戦闘とは(2)
レインハルトは視線で人を射殺せるのではないかという目をしていた。
ノエルは、木陰で膝を抱えて座りながらこちらを見てくるレインハルトをなるべく意識に入れないように、集中した。
「防御は反射だ。目の前に飛んでくる拳に網をはるバカがいるか?」
(はい、います、ここに……)
と言おうか迷ったが、ノエルは黙っていた。
余計なことは言わない方がいい。
モルフェはつま先をトントンと地面に打ち付けた。
「拳を振るわれそうになったらお前はどうする」
「え……」
補導する、公務執行妨害で逮捕する、ただのフカシだと捉えてあえて避けない、いろんな選択肢が頭の中に思い浮かぶ。が、それは前世の記憶だ。ノエルはえーと、と考えた。
すると、モルフェはゆっくり拳を振り上げた。
わざと、なのだろうが、野生生物のように獰猛な感じのモルフェに無表情でそうされると、何となく身構えてしまう。
ノエルは思わず自分の額を守るように手をかざした。
「そう。それだ」
モルフェが言った。
「今、反射的に手を出しただろう。それを魔法でやるだけだ」
「おお? なるほど?」
案外にわかりやすい。
モルフェは言った。
「魔法はイメージだ。考えたように放つ。詠唱はイメージを強くするためのもんだ」
モルフェの説明ははっきりとしていて、明確だった。
(結構、面倒見がいいのかもしれない)
ノエルが学院で習ったことと違う。
(学院では、『詠唱をすると魔法が発動する』と言われた。それに何の疑問も持ってなかったが――)
モルフェは
「バリアって言っても何種類もある。自分の周り全体に膜を張るのか、部分的に盾代わりの分厚い壁を出すのか、詠唱するのかしないのか」
「詠唱しないだって?」
ノエルは思わず聞き返した。
「そんなことあるのか?」
「お前と戦ったときやっただろう」
モルフェは何でもないことのように言った。
あの時の、パリン、と皿の割れるような音をノエルは思いだした。
ノエルの放った『ファイヤー』は、確かに無効化されたのだ。
「さっき言っただろう。あくまでもイメージを強くするためのもんだって。イメージさえできれば……」
モルフェはレインハルトに顔を向けた。
「おい。テメェ俺に斬りかかってこい」
「本気でいくぞ」
「はは」
モルフェは笑った。
(こいつ、なんで俺らに負けたんだろう?)
ノエルは不思議だった。
普通にしていれば、モルフェの戦闘能力も経験値も圧倒的にノエルより高い。
レインハルトは所在なさげにしていた手を腰に置いて、剣を抜いた。




