修道院の魔女(2)
門番は押し問答をしていた。
「……と、言われても困る。お引き取り下さい」
「おいおい、遠い道のりをはるばるやってきたのにそりゃあ冷たくねーかァ」
「何も全部出せって言ってるんじゃないんだ、修道院のポーションをちょーっと分けてくれりゃあそれでいい」
門番と話しているのは三人組のようだ。
が、何やら様子が不穏だ。
ノエルはもめごとの原因を探ろうと、列の中から身を乗り出した。
「ここでしか買えないなんて勿体ねぇよ! 俺らが城下に持ってって売ってやるって」
「そうだな……百個単位でどうだ?」
「お引き取り下さい。次の巡礼者の方、前へ」
厳つい門番たちは二人でてきぱきと巡礼者の列を前に進めた。
双子のようによく似ている。
無視を決め込まれて、三人はいらだったようだ。
「なめんなよ! ふざけてんじゃねぇぞ」
「せっかく下手に出てやったのに」
「俺らの後ろにはつよーい盗賊団が付いてんだぞ。痛い目にあいたくなけりゃさっさと商品もってこい」
巡礼ではなく、ただのタカリのようだ。
ノエルが飛び出そうとしたその時、レインハルトがその体を押しとどめた。
「待って下さい。大丈夫です」
「でも、押し入ろうとしてるぞ。あいつら、無理やりなんか……商品とかをとっていこうとしてるんじゃないのか」
「そうですが、サン・ルキナスの門番がこんな程度で負けるわけがないので」
そんなことを話している間に、男たちの一人が門番に斬りかかった。
「悪く思うなよっ!」
門番は驚いた様子もなく、鼻から息をフーッと吐き出した。
「……熟した果実に蠅がわく」
そして、簡単に男の腕をひねりあげた。
「いっ……いでででででぇぇ」
男の手から、中サイズの剣がカランと音を立てて地面に落ちる。
「離しやがれ! 『ファイア・ボルト』!」
別の奴が魔法を放った。
すると、右隣に控えていたもう一人の屈強な門番が、
「プロテクト」
と詠唱する。
ボールをやすやすとキャッチするような、流れのある防御だ。
火の玉はパンッと音を立てて消滅した。
最後に残った男は、青ざめて周りを見た。
「くそ……おい、そこのバアさん! こっち来い!」
男は巡礼の列に並んで順番を待っていた老婆の腕を引いた。
首元に石でできたナイフを突き付けている。
「おい! 人質が見えねぇか!? さっさと道を開けろ」
門番が逡巡する。
「早くしろ! このバアさんやられてもいいのか!?」
男は高圧的に言い放った。
ノエルは腹を立てて言った。
「あいつ……!」
いつの間にか復活した男どもも、にやにやと下卑た笑みを浮かべて、人質をとった男の後ろについている。
「レイン、いい? もういい? いっていいよね?」
「駄目です」
「なんで!!」
「ノエル様が放った『ただのファイア』で、どれだけの被害があったと思ってるんです?」
「うっ……」
「ここは歴史的な保存物がたくさんあるので、壊してしまった場合別の意味でお縄につくことになるかと」
ぐうの音も出ない。
ノエルは酸っぱいものを食べたときの表情になって黙った。
身に覚えしかない。
「まあ、さすがにあれはよくありませんね」
と、レインハルトが前に進み出る。
眠たそうにしているモルフェの肩を、レインハルトはポンッと叩いた。
「お前も行くんだよ」
「はぁ? なんで?」
「俺だけじゃ心もとないからな」
「ふざけんな、一人でケツもふけないのに喧嘩なんか売ってんじゃねぇよ」
「喧嘩じゃない。人助けだ」
「うるせぇよ、なんでわざわざ仕事でもないのに知らない奴のもめごとを解決しなきゃいけねぇんだよ」
ノエルは自分の役割を認識した。
「モルフェ」
と、黒髪の長身の名前を呼ぶ。じっと目を見る。
「行ってくれる?」
モルフェは口をへの字に曲げた。
「ずりーよなぁぁぁ! ノエルはこういうときだけ主人面しやがるしよ!」
「してないよ、モルフェが頼りになるから頼りにしてるだけ」
「ほんとさああ! そういうとこだぞお前! 人たらし! ムカつく!」
レインハルトがフンと鼻で笑った。
「ノエル様に忠実なのはお前の数少ない長所の一つだな」
「うるせーっつの」
結局やる気になったモルフェはレインハルトと連れ立って門番へ近づいた。
ノエルはワクワク・ドキドキ・ハラハラが混じった気持ちで若者二人を見守った。
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