オリテ国とレインハルトの真実
少し腰が曲がっているが、杖をついて歩くのに差し障るほどではなさそうだ。
(修道院は修道士の男ばかりが集まってるはずだが、レインは魔女と言ってたな)
ノエルは椅子から立った。
隣の二人も老人が通りやすいように一度立って道を開ける。
ふさふさした白髪の上にちょこんとした帽子が乗っていて、赤と金色で刺繍をした大きな鳥の模様の入ったローブを着ている。
体が小さいので、まるで小人が掛布団にくるまれているように見えた。
「失礼。私はプルミエと申しますじゃ。巡礼者の祈りが長引いて……お、おお、そなたは」
プルミエは白い眉毛の下で、しょぼしょぼと目を瞬かせた。
立ち上がったレインハルトの長身にぐっと手を伸ばす。
レインハルトは身をかがめて、老婆に顔を見せた。
「お久しぶりです」
金色の星のようなプルミエの瞳に涙が浮かび、キラリと光った。
「おお。おお、よくぞ……よくぞ戻られた。大きくおなりになって」
「プルミエ様もお元気で、良かったです」
レインハルトはかみしめるように言った。
知り合いらしい。
ノエルは久々の再会を邪魔しないよう静かに、にこにこしていた。
(このままモルフェが一般人にパラライズをぶっ放した罪もオトガメなしにならないかな~)
と思いながら、ノエルは訳知り顔でウンウン頷く。
罰金を回避したいことこの上ない。
モルフェとノエルが椅子に座って、居心地なさげにしている間に、魔女ことプルミエとレインハルトは盛り上がっていた。
プルミエにいたっては曲がっていた腰がしゃんとして真っ直ぐになっている。
見目麗しい男子というものは、老人にも若さを与えるのだろう。
(経理の事務のオバチャンも、アイドルにはまって若返ったって言ってたな~。そんなもんなんだろうな~)
と、ノエルは一人、納得する。
プルミエは重そうなローブをパタパタしながら話していた。
「わしも年じゃが、もうちぃっと、くたばるのには早かろうて。この国の行く末を見届けるまでは死ねんですわい」
「まだまだお元気でいてもらわないと困りますよ」
レインハルトが美貌をあますところなく有効利用している。
(よし! ファンサービスで罰金回避してくれよ、レイン! 頼んだぞうちのアイドル!)
ノエルがそんな声援を送っていると知ってか知らずか、プルミエは満足そうに息を吐いて、円卓に座った。
「それにしてもこうして会えるとは驚いた。もう十年になりますかな。またお会いしたいと思いつつ、戻らないかもしれないとも思っておりましたよ。こちらがレナード王子のお仲間なのですね。ずいぶんと屈強な方と、お可愛らしい方と。冒険者なのですか?」
ノエルはニコニコして
「はぁ、縁あって、一緒に旅をしている者でして~」
と言ったところで首を傾げた。
(ん?)
今、何か聞き捨てならないことを聞いたような気がする。
モルフェを見ると、臭いものをかいだ猫のような顔をしていた。
表情はともかく、心情はノエルも一緒である。
ノエルは咳払いをして言った。
「あーの、プルミエさん。すみません、ちょっと確認したいのですが」
「はぁ、お仲間にも恵まれて、ああ、王子が息災であれとこの十年間、祈りを捧げておりました……このプルミエ、神の御慈悲をこんなに感謝したことはございますまい」
「あっ、スミマセン、感傷にひたっていらっしゃるところ申し訳ないんですが」
ノエルがさえぎると、プルミエはガラス玉のような瞳を不思議そうに瞬かせた。
途中で悪いとは思ったが、いたしたない。
ノエルはどうしても聞きたかった質問をプルミエにぶつけた。
「今、『王子』って聞こえた気がしたんですけれど……」
「レナード王子のことですか?」
「そう、それ。誰ですか?」
レインハルトが言った。
「俺です」
プルミエはキョトンとしてノエルを見て、追い打ちをかけた。
「この方ですよ? あなたのお隣の――オリテ王国の第一王子、レナード様です」
なんかうまく言葉にできないんですが、ほんと、いつも見てくれて応援してくれて、私の妄想という名の小説に付き合ってくれて、ありがとうございます……!! 名前分からないけど、指押してくれるアナタたちに救われて書いてるんだぜ ありがとー!!! 完結までがんばるます




