ロシュフォール公爵家
※説明回なので、モルフェと一緒にハナホジしながら聞いてください。
「どういうことだよ。レヴィアスとオリテは国交もあるはずだろ」
モルフェの質問のその答えを、プルミエが引き取った。
「交わりがあれども、仲が良いとは限らん。レヴィアスは獣の国。オリテは獣を狩って、永らえてきた歴史がある。処刑対象のオリテの王族が保護を願って出ていけば、レヴィアスでは迫害されるか、あるいはオリテに恩を売るために捕らわれて政治の道具にされるだろうて」
レインハルトは静かで、そっと体を休めている珍しい動物のようだった。
オリテでも、ゼガルドでも、レヴィアスでも追われる身だとしたら、レインハルトが安心して生きられる場所はどこにあるのだろう。
(レインが何か悪さをしたわけでもないのに)
ノエルは哀しくなった。
プルミエはゼガルドの歴史について、淡々と付け加えた。
「ゼガルドにはオリテから、友好を築くために王妃が嫁いでおった。その人こそ、レナード様の叔母。レナード様のご母堂の妹じゃ」
「えっ、待ってくれ。つまりレインハルト……レナードは、ゼガルドの」
「今のゼガルド王妃の甥じゃ」
ノエルは混乱するあまり、円卓をひっくり返してしまいそうになった。
(バリバリの王族じゃん! どこでも王族! ゼガルドでもオリテでもロイヤルまっしぐらじゃん! まずい、俺、レインに不敬なことしかしてないッ!)
ノエルの脳内に、股間に花を咲かせられたレインハルトの驚愕した顔が浮かんだ。
不敬以外の何物でもない。
(え〜……ヤバ……)
可愛がっていた部下が警視総監だったレベルの衝撃だ。ノエルは震えた。
モルフェはモルフェで震えていた。
何かをこらえるように、モルフェは小さな声で言った。
「じゃあ何か、てめぇはゼガルドの王族にも関係あるってことかよ」
「血縁上はそうだ」
レインハルトが認めた。
ゼガルドの奴隷として飼われていたモルフェが拳を握ってじっと黙りこんだのを、ノエルは複雑な思いで見つめた。
レインハルトは淡々と、これまで秘めていた事実を打ち明けた。
「当初の予定では、偽の証明書でゼガルドに入国して、オリテの王妃の手の回る場所に匿われるはずでした。だから、あの日、密かにゼガルドの王宮の裏口へ向かっていたんです。でも、途中であなたに会って計画が変わった」
レインハルトはアイスブルーの瞳をノエルに向けた。
「あの時、オークの襲撃の騒ぎが起こった王宮のパーティーの日、使用人と小さな娘が、母と自分の姿に重なって……どうしても見捨てられなかった。伯爵家まで送り届けて、すぐ戻ろうとした俺に、アイリーン様が囁いたんです。『王妃と公爵家には連絡をつけるから心配しないで』って」
「母様が?」
ノエルには初耳だった。
モルフェが口をはさむ。
「なあ、ブリザーグ伯爵家が、オリテにお前を売るとは思わなかったのかよ?」
レインハルトは、ノエルからもモルフェからも目を逸らさなかった。
真っ直ぐにモルフェに向き合ったレインハルトは言った。
「いや。思わなかった。そもそも俺が行くはずだった場所は、ゼガルドの王妃様が秘密裏に連絡が取れる唯一の場所だった。そこがブリザーグ伯爵家に通じていたんだ」
ノエルは息をのんだ。
「王妃と繋がることができる貴族……っていうと……」
王族には身分の高い貴族でないと謁見することさえ難しい。
その中でも、ゼガルドに嫁いだオリテの姫が信頼を寄せる唯一の貴族。
室内にはオリテ特産の美しい色付きガラスから、陽の光が射し込む。
ノエルはふと、秘薬の入った美しい瓶を思い出した。オリテの彫刻をされたあのガラスも、ちょうどこの窓のガラスと同じ、澄んだ輝きだった。
レインハルトはすべてを吐き出し切るように言った。
「俺は元々公爵家に匿われるはずだったんです。伯爵家のアイリーン様のご実家の、ロシュフォール公爵家に」
それを聞いて、ノエルはなぜ伯爵家に『オリテの秘薬』があったのかを悟った。
ノエルの魔力の封印を解いた薬。
出立の時に渡された二つの薬。
オリテの秘薬。
(親戚関係のロシュフォール公爵家と、ブリザーグ伯爵家。オリテから嫁いだゼガルドの王妃。オリテの前国王夫妻。オリテの修道院。オリテを追われたレインハルト……いや、レナード王子)
それらは全て、繋がっていたのだ。
あの十年前の日に。
出立の日、アイリーンは確かにノエルではなく、レインハルトに瓶を渡していた。
何故だろうかと思っていたけれど、その理由はここにあったのだ。
(確かに俺なんかより、レインハルト……レナード王子に相応しいな。『オリテ』の秘薬は)
プルミエは皺の刻まれた頬に微笑みを乗せた。
「さあ、王子とそのお仲間方。ご所望の薬をお聞きしましょうな」
コメディー日間3位、週間2位
ありがとうございました。
この魔法シーンが全くカッコよくない話が……すごくないですか? 私でなくあなた方がね……すごいよ……このマイナーな話を押し上げてくれて……全員優勝や……ありがとうありがとう
どうか完結まで一緒に走って下さい!!!(バカデカボイス)




