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おっさん令嬢 ~元おっさん刑事のTS伯爵令嬢は婚約破棄と国外追放をくらいましたので、天下を治めて大陸の覇王となる~  作者: 丹空 舞
(4)オリテ入国 モルフェ出現

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白虎と黒豹

ノエルはレインハルトの買ってきた昼食を頬張った。

この世界にもガーリックのような『オーヒル』という代物がある。

ノエルは躊躇なく、オーヒルのペーストがべったりと塗られたグレッドにかじりついた。


大口を開けても誰もとがめない。

長細い形は、そのまま噛み千切ってくれといわんばかりに、ふっくらした茶色い生地を見せつけている。


令嬢の身分では絶対に与えられなかったB級グルメである。

ノエルは喜び勇んで二口目を頬張る。

男装しているからか、レインハルトも何も言わない。

最高だ。


(あ~……メシは生き返る~! このグレッドってやつ、腹にたまるところがイイな。なんつーか、欲を言えばアヒージョみたいにアツアツの油にひたしてハフハフしたい。ほんでもって、ここでキューッと一発、麦の酒がありゃあな! 最高なんだけどな!)


呆けたモルフェの横たわるベッドの隣に腰掛けたノエルが、のんきにモグモグと咀嚼していると、レインハルトがスッとカップを差し出した。


「おっ……?」


中にはしゅわしゅわと弾ける黄色っぽい飲料物。


(も、もしや!?)


期待しているノエルに、レインハルトはにっこりと美しい顔を上品にほころばせる。


「エールですよ」

「もしかして、こども……」

「もちろんです」

「あー……」



あからさまにがっかりしたが、ノエルは一応、せっかくの飲料物を受け取って

「ありがとう……」

と呟いた。


いつまで子ども扱いされるのだろう。


「一応、俺、三十越えてたんだけどなぁ……」

ぼそり、とノエルが言うと。

「前世は前世。今は今、です」

何かを達観したようにレインハルトがきっぱりと言った。


(そんな、ヨソはヨソ、ウチはウチ、みたいなこと言わなくてもいいじゃねぇかよ……)


なんとなく、割烹着を着たレインハルトの幻覚が見える気がする。

ノエルは少しばかりしょぼくれながら、チビリチビリとこどもエールを舐めるように飲み始めた。

全く潔さの無い、どちらかというと意地汚い所作である。

あたかも公園で暇を持て余した世捨て人が、手酌で日本酒を飲むような、そこはかとない哀愁が令嬢の背中に漂った。


「で。どうですか、此奴の具合は」

レインハルトが、あくまでも品良くサラミ入りのハードブレッドを千切りながら、ノエルに尋ねた。


「んー? モルフェ、どうだ? 立てそうか?」

「いや、さっき起き上がろうとしたら体の中のモンが口から出そうになった」

「おいおいどういう状況だソレは」

「なんつーか、脇腹の辺りが……正直、体の半分が作り替えられてるような変な感じだ」


ノエルとモルフェのやりとりを聞いていたレインハルトが、ふむ、と口元に手を当てて、考えながら言った。

「さすが、幻の『蘇生薬』なだけあったということですね」

「あ? ンだよそりゃあ」


粗暴な言葉が素なのだろう。

横たわりながら目だけ動かしたモルフェを、レインハルトは躾の悪い犬を見るような侮蔑的なまなざしで見やった。

「蘇生。すなわち、老いた生命を再び活性化させるということだ。オリテの伝承にはこう伝えられている、『生命の源流を口にするもの、すなわち永続成る』と」

「どういうことかサッパリわかんねぇ」

「理解力の無い頭にも分かるように言ってやろう。つまり、ありていに言うとだ。陳腐な表現になるが、『簡単には死ねない体になる』ということだ」

「……あ`?」


モルフェがぐるん、と黒目を動かした。


「ふざけてんのかテメェ」


レインハルトがピクリと眉をひそめた。

「俺はお前の態度の方がふざけていると感じるが? 少しは自分の置かれた立場を考えろ」



「それがわかんねぇからきいてんだろうが」

「その態度が無礼だと言っているのだ」

「何だ? やんのか?」

「内臓が足りていない状態で何ができるっていうんだ? バカなのか? 戦いで脳までも欠損したか?」

「その言葉後悔させてやる」

「俺は今まさにお前を蘇生したことを後悔している」

「くっ――!」



(昔、出逢って5秒で恋に落ちる、とかいう広告あったなあ。こいつらは出逢って2秒で殺し合いで、目覚めて3秒で犬猿の仲か)


と思いながらノエルは、孫を見守る好々爺のように、まったりとエールをのみのみ二人を眺めていた。

犬や猿のような可愛らしいものではなく、ホワイトタイガーVS黒ヒョウの構図の方が近い。


(巡り合わせって奴は面白いなあ)


レインハルトとモルフェは年齢も近そうだし、なんとなくライバル心もあるのかもしれない。


(最近の若い奴は野心もあるし、しっかりしてるからなあ。おっさんはそいつらを見守るくらいがちょうどいいさ。仕事のできる部下は何人いてもいいしな。まあ、できねぇ奴を育てる楽しみってのもあったが――)


教育係も歴任してきた前世の自分が懐かしい。

ノエルは、ギャルゲーに興じていた、少し頼りない若手の顔を思いだした。

きっと自分に厳しく刑事のイロハをたたき込んだベテラン刑事たちも、内心はこんな思いだったのではないだろうか。



モルフェはまだベッドの上で叫んでいる。

「どういうことだ! 死ねないって病気も怪我も全部拷問になるじゃねぇか地獄だろ! それが狙いか!?」

「ノエル、魔法でこいつの口にありったけの氷を詰め込んでやってくれませんか」

「おい、逃げんな根暗メガネ! どうしてくれんだ、お前には人の情けってもんがねぇのか」

「フン、せいぜい何百年何千年と老体で病みながら生き延びて、歴史の生き証人となるがいい」


「こら、レイン。そういう嘘はかわいそうだろ。ちゃんと本当のこと言わないと」

と、ノエルは取りなした。


レインハルトは珍しく不快感をあらわにして、チッと舌打ちをすると、腹いせのようにグレッドを千切り始めた。


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