を食らわせた。
*
「はぁ……ヒドイ目にあった」
ノエルは修道院の長い廊下を、小さな修道士に連れられて歩いていた。
あの後、正論と具体例、聖典の引用まで持ち出されて、他人を傷つける罪について懇々と説かれた。
殺生をなりわいにしている冒険者のような俗物に説いても仕方がない話ばかりだった。
だが、それもあの聡そうな修道士は理解していただろう。
理解した上で、長い話を聞かせたのは、正直に言えば単なる嫌がらせ以外の何物でもないとノエルは思った。
「あはは、イールスの話は長かったでしょう。あれは悪い奴ではないのですが、真面目過ぎるんですよぉ」
小柄な体躯の修道士は、軽やかに言った。
レインハルトとモルフェは、というと。
「やめろっ! なんで俺が……」
「俺はやっていない! こいつが暴走して……」
厳格な修道士イールスは、二人の見苦しい言い訳には一切耳を貸さなかった。
イールスがパンパンと手を叩くと、四人の屈強な修道士がどこからともなく現れた。
そして、有無を言わさずレインハルトたちを連れ去って行った。
不幸中の幸いで、ノエルは直接的には『おばあさんビリビリ事件』に関わってはいなかったとみなされて放免されたのだ。
イールスのお説教を頷きながらきいていた態度を評価されたのかもしれない。
小柄な修道士の話によると、レインハルトたちは先ほどのイールスという修道士に連れられ、教会の壊れた部分の修復や、魔獣や植物の除去作業を手伝っているらしい。
ぶちぶち文句を言いながら、修繕作業や除去作業に駆り出されている二人を想像してノエルは合掌した。
まあ、寝る頃には帰ってくるだろう。
遠すぎて廊下の突き当りが見えない。
小柄な修道士は、最果ての地のような目的地をまっすぐ指さして言った。
「プルミエ様はこの廊下の先の研究所におられます。道は少し長いのですが……お疲れになられたらおっしゃって下さいね」
「ああ、これくらい大丈夫です。ここまでたくさん、歩いて来たので」
「そうでした。旅人に言うセリフではありませんでしたね」
ノエルは修道士と話しながら、過ぎていく一つ一つの景色を心に焼き付けるように見ていた。
全ての建築物が、美しい石やガラスの彫刻でできている。
「綺麗なものですね」
と、ノエルは廊下の壁の、赤い目をした獅子の彫刻を見ながら言った。
「動物のモチーフのものが多いのは、何か意味があるのですか?」
小柄な修道士は微笑んだ。
「オリテとレヴィアスの関係についてはご存じですか?」
「うーんと……昔から、ちょっと仲が悪いらしいと……」
ノエルは知っていることを素直に口にした。
「そうです。といっても、ずっと前。百年や二百年前には、友好を保っていたのですよ」
「えっ? 仲良しだったんですか?」
やぁっと週末ですねぇぇぇぇぇ!!フゥゥゥゥ!!華金!!




