真実の泉2
「なんだ?」
「えーっと……」
しばし、二人、裸で見つめあう。
ピチチチと頭上で鳥が鳴いた。
男と男、男と女、いや、青年と少女、令嬢と元奴隷。
とにかくノエルとモルフェは対峙した。
非常にシュールな絵である。
下半身は互いに水に浸かっているため見えないのが画的に幸いしている。
だが、上半身まる出しの状態で、もう言い逃れはできない。
(だが、モルフェ! 俺はお前にも秘密を持ちたくないんだ。仲間として!)
ノエルは静かに言った。
「モルフェ。俺を見てくれ」
「見てる」
「お、おう……そうなんだけど……何か言うことはないか?」
「あ?」
モルフェは少し考えて首をひねった。
「あんま突っ立ってると風邪ひくぞ」
(それだけ!?)
ノエルは愕然としてモルフェのバキバキの腹筋と傷跡の残る体を見た。
その後、自分のつるんとした卵のような肌を見る。
(いや、どう見ても全然違うぞ? この、THE男っていうあいつの体と、俺、ノエルちゃんの体はゼンゼンチガウよ? お? どういうことだ? あいつ何なの? 視力奪われてる? ブラインド? 魔法か?)
モルフェはざぶざぶとノエルの横を通過し、さっさと泉から上がってしまう。
事の成り行きを見守っていたレインハルトに、モルフェはぞんざいに言った。
「ノエルは鍛えなさすぎだな。男にしちゃあ胸に肉が付きすぎだ」
「……そうかもな」
「お前も護衛ならもう少しちゃんと主を見てやれよ」
「……その言葉そっくりそのままお前に返すよ」
「はぁ?」
泉の中、臍まで澄んだ水に浸かりながら、ノエルはそっと、慎ましやかな自分の膨らみに両手を当てた。
確かにボンキュッボンというわけではない。
ないけれども……。
「なんだろう、この虚しさ……」
かくして、奇跡的に女だとばれなかったノエルは、言い知れない複雑な思いで出立したのだった。




