魔女プルミエ
「事情をお聴きします」
と言った屈強な門番に連れられて、ノエルたち一行は塀の中に入った。
巡礼者の長い列を離れ、身分確認もなしに中に入れたのは良い。
ステンドグラスが張られた美しい建物に案内されたのも良い。
良かったのだが、これはどう考えても取り調べだ。
(なんか、馴染みがある風景だな~……懐かしいぞ)
意味もなくワクワクする。
が、この後のことを考えると少し気が重い。
ノエルたちは大きな円形のテーブルに座らされた。
それだけであればまだ、お茶会のような雰囲気だが、ノエルたちの両端には屈強な門番が立っている。
「お前のせいだ」
レインハルトはまだ未練がましくテーブルの下でモルフェを小突こうとしている。
「なんでだよ。んなに文句言うんだったら、俺が動く前にお前が動けばよかっただろ」
モルフェも言われっぱなしではない。口を尖らせて反論している。
「簡単に言うな。動こうとする前に、俺の前にお前がズイッと出てきたんだ」
「俺を連れて行ったのはお前だろうが。それなら最初から一人で行けばよかったんだ」
「そういう話をしているんじゃない! だいいちお前は自分勝手過ぎる」
「んだよ、仲良しごっこなんざ御免だ」
「こちらのほうこそ遠慮する。そうでなく、護衛という仕事を考えろ」
「バァサンの護衛になったつもりはない」
「そういう話じゃないだろうこの馬鹿者」
「あぁ!? 馬鹿って言ったテメェの方が馬鹿だ」
もう言い合いが小学生レベルだ。
ノエルは見かねて口をはさむ。
「あのさあ、二人とも」
レインハルトとモルフェの背中がピッと伸びる。
身長は二人に思いっきり負けているというか勝負にならない。
が、人生経験だけは豊富なノエルだ。
「モルフェはさすがに魔法が上手だね。ちょっとやり方がまずかったけど、人質も一応無事だったし良かったね」
モルフェが眉を上げてノエルを見た。
頭ごなしに怒られると思っていたのか、予想がはずれた顔をしている。
「レインも悔しかったよね、剣抜いて出て行ったのに一つも使えなかったもんね」
レインハルトは対照的に眉をひそめた。
心外だと言われるかと思ったが、言い返してこないのを見るとわりと図星らしい。
「二人が一緒に戦おうとしてくれて有難かったよ。これからも二人に頼むことが多く出てくると思う」
レインハルトとモルフェが居心地悪そうに長身をすくめている。
こういうところだけは連携がとれている。
ノエルは二人の目を交互にのぞき込んで、『令嬢』にしては少し低い声で言った。
「仲良くはしなくていい。でも、うまくやってくれるか?」
ヒュンッとモルフェが息を吸った音がした。
レインハルトがコクコク頷いている。
ノエルはにっこり微笑んだ。
それが妙な威圧感を放っている自覚はまるでなかった。
「俺が言ってること、分かる?」
とノエルが言うと、
「……ハイ」
「……ああ」
二人はおとなしく頷いた。
その時、
「いやいや、お待たせしましたなぁ」
と、円卓に座った人物がいた。
しゃがれた声や見た目では男か女か判別が難しいが、老人であることは確かだった。




