修道院の魔女(3)
(あぁ~……ケガするなよ)
気分は親というか、上司というか、祖父というべきか。
ノエルは固唾をのんで、見守った。
きっと、レインハルトが三人組の注意を引き付けて、モルフェが魔法で敵を無力化するのだ。
鮮やかなコンビネーション技がさく裂するかもしれない。
何しろ、先日は二人仲良くノエルの魔法『フローラ』によって、胸やら股間やらに花が咲き乱れていた二人である。
「仕方ねぇ、やるか」
モルフェがコキッと首をならす。
「わかってるな」
とレインハルトが横に並んで剣を抜いた。
「当然だ。俺が麻痺させて敵を無力化する」
モルフェが指先から、パチッと火花を出した。
(おお! 思ってたよりいい感じだぞ! 粗削りだが相棒感が出てる。こいつらが刑事だったらかなりいいコンビになったんじゃないか)
ノエルは期待を胸に、若手たち――現在のノエルより年上ではあるが――を見守った。
そっと素早く歩み寄った二人は、門番の影から一気に飛び出した。
そしてレインハルトが剣を構える。
その前に――
モルフェが手をかざし、魔力を放った。
「麻痺せよ、『パラライズ!』」
黄色みがかった大きな球が三人組を直撃する。
「えっ」
と、レインハルトがモルフェを見た。
モルフェは視線をぶらさずに真っ直ぐ前を見ている。
パラライズのチリチリッという静電気のような嫌な音が聞こえる。
ばた、ばたっと、自由を奪われた人間が地面に倒れ伏した。
(三人……いや、四人……?)
見ていたノエルは数秒後に状況を把握し、青ざめて、叫んだ。
「おばあちゃーん!」
三人の悪党の隣で、地面に転がったのは罪もない老婆だった……。
「か、川が……川が見えるのう」
「おばあちゃん大丈夫ッ!? しっかりして!」
「花畑じゃぁ~。きれいな花じゃのう」
「その川ゼッタイ渡っちゃダメなやつだからね!? 岸辺にいて! 岸辺に!」
ノエルが必死で看病をする傍で。
「なんでいきなり魔法を放つんだ!? 何なんだお前は」
レインハルトとモルフェは言い争っていた。
「それが一番手っ取り早いだろうが。ほら見ろ、悪党どもが無力化した」
すねるように言うモルフェも少しまずいなと思っているのか目を合わせない。
「人質にもあたってるんだ! おばあさんが麻痺してるだろ!? 馬鹿か? 馬鹿なのか?」
「人数的には功績と罪が3と1だろ。いいことのが多いじゃねェか」
「罪をッ! 犯すな!」
「人間は罪を背負って生きてる」
「お前と哲学的な話をしたいんじゃないッ! 今の行動とお粗末な思考を悔い改めろと言ってるんだ! どう考えても俺が剣技で敵の注意をひいて、人質が離れたらお前が魔法で攻撃のはずだ。戦いのセオリーだ。常識だろう」
「お前の常識なんか、知らねーし。言ってくれねぇとわかんねェもん」
「ッ……!」
レインハルトが怒りで口がきけなくなっているのを、ノエルは初めて見た。
(ヤベー新卒の育成に運悪くあたった、若手警官みたいだな……)
と、ノエルは発情期の鶏のようにけたたましく鳴いているレインハルトを生温かく見守った。
流れるような連携は、まだまだ先のことらしい。
その後、門番の麻痺直しの薬により、すぐさま回復した老婆は言った。
「電気ショックっていうんじゃろうか~? 酷かった腰痛が不思議と良くなったわ」
結果オーライも、はなはだしい。
ノエルはため息をついた。




